第5話 天才少女
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「(今はこの状況をなんとかしないと)」
リリーティアは人型魔導器へと意識を集中し直し、《レウィスアルマ》を構えた。
人型魔導器は何度もその腕を振り落とし、容赦なく暴れ続けている。
ユーリはどう対処すべきが決めかねているようで、カロルは人型魔導器の繰り出す攻撃を避けるだけで手一杯の様子であった。
「ちょっと!サボってないで手伝って!」
壁の隅にいるリタとエステルに向かって、余裕ない声でカロルは叫んだ。
「あ~、もう、しょうがないわね!」
リタはすぐさま立ち上がると、リリーティアたちの元へ駆け出した。
エステルもリタに続く。
「こんなものが動くなんて・・・!」
カロルはこれまでに対峙したことがない敵にどうしていいか分からず、いつも以上に焦っている。
「お願い、おとなしくして!」
「じっとしてください!」
リタとエステルは人型魔導器に叫んだ。
「こいつ人の言葉なんてわかるの!?」
「・・・えっと、ただなんとなく」
「聞いちゃくれないって、こいつは」
「魔導器(ブラスティア)にだって心はあるのよ!」
ユーリの言葉に、リタは怒るように叫んだ。
魔導器(ブラスティア)を誰よりも大切に想う彼女にとって、ユーリの言葉は魔導器(ブラスティア)を侮辱しているように聞こえたらしい。
怒るリタに苦笑を浮かべ、「確かに魔導器(ブラスティア)には罪はない」とリリーティアは心の中で呟いた。
すべては使い手次第で魔導器(ブラスティア)の在り方は変わる。
人に感謝される方法で使われるか、忌み嫌われる方法で使われるか、魔導器(ブラスティア)の用途は様々な形で活用できる分、その差は大きい。
「どっちにしろ言い聞かせる前に僕らがぺしゃんこにされちゃうよ!」
カロルの言う通り、だからといって人型魔導器をこのままにしておくわけにはいかない。
こちらがなにもしなければ、間違いなく自分たちが命を落とすことになる。
「あ~もぉっ!しょうがないわね!」
何の罪もない魔導器(ブラスティア)を傷付けることに誰よりも抵抗があるリタ。
しかし、今自分たちが置かれている危機的状況に、しぶしぶとだが人型魔導器と戦うことを決めたようだ。
「あんたら気をつけなさいよ。相手は加減知らないんだから!」
そう言うと、リタは懐から武器である帯を取り出し、エステルも細剣と盾を構えた。
人型魔導器は再び腕を大きく薙ぎ払って攻撃をしかけてきた。
一行はその攻撃を避けると、人型魔導器から一定の距離を保った。
「本当にこんな大きいの倒せるんです?」
エステルは不安げに人型魔導器を見上げた。
その大きさだけでただただ圧倒される敵を前に、どう見ても勝ち目がない戦いに思えてならないようだ。
人型魔導器は腕を大きく振り上げると、前衛にいたユーリに向かってその腕を振り下ろした。
ユーリはすぐさま横に転がり、その攻撃を避ける。
振り下ろされた腕は床を粉々に打ち砕き、さっきまでユーリが立っていた場所には大きな穴ができた。
「まったくこんな厄介なもの作りやがったの誰だよ!」
頑丈な石で出来ている床を、いとも簡単に粉々に砕く人型魔導器の攻撃力を目の当たりにして、ユーリは悪態をついた。
「や、やばいかも・・!」
カロルも人型魔導器の容赦ない攻撃に自分たちでは無理だとは思い始めている。
「(攻撃力、防御力も高いうえに、攻撃の範囲も広いな・・・)」
一方、リリーティアは人型魔導器のじっと見据え、相手の動き方を見極めていた。
固い岩でできている体躯に物理攻撃は確実に意味がないし、そもそも攻撃範囲が広く迂闊に近づけない。
魔術も物理攻撃と比べれば効果はあるが、それも微々たるものだろう。
「(だけど、図体は大きいが、それほど動きは早くない・・・)」
けれど、倒さなければいけない魔物と違って、人型魔導器は魔導器(ブラスティア)を操作して動力を断てばいいのだ。
つまりは、その操作する間だけ相手の動きを止められばいい話であった。
そこまで考えて、リリーティアは傍にいたリタを見た。
「リタ、あの大きさの相手でも、体制を崩させるような魔術はある?例えば、地面から突き上げるような」
「は?・・・地面から突き上げる?」
リタは眉を潜めたが、それも一瞬ですぐにリリーティアの意図を察した。
「あるわよ」
リタの言葉にリリーティアは頷いた。
そして、これからやろうとしていることを簡単に伝えると、リタはすぐさま魔術の詠唱を始めた。
「怒りを穂先に変え、前途を阻む障害を貫け」
詠唱を耳にしながら、リリーティアは人型魔導器と真っ向から対峙しているユーリとラピードに叫んだ。
「ユーリ、ラピード!リタの魔術で相手がバランスを崩した後、足元を狙って!」
「足元?・・・りょーかい」
「ワオーン!」
彼女の指示の意図をすぐに察したユーリは余裕の笑みを浮かべ、ラピードと共に人型魔導器から距離をあけた。
ユーリたちが人型魔導器から離れたのを確認すると、リリーティアもまた詠唱を始める。
「神々(こうごう)たる雷神よ、恐れを知らぬ愚者に 殃禍(おうか)なる断罪を」
魔術を詠唱しながら、彼女はじっと人型魔導器の動きを見詰める。
人型魔導器がユーリたちを標的にして大きくその腕を振り上げた、その時、片足が僅かに浮き上がる。
「いくわよ、ロックブレイク!」
詠唱を終えたリタは帯を広げて術式を描くと、地面と足の間にできたその隙間を狙って魔術を発動させた。
すると、人型魔導器の足元の地面が激しく隆起した。
その尖った岩に突き上げられた敵は大きくよろめいた。
「はあ!」
ユーリとラピードはかろうじて体を支えている人型魔導器の片足に一撃を与えた。
すると、人型魔導器は体を支えきれずに、大きな音をた立てて地面に倒れ込んだ。
「ユーリ、ラピード、下がって!」
ユーリとラピードは素早くその場を離れた。
「セレスタインマレウス!」
遺跡の天井にあらわれた黒雲がバリバリと激しい音を立て始め、瞬間、轟音と共に凄まじい光が放たれた。
そして、雷が人型魔導器に直撃した。
人型魔導器は痙攣したように小刻みに動くも、それ以上起き上がる様子を見せなかった。
動きを封じたのを確認すると、リタは駆け出し、倒れた人型魔導器の上に乗った。
「あとは動力を完全に絶てば・・・ゴメンね・・・」
リタは悲痛な面持ちで何やら操作すると、人型魔導器は光を失い完全に動かくなった。
リリーティアは彼女の気持ちを考えると少し複雑な気分だったが、無事に動きを止められたことにほっと胸を撫で下ろした。
人型魔導器の動き止めた後も息つく間もなく、ユーリは白い魔導服(ローブ)の男の後を追うためにその場を駆け出す。
カロル、ラピードも彼の後を追った。
「リリーティアもリタも早く!」
なかなか動かないリリーティアたちに、先に走っていたユーリたちは足を止めると、カロルは急かせるように叫んだ。
「わかってるわよ!」
リタはもう一度動かなくなった人型魔導器へ一瞥を向けると、その場を駆け出した。
しかし、エステルは一向に動かず、人型魔導器の前で何やら戸惑っている。
「エステル、行こう」
「でも、フレンは・・・」
リリーティアが声をかけるが、彼女はそこを離れるのを躊躇していた。
彼女にとっての一番の目的はフレンの安否だ。
あの魔核(コア)ドロボウのことも気になるが、何より彼女は彼のことの方が気がかりなのである。
遺跡にいるかもしれない彼のことを思うと、もう少しこの部屋を捜索したい気持ちがあるのだろう。
「あんな怪しいやつがウロウロしてるところに、騎士団なんていねぇって」
「じゃあ、もうフレンは・・・」
「たぶん、もうここにはいない、行くぞ!」
一刻も早く魔核(コア)ドロボウであるかもしれないあの男を捕まえたいユーリは、少しの時間も惜しいようだ。
彼にしては落ち着きがなかった。
「あの子を調べたら自立術式が解析できたのに!」
「もしかして、そのためにボクらを戦わせようとここへ連れてきたの?」
「当たり前でしょ!」
悔しげなリタは、さも当然とばかりにきっぱりと言い放つ。
「極悪人だよ!」
「ドロボウ探しのついでに手伝ってもらっただけよ」
カロルは信じられないとばかりに怒ったが、リタは何の悪びれもせず言い返した。
「口じゃなくて足を使えよ!!」
なかなか動き出そうとしない一行に痺れをきらし、とうとうユーリは苛立ちげに叫ぶ。
そして、さっさとラピードと共にあの男の後を追ってその場を駆けて行ってしまった。
先に行ってしまった彼にエステルたちもようやく動き出して慌てて追いかけた。
彼らの背を見詰めながら、ひとつ息を吐くと、リリーティアも皆の後に続いた。