第5話 天才少女
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そして、一行はさらに遺跡の奥を進んでいった。
遺跡の壁には大きな石像がいくつも建っていた。
それは今にも動き出しそうなほど精巧につくられていて、異様な不気味さを醸し出している。
遺跡内には時に魔物の姿が見られ、最近になって人には発見されたが、人間には知り得ない他の出入り口が何処かにあるのか、魔物たちにとってはすでに住処となっていたようだ。
魔物に気をつけながら進む途中、リタが足を止め、その場にしゃがみこんだ。
見ると道の端に魔導器(ブラスティア)があった。
しかし、それはすでに壊れていて使い物にならないものだった。
「この子・・・駄目か」
「・・・・・・・・・」
リタの言葉にリリーティアは懐かしさを感じていた。
実質は物である魔導器(ブラスティア)を”この子”と呼ぶ彼女特有の呼び方。
それは、あの頃と変わっていなかった。
とても嬉しげに魔導器(ブラスティア)を”あの子” "この子"と話してくれた時と同じであった。
それはつまり、魔導器(ブラスティア)に対する愛情は変わっていないということだ。
「(やっぱり、魔核(コア)ドロボウは他にいる・・・)」
そして、それはリリーティアの中で、彼女は魔核(コア)ドロボウではないことを確信させるものとなった。
魔導器(ブラスティア)を心から想っている者が、下町の人たちに役に立っている水道魔導器(アクエブラスティア)の魔核(コア)を盗るわけがない。
「発掘前の魔導器(ブラスティア)ってこんな風になってたんだ」
「大昔の人は、何を思って、魔導器(ブラスティア)を遺跡に埋めたんでしょう?」
「さあね。その辺のことは今も研究中よ」
エステルの疑問は魔導器(ブラスティア)の研究者を含めた多くの科学者たちが疑問に思っていることだ。
このような遺跡は世界各地に確認されており、そこから様々な魔導器(ブラスティア)が発見されているが、詳細な文献もなく、その真意までには未だ辿り着けずにいた。
「こんだけあるなら、水道魔導器(アクエブラスティア)も落ちてねえかな」
「どれも魔核(コア)がありませんね」
「な~んだ。それじゃ動かないんじゃん」
「魔核(コア)も筐体(コンテナ)も完璧な魔導器(ブラスティア)、そうそう発掘されないのよ」
ここにあるものはほとんどが筐体(コンテナ)ばかりで、魔核(コア)があっても壊れているものしかない。
だが、それはここだけのことではなく、どの遺跡でも同じような状況がほとんどだ。
「術式により魔術を発言する魔核(コア)、その魔術を調整するのが筐体(コンテナ)。両者が揃って魔導器(ブラスティア)と呼ぶ。魔導器(ブラスティア)はそれぞれ異なった性能を持ち、その性能を表す紋が魔核(コア)に浮かぶ。現代技術で筐体(コンテナ)の生産は可能だが、魔核(コア)は再生不可能である」
エステルが本に書いていた通りに、魔導器(ブラスティア)について説明した。
「要するに発掘品を使うしかない魔核(コア)は貴重ってわけだ。ドロボウが盗むのも当然だな」
「そうでもないよ。エステリーゼが言った本の内容はちょっと古いの」
「古いってどういうこと?」
「発掘品より劣化はするけど、簡単な魔核(コア)の復元は成功してる」
「本当ですか!」
リタの言うとおり、魔核(コア)の復元は数年前に成功している。
発掘品より劣り、本来の魔核(コア)の力は発揮しないとはいえ、それでもそれは大きな進歩といっていい。
しかし、まだまだそれは研究途中なため、日用として普及するにはまだまだ改良が必要であり、魔核(コア)は貴重だという現状に変わりはなかった。
「だから、あたしなら、盗みなんてバカな真似はしない。そんなヒマがあるなら、研究に時間を費やすわ。完全に修復するためのね。それが魔導士よ」
リタの瞳には揺るぎない想いが見て取れた。
瞬間、リリーティアの胸の奥がひどく疼いた。
「立派な信念だよ。けど、それで疑いは晴れないぜ」
相変わらず、ユーリの疑いは強い。
それは、下町のためにという彼の想いからでもあるのだろう。
リリーティア自身、疑うことがすべて悪いとは言わないし、寧ろ簡単に人を信じる方がどちらかというと問題のようにも思える。
「・・・・・・。口では何とでも言えるもんね」
リタはユーリの言葉に反論することなく、それよりも納得しているようだ。
だが二人の間に流れる空気は重く張り詰めた空気であった。
「そ、その辺に使える魔導器(ブラスティア)が残ってるかもしれませんよ」
その空気に居た堪れなくなったのか、エステルはすぐに話しの方向を変えた。
そうしてさらに先へ進むと、比較的状態のよい魔導器(ブラスティア)が目に入った。
それは何かの装置のような形をしている。
「あ、こっちは魔核(コア)が残ってるよ」
「その魔核(コア)をこれ使って、撃ってみて」
リタは懐から何かを取り出すと、ユーリに渡した。
「このリングについてるの、魔導器(ブラスティア)の魔核(コア)と同じものだな」
それは指輪の形をしていて、仄かに煌めく石のようなものは魔核(コア)の形状をしていた。
「術式を文字結晶化することで必要に応じてエアルを照射する魔導器(ブラスティア)-------ソーサラーリング」
エステルは再び、本で知り得たことを復唱してみせた。
「その説明、ちょっと違う。照射して魔導器(ブラスティア)にエアルを充填させる、が正解よ。・・・って、あんた知ってるの?」
「古い遺跡の鍵代わりになるとお城の本で読みました。本物は初めて見ます」
「お城・・・?」
エステルの言葉にリタが僅かに反応を示す。
リリーティアはさっとリタとに視線を向けた。
「撃てばいいのか?」
同時にユーリがリタに問う。
ユーリが機転を利かせてくれたことに、リリーティアは内心苦笑を浮かべて彼の気遣いに感謝した。
二人にはエステルは貴族出身だと話してあるが、<帝国>の姫君ということはさすがに知られるわけにはいかない。
これ以上、問題を増やさないためにも伏せておくのが懸命だろう。
しかし、知れたとまではいかなくても、エステルが”お城”といった時点でリタに疑うきっかけを与えてしまったことは確かで、彼女にバレるのは時間の問題のように思えた。
「あの魔導器(ブラスティア)の魔核(コア)をそのソーサラーリングで撃つだけよ。飛ぶ距離に限界があるから、試してみるといいわ」
ユーリは魔導器(ブラスティア)に向かってソーサラーリングからエアルを放った。
すると、魔導器(ブラスティア)がうなりを上げ、紋章なようなものが浮かび上がる。
「あれはストリムの紋・・・移動を示す紋章ですね」
エステルがそう呟くと、遺跡内に音が響いた。
音の方を見ると、階段が水中からせり上がってきていた。
階段が現れたことによって、さっきまで行き止まりだったのがさらに奥まで進めるようになる。
「は~ん、なるほど」
ソーサラーリングの性能に、ユーリは納得した笑みを浮かべた。
次の瞬間、遺跡内にいくつもある、それまでは壁のようにじっとしていた石像が急に動き出し始めた。
カロルは顔を青ざめてそれを指さす。
「あ、あれ・・・なに・・・?」
それはゴーレムといわれる、体すべてが岩でできている魔物であった。
魔物といっても生命体ではなく無機質な物質体で、
ただ自分たちのような生命体に反応してそれを攻撃するように仕組まれた、いわば機械人形なようなものだ。
その岩はとても固く、物理攻撃はほとんど効かない。
かといって魔術もこれといった有効的なものはなく、とても厄介な魔物であった。
「侵入者退治の罠ね」
少し怯えているカロルとは反対に、リタは冷静で慌てた様子はまったくない。
どの遺跡にもこういった侵入者避けの罠は必ずと言ってあるもので、魔導器(ブラスティア)研究のために遺跡に赴く機会が多いリタは誰よりもその危険を知っている。
そして、それは魔道士であるリリーティアも同じで、まったく驚いた様子もなく平然と侵入者退治の罠である魔物を見ていた。
「んじゃま、気をつけながら先を急ぐとするか」
さすがというべきか、遺跡が初めてであるユーリも今の状況を冷静に見ているようだ。
「いいの?あたし実はもっと奥に誘い込んであんたらを始末するつもりかもよ」
「罠より怖いのが、ここにいたよ」
再び見せたリタの不敵な笑みに、ユーリはやれやれと肩をすくめた。
だが、互いに本気で言っているようには見えず、寧ろ彼らのそのやり取りがおかしく見えてリリーティアは小さく笑みをこぼしたのだった。