第6話 進む道
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アスピオを発ち、再びハルルの街へとやってきた一行。
正常に結界魔導器(シルトブラスティア)は機能しているようで、ハルルの樹の花は鮮やかに咲き誇り、たくさんの花びらが舞っている。
「げっ、なにこれ、もう満開の季節だっけ?」
「へへ~ん、だから言ったじゃん。ボクらでよみがえらせたんだって」
驚くリタに、カロルは鼻高々に大きく胸を張ってみせた。
得意げな態度が気に障ったリタは、彼の頭に容赦ない手刀打ちを食らわせた。
そして、瞳にうっすらと涙を浮かべてうずくまるカロルを気にも留めず、彼女は街の中へと走っていってしまった。
ハルルの樹の様子を見に行ったようだ。
「ああ、皆さんお戻りですか。騎士様のおっしゃったとおりだ」
その時、ハルルの長がリリーティアたちを出迎えてくれた。
「あの・・・フレンは?」
「残念でしたな、入れ違いでして・・・」
「え~、また~」
まだ少し痛む頭をさすりながら、がっくりを肩を落とすカロル。
表情には出さなかったが、さすがにリリーティアも少しばかり落胆した気持ちだった。
「結界が直っていることには大変驚かれていましたよ」
がっくりと大きく落ち込むカロルを気遣ってか、長は笑顔でそう言った。
「あの・・・どこへ向かったか、わかりませんか?」
「いえ・・・私には何も・・・。ただ、もしもの時は手紙をお預かりしています」
長は懐から封筒を取り出すと、ユーリがそれを受けった。
手紙にしては分厚い封筒を開き、中を取り出す。
一枚は手紙と、もうひとつは折りたたまれた紙切れが入っていた。
その紙切れを開いてみると、そこにはお世辞にもうまいとは言えないユーリの顔が描かれている。
「え?こ、これ手配書!?って、な、なんで?」
「ちょっと悪さが過ぎたかな」
驚くカロルに対して、指名手配されたユーリは相変わらずの冷静さだった。
「い、いったいどんな悪行重ねてきたんだよ!」
「これって・・・わたしのせい・・・」
ひとり慌てるカロルの横で、エステルは不安な表情を浮かべて指名手配書を見ていた。
城から抜け出したことでどれだけ世間を騒がせているか、ようやく事の重大さに気づいたようである。
「こりゃ、ないだろ。たった5000ガルドって」
「脱獄にしては高すぎだよ!他にもなんかしたんじゃない?」
手配書の賞金に不満をもらすなど、指名手配された当の本人が一番危機感というものを持っておらず、傍から見ていたリリーティアは呆れた笑みを浮かべた。
「それで、手紙にはなんて?」
ユーリはエステルに手紙を渡す。
「『僕はノール港に行く。早く追いついて来い』」
「『早く追いついて来い』ね。ったく、余裕だな」
エステルが読み上げると、ユーリは頭をかきながら悪態をついた。
「それから、暗殺者には気をつけるようにと書かれています」
「なんだ、やっぱり狙われてんの知ってたんだ」
「なんか、しっかりした人だね」
短期間の間で自分の隊までも持つようになった実力を持つ彼には、やはりいらぬ心配だったようだ。
「身の危険ってやつには気付いているみたいだけど、この先、どうする?」
「そうですね・・・」
ユーリの問いにすぐには答えが出せず、エステルは黙り込んでしまった。
「オレはノール港に行くから伝言あるなら伝えてもいい」
「それは・・・でも・・・・」
エステルはちらりとリリーティアのほうへ視線を向けると、視線を下に落とし再び考え込んだ。
一瞬向けられた視線に、エステルの本心を察したリリーティアは複雑な心境であった。
「ま、どうするか考えときな。リタが面倒起こしてないかちょいと見てくる」
そういうと、ユーリは街の中へと歩いていく。
去っていくユーリの背を見送ると、リリーティアはエステルへと視線を移した。
彼女はじっと足元に視線を落として、深く悩み込んでいる。
リリーティアは苦笑を浮かべると、丘の上に咲き誇るハルルの樹を遠くに見上げた。
今年のハルルの樹は例年にないほどの満開で、すべての蕾が開いている。
毎年、満開の時期といっても、これだけいっぺんにすべての蕾が開くことなどはありえないことであった。
まさに奇跡としか言い様がないが、リリーティアにとっては今のハルルの状態は異常としか思えず、素直に喜べるものではなかった。
何よりエステルの力で蘇らせた結果の後にあらわれた現象であるから、ハルルの樹の復活は手放しで喜ぶことはできない。
おそらく、このハルルの樹の状態を間近で見たリタは、さらにエステルのことを気に掛けるだろう。
それは、魔導士としての研究対象として・・・。
「(まあ、ユーリが気にかけてくれているみたいだから、そこは大丈夫だろう)」
リタの様子を見に行ったのも、そのことを気にかけての行動だとリリーティアは分かっている。
「(それに、リタならきっとエステルのことを傷付けることはしないはずだ、・・・・・・私と違って)」
リリーティアは悲しげに瞳を揺らし、ハルルの樹を遠くに見詰めた。