第5話 天才少女
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「うっ・・・うぅ・・・」
遺跡の地下にうめき声が響き渡る。
白い魔導服(ローブ)を纏った、魔核(コア)ドロボウの男は気絶から目を覚ましたのだ。
男は壁に背を預け、上半身だけ体を起こしている状態であった。
「いったた・・・」
男は頭が鈍く痛むのを感じながら、自分の身に何が起きたのかぼんやりと考える。
その時、自分の手足の自由がきかないことに気づき、はっとした。
「無駄な抵抗はしないように。警備が来るまでここで大人しくしていて下さい」
だいぶ意識がはっきりとしてきた男は、顔をゆっくりを上げた。
そこには自分を見下ろしているひとりの女の姿があった。
じっと女の顔を見たが、女の表情は別段怒っているといった風でもなく、男は少し落ち着きを取り戻した。
さっきは大勢に囲まれていた上に、その中にいた男の視線も怖いものだったが、子供(ガキ)の女が見せていた怒りの形相は異常に恐ろしいものがあった。
しかし、今は一人だけしかここにはおらず、しかも相手は荒立っている様子もないため、男は安堵した。
といっても、牢獄行きになるのは変わらないため、気持ちは重く落胆したままだったが。
「・・・ひとつ聞きたいことがあるのですが?」
「な、なんだよ」
ため息を吐いて頭(こうべ)を垂れていた男は、訝しげに女を見上げた。
「そのデデッキという者のほかに魔導器(ブラスティア)を盗むように頼まれた仲間はいるのですか?」
「オレが知ってるのはデデッキだけだ」
男はぶっきらぼうに答えた。
気絶する前まで怯えていた男だが、今では自尊心をそこに取り戻しているようだ。
「顔の右に傷のある、隻眼で体格のいい大男。その男が依頼人と言っていましたが・・・、では、直接あなたに依頼してきた人物は誰ですか?」
「・・・その大男の仲間だって言ってたが、深く帽子を被っていてろくに顔も見えなかったよ」
女は目を細め、その表情は微かに険しいものなる。
「名前は?」
「知らねえよ」
そう答えた直後、突然首筋に冷たいものを感じ、男はひっと声なき声を上げた。
男の喉元に白銀の刃が鈍く光る。
「っ・・・ほ、本当に、しし、知らねえんだよっ!!」
男は突きつけられた刃を見ながら、狼狽して答えた。
「ギルドの人間か?」
「・・・だ、だから!ほ、本当にしら-----っっ!?」
男は叫びながら視線を上げた。
瞬間、これ以上にないほど男の瞳は大きく見開かれた。
さっきまでの余裕はどこへいったのか、顔は強張り、男は体を小刻みに震わせ始める。
目の前にある女の顔。
突如として男が恐れおののくほどの、その顔。
それは、あの時の黒衣の男のように、睨みを利かした目でこちらを見ているわけではなかった。
または、あの時の子供(ガキ)の女のように、恐ろしいほどに怒りを露わにしているのでもなかった。
「これから聞くことすべて本当のことを話しなさい。少しでも誤魔化そうとすれば・・・・・・」
むしろ、その女の顔には、表情も何も----------、
「分かっているだろう?」
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「っっ!!!」
男は声にならない叫びを上げた。
女のその顔は感情のない人形になったかのように何もなく、何を仕出かすのか読み取れないそれに一瞬も視線を逸らすことが出来なかった。
女のその声は刃のように鋭く、まるで心臓そのものに刃を突きつけられているかのように、体中に恐怖が走った
女の纏う異様な空気は氷のように冷たく、まるで全身が凍ったかのように、少しも体が思うように動かせなくなった。
目の前にいる女の存在そのものが、男には非現実的に見えた。
男は嫌でも思い知らされた。
ほんの僅かでも相手の添えないことをすれば、-------命の終焉(おわり)だと。
それからの男は、女から何度も繰り出される質問にひとつひとつ声を絞り出すように答えていった。
どれくらい時間が経ったのか、繰り返された詰問から解放されると、女は少し離れたところへ移動した。
男は頭を垂れてほっとしたが、いまだ体は強張ったまま緊張の糸を解くことはできなかった。
しばらくして、男は恐る恐るその顔をあげた。
少し離れた先で、口に手を当てて考え込んでいる女の姿が見えた。
そして、男は困惑する。
さっきまで纏っていた異様な空気がその女からまったく感じられなかったのだ。
それは、なぜこんな女に怯えていたのかと思うほどに。
あの時と同じ女とは到底思えなかった。
男は深い息を吐き、ようやく緊張の糸を解いた。
瞬間、自分の体が鉛のように重くなり、酷い倦怠感に襲われる。
気付くとそれだけじゃなく、未だ自分の体が小刻みに震えているのが分かった。
男はもう一度、女を見た。
やはりそれはどこにでもいる、どうってことのない雰囲気の女でしかなかった。
男は、思い返した。
----------あんな女に驚く自分がどうかしていたのだ。
男は、思い直した。
----------あれは自分の疑心暗鬼にすぎなかったのだ。
男は、まるで自分に言い聞かせるかのように、” 気のせいだ ”と何度も心の内で繰り返していた。