第5話 天才少女
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一行は先ほど出現した階段へ向かって、再び歩き出した。
その階段はさっきまで水中に沈んでいたため滑りやすそうだった。
足元に気をつけながら、リタを先頭にその階段をゆっくりと登っていき、ユーリ、エステル、カロルと続いて階段を上る。
「ラピード?」
殿(しんがり)にいたリリーティアと共に並んで歩いていたラピードがピタっと突然その動きを止めた。
その様子を見た途端、彼女はすぐさま《レウィスアルマ》を引き抜いた。
ラピードが一声鳴いて鋭い眼光で後ろに振り向くと、彼女は振り向きざまに《レウィスアルマ》を持った右手を突き出した。
「フラグランス!」
魔術と唱えるリリーティア。
彼女のすぐ前にいたカロルは突然の声に驚いて、小さく声を上げながら振り返った。
同じようにユーリたちもさっと振り返ると、同時に轟音が鳴り響く。
ユーリたちの目の前にはいくつかの燃え盛る炎が渦を巻いて、辺りを轟々と焼き尽くしていた。
ずっと薄暗い遺跡の中にいたユーリたちは、突然現れた炎の光が異常なほどに眩しく感じて目を細めた。
すぐに炎は消え、辺りには微かに煙が舞い熱風が吹き渡る。
熱風に包まれながら、リリーティアはじっと目の前を鋭く見据えていた。
彼女の前に立ったラピードも、鋭い目つきでじっと前を睨んでいる。
「あ・・・ま、魔物!」
カロルが声を上げた。
舞っていた煙がだんだんと消えて視界が開けると、そこには魔物が倒れているのが見えた。
魔物は三体。
二体はオタオタ、一体はゲコゲコと呼ばれた魔物だ。
大人ほどの大きさで、オタオタはオタマジャクシのような姿、ゲコゲコはオタオタが成長したもので蛙そのものの姿をしている。
「び、びっくりしました・・・」
エステルは胸をおさえながら、ほっと息を吐いた。
「驚かせてごめんなさい。急だったから知らせる間もなくて・・・」
リリーティアは武器を収めると申し訳なく笑った。
ラピードも警戒を解いてその場に座る。
「でも、ほんとびっくりしたね・・・、後ろから不意打ちなんだもん」
「ラピードがいち早く気づいてくれたおかげで助かったよ。ラピード、ありがとう」
「ワフ!」
彼女の感謝の言葉にラピードは応えた。
それは、”気にするな”と言っているように聞こえた。
「ま、どんな状態の時でも油断すんなってこったな」
「リリーティア、ラピード、ありがとうございます。おかげで助かりました」
エステルは律儀に頭を下げた。
リリーティアは微笑んで頷いたが、ラピードは小さく鳴いただけで、どこか素っ気ない態度のようにも見えた。
エステルに対しては相変わらずのラピードに彼女は苦笑を浮かべた。
「この奥はまだ人が踏み入れていない場所が多いわ。魔物も多いようだから、気をつけて進んだほうがいいわよ」
リタの言葉に皆が頷くと、一行は再び先へと進み始めた。
周りに注意しながらどんどん先へと進むと、大きく開けた場所に出た。
そのさらに奥へ行くと、突き当たった場所に巨大な石像がたっていて、それを見るやいなやリタはその石像へと駆け出していく。
「うわ、なにこれ!?これも魔導器(ブラスティア)?」
「こんな人形じゃなくて、オレは水道魔導器(アクエブラスティア)が欲しいな」
それは石像ではなく、人型の魔導器で世の中にほとんど存在していない、とても珍しいものだ。
カロルはその巨大さに驚きながら人型魔導器に恐る恐る触れる。
ユーリはその人型魔導器自体に興味がなさそうであった。
人型魔導器の全長は大人の身長の5倍の長さを遥かに超えるほどの大きさで、まさに巨大だ。
その姿は罠として動き出したあのゴーレムと似ていて、岩でできた体躯のその重さは計り知れず、
もしも、あのゴーレムのように動き出し、あの大きな岩の足に踏まれれば一溜りもない。
「ちょっと、不用意に触んないで!この子を調べれば、念願の自立術式を・・・あれ?うそ!この子も、魔核(コア)がないなんて!」
そのとき、突然ラピードがうなり声を上げた。
ラピードの視線の先を見ると、白い魔導服(ローブ)を纏った人物がこの部屋の階上にいた。
「リタ、おまえのお友達がいるぜ」
「ちょっと!あんた、誰?」
リタは白い魔導服(ローブ)の人物を睨み見た。
「わ、私はアスピオの魔導器(ブラスティア)研究員だ!」
「・・・だとさ」
「おまえたちこそ何者だ!ここは立ち入り禁止だぞ!」
白い魔導服(ローブ)の男は一行に指をさして叫ぶ。
「はあ?あんた救いようのないバカね。あたしはあんたを知らないけど、あんたがアスピオの人間なら、あたしを知らないわけないでしょ」
「・・・無茶苦茶言うなあ。リリーティアとえらい違いだね」
「・・・はは」
蔑む目で豪語するリタ。
頬を掻くカロルの隣で、リリーティアは乾いた笑いをこぼした。
しかし、リタの言うことは間違いではない。
事実、アスピオの魔導器(ブラスティア)研究員なら、アスピオの天才魔導士リタ・モルディオの顔を知らないわけがないのだ。
それは、知らない方がおかしいといっても過言ではない。
アスピオにいないリリーティアでさえ、顔までは知らなくとも、リタのことはよく耳にしていたほどだ。
だとしても、あそこまできっぱり言い切るリタには、ある意味頭が上がらないと思った。
「くっ!邪魔の多い仕事だ。騎士といい、こいつらといい」
白い魔導服(ローブ)の男は階上から人型魔導器へ飛び降りると、その胴体に魔核(コア)をはめ込んだ。
すると、青い光を湛え、少し屈んだ大勢で止まっていた人型魔導器はゆっくりとその体を起こした。
「うっわーっ、動いた!」
人型魔導器は周りを窺うように首を動かすと、リリーティアたちを視界に捉えた瞬間、その頭をこちらへ向けて止まった。
そして、ズシンと音を立てて、その足を一歩踏み出す。
「リタ!」
「!」
一歩踏み出したのと同時に、リリーティアは人型魔導器に一番近くにいたリタに叫んだ。
その直後、人型魔導器が腕を勢いよく横へと振り払う。
リタははっとして後ろへ飛んだが僅かにその腕が当たってしまい、その衝撃で吹き飛ぶと遺跡の壁に背中を打ちつけた。
「リタ!」
エステルは急いでリタに駆け寄る。
小さくうめき声を上げながらも、リタはすぐに上半身を起こしていた。
とっさに後ろへ避けたおかげで、直撃は免れたようである。
「今、傷を・・・!」
エステルはリタへ駆け寄ると、すぐさま治癒術を発動させた。
「あんた、これって・・・」
「な、なに!?」
治癒術を発動させた直後、リタは信じられなものでも見たかのように目を大きく見開くと、エステルの腕を勢いよく掴んだ。
リタに突然にも強く腕を掴まれ、エステルは驚いた声を上げた。
「今の・・・・・・」
そう呟くと、リタはエステルの腕にある武醒魔導器(ボーディブラスティア)をじっと見詰めた。
それはもう穴があくほどに武醒魔導器(ボーディブラスティア)を凝視している。
「え、えっ?ただケガを治そうと・・・」
エステルはリタの行動に意味が分からず、訝しげにリタを見ているが、それはただ意味が分かっていない風に装っているだけだろう。
武醒魔導器(ボーディブラスティア)なしで治癒術が使えることを周りに知られないために。
「(・・・やはり気づいたか)」
リリーティアは暴れだす人型魔導器を注視しながらも、リタとエステルの様子を険しい顔つきで窺い見る。
あのリタの様子からして、エステルが武醒魔導器(ボーディブラスティア)なしで治癒術が使えるということに気付いたのは明らかだ。
魔導士でもあり、何より聡い彼女のことだ、エステルの力に気付かれることをはじめから危惧していたリリーティアはそれを冷静に見ていた。
世間には〈満月の子〉の力の存在は知られていないため、リタもそのことは知らないだろうが、だからこそ、魔導器(ブラスティア)研究員である彼女にとって十分に目を引く対象になったに違いない。
そのことに一抹の不安を感じたが、すぐに気持ちを切り替え、目の前で暴れる人型魔導器を見据えた。