第6話 進む道
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「リリーティア」
エステルの声に、ハルルの樹を眺めていたリリーティアは彼女へと視線を移した。
「・・・私、どうしたらいいでしょう?」
「・・・・・・」
よほど悩んでいるのか、とても困っている表情を浮かべていた。
エステルのそんな様子に少しばかり同情的な感情が溢れたが、リリーティアは率直な考えを伝えた。
「身の危険を知らせたいという当初の目的は達成されたから、本来ならここで帰るべきだと・・・私は思う」
「・・・そう、ですよね」
リリーティアの意見にエステルは心なしか落ち込んだようだった。
心は痛んだが、リリーティアは騎士の立場としての意見を優先して伝えた。
もしも、立場関係なく、己自身の意見としてならば、本当はどうしたいのか自分自身で決めるべきだということが実のところだった。
傍で見守っているカロルも、落ち込んでいるエステルに何か言葉をかけるべきか戸惑っており、彼女らの周りには静寂した時間が流れた。
「リリーティア特別補佐!エステリーゼ様!」
その時、その静寂を破ったのは、街の入り口の方から響いた大きな声だった。
「ルブラン小隊長」
見ると、それはルブランだった。
その後ろには見習い騎士のアデコールとボッコスもいる。
無事にあの森を抜けられたようで、3人の変わらない様子にリリーティアはほっと安堵した。
「これは、リリーティア特別補佐もユーリと姫様を追いかけていたのでありますか?」
「まあ、そうなのですが。少し事情がありまして・・・」
「事情ですか・・・?」
どう説明したらいいものかと、リリーティアは困った。
脱獄したユーリを野放しにしている上に、エステルを連れ戻すこともせず一緒に旅を続けているなど、正直に話せば、生真面目な性格上の彼は、自分の行為は騎士としては愚かな行動だと思うだろう。
「とりあえず、ご無事でなによりです。エステリーゼ様、我らと共に帝都へ戻りましょう」
「帝都まで丁重にお送りするのであ~る」
「あとはユーリをとっ捕まえればいいのだ」
ルブランたちは、エステルを無事に保護したことに安堵すると、次はユーリがいないか周りを見渡し始めた。
「リリーティア特別補佐、脱獄犯であるユーリ・ローウェルはどこに?」
「・・・リリーティア」
エステルはリリーティアを見た。
彼女のその眼差しに、ユーリに対する誤解を解いてほしいという強い思いを感じ、彼女はルブランに向き直った。
「すみません、少し待って頂けますか。ユーリのことなのですが・・・」
その時、ルブランがはっとして街の奥のほうを見た。
リリーティアも見ると、街の中からユーリが歩いてくるのが見え、リタも一緒だった。
ルブランはユーリを見つけるやいなや、その顔は一瞬にして厳しい顔つきに変わった。
それを見たリリーティアは少し気が重くなった。
誰よりも生真面目な彼のことだから、このままでは是が非でもユーリを捕まえようとすることは分かっている。
「ここで会ったが百年目、ユーリ・ローウェル!そこになお~れぇ~!」
「今回はバカにしつこいな」
ルブランたちがいてもまったく動揺を見せないユーリ。
それどころか呆れた目で彼らを見ていた。
「昔からのよしみとはいえ、今日こそは容赦せんぞ!」
「ユーリは悪くありません。わたしが連れ出すように頼んだのです!」
今にもユーリを捕まえようとするルブランの気迫に、エステルは慌てて止めに入った。
「ええい、おのれ、ユーリ!、エステリーゼ様を脅迫しているのだな!」
一層、ユーリを鋭い目で睨むルブラン。
リリーティアはルブランの前に立って、彼を宥めようとした。
「ルブラン小隊長、どうか落ち着いてください。エステリーゼ様の言うことは本当です」
「ユーリ、貴様!我らが特別補佐に対しても、脅迫を・・・!」
上司である彼女の言葉でさえもルブランは脅されていると勘違いし、寧ろ、自分たちの上司が脅されていると知ってさらに躍起になったようである。
リリーティアの言葉は、ある意味逆効果となってしまった。
「ルブラン小隊長、これは脅迫ではなく-------」
「事情はわかりましたぞ、リリーティア特別補佐!我々が必ずユーリを捕まえてやりますから、どうかご安心ください」
そう言うと、ルブランはアデコールとボッコスにユーリを捕まるように指示を出した。
二人の部下は剣を抜き、じりじりとユーリに詰め寄っていく。
「(分かってない・・・!)」
リリーティアは頭を抱えて、呻いた。
自分の大切な隊の仲間であるが、さすがにこれには彼女も頭が痛かった。
「・・・ワフゥ?」
「・・・大丈夫・・・たぶん」
頭を抱えて項垂れるリリーティアに、ラピードが傍に寄ってきてくれた。
心配してくれていることが分かりそれは嬉しかったが、彼女の表情から苦悩の色が消えることはない。
その間に、ユーリはアデコールとボッコスを返り討ちにし、彼ら二人は地面に倒れこんだ。
それは、もうあっという間に・・・。
「ええいっ!情けなーいっ!」
見兼ねたルブランは、自分も剣を抜いてユーリに刃を向けた。
「これはわたしの意志です!必ず戻りますから、あと少し自由にさせてください」
これ以上無駄な争いは避けたいと、エステルは自らの決意と共に大きく叫んだ。
あの時はどうするべきか悩んでいたが、おそらく心の中ではユーリたちと共に旅を続けたいという思いがすでにそこにあったのだろう。
もちろん、フレンの身の心配もあるが、なによりも、もっと外の世界をユーリたちと共に見たいのだ。
「それはなりませんぞ!我々とお戻りください!」
しかし、その決意も虚しく、ルブランはそれを許さなかった。
おそらく、どう説得しても堅物な彼であるから、ここでエステルを保護し、ユーリを捕まえようと行動するだろう。
しかし、それは間違いでない。
彼も彼なりの信義があり、騎士としての誇りを持って行動している。
エステルの身を案じ、脱獄という不義は許さないという、彼の熱い想いがそこにはあるのだから。
それを知っているからこそ、リリーティアはこの状況をどうするべきかと心中惑っていた。