第5話 天才少女
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「あ、いたよ」
男を追って、遺跡内部の入り口付近まで戻るとカロルが指をさした。
その先にはさっきの魔導服(ローブ)の男が魔物に囲まれているのが見えた。
逃げるのに必死だっただろう。
その男は魔物に見つかってまい、身動きが取れなくなっている。
一行はあっという間にその魔物を蹴散らすと、逃げていた男を取り囲んだ。
「魔核(コア)盗んで歩くなんてどうしてやろうかしら・・・」
リタは今までにない不敵な笑みを浮かべて、男に一歩近づいた。
その笑みだけ見ると、正直、どっちが悪人なのかわからないくらいに彼女の形相は怒りに満ちている。
「ひぃいっ!やめてくれ!や、やめて、もう、やめて!」
男はリタの怒気にガタガタ肩を震わせて、その体を縮ませた。
呆れるほどに情けない声を上げている。
「俺は頼まれただけだ・・・。魔導器(ブラスティア)の魔核(コア)を持ってくれば、それなりの報酬をやるって」
「おまえ、帝都でも魔核(コア)盗んだよな?」
「帝都?お、俺じゃねぇ!」
鋭い目で見下ろすユーリに、男は必死になって叫ぶ。
けれど、彼の目はますます鋭くなる。
彼にもリタといい勝負と感じるほどの怒りが見て取れた。
嘘をつくと容赦しないと言わんばかりの彼の視線に、魔核(コア)ドロボウの男は小さく「ひっ」と声を上げた。
「おまえじゃなねぇってことは、他に帝都に行った仲間がいるんだな?」
「あ、ああ!デデッキの野郎だ!」
「そいつはどこ行った?」
「今頃、依頼人に金をもらいに行ってるはずだ」
「依頼人だと・・・。どこのどいつだ?」
「ト、トリム港にいるってだけで、詳しいことは知らねぇよ。顔の右に傷のある、隻眼でバカに体格のいい大男だ」
リリーティアは僅かに眉を動かし、男の言葉に反応する。
「そいつが魔核(コア)集めてるってことかよ・・・」
「ソーサラーリングもどこかで盗んだのね」
「ぬ、盗んでなんていねえ!仕事の役に立つって依頼人に渡されたんだ!!」
「うそね。コソ泥の親玉なんかに手に入れられるものじゃないわ」
ソーサラーリングは<帝国>から所有が認められた、ごく限られた人にしか与えられていない貴重な代物だ。
管理が厳重なため、そう簡単に手に入るようなものではないのだ。
そのため、リタは鋭い疑惑の目を男に向けた。
「ほ、本当だ!信じてくれよ!」
男はリタに懇願するように叫ぶ。
その必死さから嘘はついていなようであった。
「なんか話が大掛かりだし、すごい黒幕でもいるんじゃない?」
「カロル先生、冴えてるな。ただのコソ泥集団でもなさそうだ」
「騎士も魔物もやり過ごして奥まで行ったのに!ついてねぇ、ついてねぇよ!」
「騎士?やはりフレンが来てたんですね」
エステルは、ぱっと表情を輝かせる。
「ああ、そんな名前のやつだ!くそー!あの騎士の若造め!」
「・・・うっさい!」
鈍い音が響くと、男はどさっとうつ伏せに倒れた。
何度も腕を床に叩きつけながらぼやき続ける男に苛立ったリタが、容赦なくその男を愛用の武器である帯で殴ったのであった。
「ちょ、リタ、気絶しちゃったよ・・・どうすんの?」
「後で街の警備に頼んで、拾わせるわよ」
腕を組んで気絶した男を見下ろしているリタ。
彼女の容赦ない行動にカロルは顔をひきつらせていた。
「それじゃあ、アスピオに戻るか」
男が逃げないように手と足を縛ると用事は済んだとばかり、ユーリは地上へ出る階段に向かって歩き出した。
皆もそれに続いて歩き出すが、リリーティアだけは気絶した男を見下ろし、そこに佇んでいる。
「リリーティア」
それに気づいたエステルがリリーティアに声をかけた。
「街の警備が来るまで、私はここでこの男を見張ってる。逃げることはしないだろうけど、念のためにね」
「一人で大丈夫です?」
エステルは一人で残る彼女の身を案じて自分の残ると言ったが、今は魔物の気配もほとんどなく、男も拘束されているから一人で問題ないと、リリーティアはエステルの申し出を断った。
それでもエステルは心配した面持ちである。
「ありがとう、エステル。私は大丈夫だから」
そして、ユーリたちはリリーティアを残して、地下の出入り口へと歩き出した。
去っていく彼らの背を見詰めていると、エステルが足を止めてこちらへと振り返った。
まだ気に掛けれてくれている彼女に、リリーティアは大丈夫だという意味を込めて笑顔を浮かべると、小さく手をあげてみせた。
その笑みに少しは安心してくれたのか、エステルも小さく笑みを返してユーリたちの後を追いかけていったのだった。
「エステルには悪いことしたけど・・・」
皆の姿が見えなくなると、リリーティアは振り返り、
「・・・色々聞きたいことがあるからな」
気絶している男を見下ろした。