第1話 始動
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「失礼します!緊急事態が発生しました!」
リリーティアは訝しげに、叩かれる扉へと振り向いた。
アレクセイは無言でクロームに開けるように促すと、ひとりの騎士が部屋に飛び込んできた。
「申し上げます!エステリーゼ姫が部屋から抜け出して、行方をくらましました!」
ヨーデル殿下の誘拐を聞かされた時よりも、さらに驚きに目を見開いて、リリーティアはその騎士を見た。
アレクセイでさえもそれには驚きを隠せず、その場に勢いよく立ち上がった。
「今度はなんだ?姫がいなくなっただと?どういうことだ」
「監視の隙を突いて外に・・・城内で発見し、追い詰めたのですが・・・妨害が入りまして。どうも協力している脱獄者がいるようです」
脱獄者-------?
リリーティアは、はっとした。
昨日、ルブランから牢屋に連行された者の報告を受けていた。
名前は----------ユーリ・ローウェル。
その脱獄者については、今まで数えきれないほどルブランたちから聞いたことがあった。
彼はこれまでに何度も騎士団と揉め事になり牢獄行きになったことがある。
しかし、だからといって彼が悪い人だとは思っていなかった。
それは、いつも騎士たちと衝突する彼のその行動の意味を彼女なりに理解しているからだ。
下町の税金徴収のたびに、シュヴァーン隊の邪魔立てをする彼。
つまりは、貧しい下町の人たちを想ってこその行動なのだろう。
徴収を強いる騎士団から下町の人たちを守っているのだ。
彼のことは話にしか聞かなくとも、彼の行為、その想いは、彼女なりに理解しているつもりだった。
だから彼女は、毎回とも数日の禁固で釈放されるように手筈をとっている。
その彼は、昨日は自分たちの隊ではなく、キュモール隊によって捕らえられたと聞いた。
それを聞いた彼女は少しばかり彼の身が心配であった。
キュモール隊は捕らえた犯罪者、それが平民であれば尚のこと容赦がないことを知っているからだ。
貴族の屋敷に不法侵入したというのは聞いているが、今回はキュモール隊が関わったことのため、彼の罪状についての詳しい事はまだ耳に入ってきていない。
犯罪に変わりはないが、貴族の屋敷に不法侵入した理由も彼なりの事情があるはずだ。
いつものように、下町に関する何かが。
せめてもと、いつものように数日の禁固で釈放されるよう、昨日のうちにどうにか手筈を取ったのだが・・・・・・。
「城内を捜索中ですが、未だ発見できません」
「・・・・これも評議会のしわざか?いやありえんな」
アレクセイがひとりごちた。
リリーティアは気難しい顔で、この事態にひとり考えを巡らせた。
いつもなら釈放期日まで待っている彼が、なぜ今回はそれを待たずして脱獄したのか。
何より厳重に鍵がかけられた牢屋から、どうのようにして牢屋から脱出したのか。
さらには、エステリーゼはなぜ部屋を抜け出し、彼がそれを協力するに至ったのか。
考えれば考えるほど分からなかった。
それを知るには、彼とエステリーゼ本人に聞くしかないのだろう。
リリーティアは考えに耽るのをやめ、アレクセイを見据えると、その口を開いた。
「閣下、エステリーゼ様に関しては私にお任せください」
彼は眉間にしわを寄せ、彼女を見る。
リリーティアは彼女の安否が気になった。
もしも、すでに外に出ているのなら、それは尚のことだった。
彼女は外の世界に一度も出たことがなく、本の中でしかそれを知らない。
外の世界は、実際の世界と本の中に描かれた世界とは全く違うのだ。
危険なことも多くある。
たとへ脱獄者のその彼が彼女と一緒にいるといえど、実際にはその者の人柄を知らない以上、彼女の身が気がかりだった。
「・・・わかった、姫のことは君に任せる」
アレクセイは少し考える素振りをみせたが、すぐにリリーティアの進言を承諾した。
「リリーティア、シュヴァーン、行きたまえ」