第5話 天才少女
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地下に続く階段は二人並んでは窮屈なほど狭いものだった。
だがそれも下に降りるにつれてだんだんと広くなり、大きな空洞へと出た。
その大きな空洞の中には遺跡が広がっていた。
地下にあるため太陽の光はまったく射していないが、遺跡の中は少しだけ仄かに明るかった。
見ると、遺跡の壁に点々とだが光照魔導器(ルクスブラスティア)が備え付けられている。
この地下の光照魔導器(ルクスブラスティア)は、この遺跡を発見した後すぐに<帝国>の指示のもとに魔導器(ブラスティア)の技師たちが備え付けたものだ。
遺跡を発見した当時は漆黒の中だったらしい。
「遺跡なんて入るの初めてです」
「そこ、足元滑るから気をつけて」
目を輝かせて先へ進もうとするエステルにリタは注意を促した。
そんなリタをじっと見ているユーリ。
「なに見てんのよ」
ユーリの視線に気づいたリタは睨むように彼を見た。
「モルディオさんは、意外とおやさしいなあって思ってね」
「はあ、やっぱり面倒を引き連れてきた気がする。別に一人でも問題なかったのよね」
肩を上げわざとらしく言う彼にリタは大きなため息をついた。
「リタは、いつもひとりで、この遺跡の調査に来るんです?」
「そうよ」
「魔物とか、危険じゃありません?」
リリーティアはその様子を少し離れたところから窺い見ていた。
「何かを得るために、リスクがあるなんて当たり前じゃない。その結果、何かを傷付けてもあたしはそれを受け入れる」
「傷つくのがリタ自身でも?」
「そうよ」
さも当然とばかりにきっぱりと言うリタ。
そんな彼女の言葉にエステルは少し戸惑っている。
これにはリリーティアも眉をひそめた。
「悩むことはないんです?ためらうとか・・・」
「何も傷付けずに望みを叶えようなんて悩み、心が贅沢だからできるのよ」
「心が贅沢・・・」
エステルはリタの言葉に難しい顔で何やら考え込んだ。
「それに、魔導器(ブラスティア)はあたしを裏切らないから・・・。面倒がなくて楽なの」
リリーティアははっとして、さっさと遺跡の奥へと歩いていくリタの背を見た。
さっきの彼女の言葉、その声音がなぜか嫌に耳についたのだ。
そして、なんとなく理解した。
あの時、幼い頃の彼女と今の彼女を見たときに感じた違和感は、今の言葉の中にあるのかもしれないと。
リタを見詰めながら、リリーティアは不安な思いにかられていた。
いったい彼女は、この数年の時をどのように過ごしてきたのだろうか。
それが気がかりに思うほど、彼女が言った言葉は重く心に響いたのだった。
「(・・・・・・私がどうこう思うこともでもない、か)」
リリーティアは音もなく息を吐いた。
人にはそれぞれの生き方、考え方がある。
むやみやたらに干渉することも人にはいい迷惑だ。
ただでさえ彼女にとっては今回が初対面のようなものなのだ。
初めて会ったあの時は少しだけ言葉を交わしただけで、もう物心ついた年頃だったとはいえ、幼かった彼女の記憶にはほとんど残ってはいないだろう。
お互いに名前だって名乗っていなかったから、それは尚更のはずだ。
「なんか、リタって、すごいです。あんなきっぱりと言い切れて」
「何が大切なのか、それがはっきりしてんだな」
「わたしは、まだその大切がよくわかりません・・・」
「適当に旅して回ってりゃあ、そのうち、嫌でも見つかるって」
ユーリたちの会話を耳にしながら、リリーティアはふと考えた。
「(大切なもの・・・・・・)」
思えば、今までそんなことを考えることがなかった。
正確にはあの”戦争”から、いや違う、あの事件からそんなこと考えることはなかった。
「(考えるもなにも・・・すでに、大切なものなど・・・。あの時にすべて・・・・・・)」
リリーティアは表情は変えず、ただぐっと奥歯を噛み締めた。
「------リリーティア、リリーティアってば」
「!」
自分を呼ぶ声にはっとして、声のほうへ振り返った。
見るとカロルだった。
「どうしたの?ぼーっとしてさ」
「え、・・・ああ、ちょっと考え事してて・・・」
その時、 リリーティアははっとする。
気づくと自分の手がいつもつけている髪飾りに触れていたのである。
彼女は戸惑った。
それは本当に無意識なことで、訝しげに自分の掌(てのひら)をじっと見詰めた。
「リリーティア?」
「ぁ・・・いや、せっかく遺跡にきたからいろいろ調べたいなぁと思って」
彼女は肩を竦め、申し訳ないような笑みを浮かべた。
その戸惑いを誤魔化すように。
「だめだよ、先に盗賊団を捜さないといけないんだから」
「そうだね。ごめんなさい」
カロルと話している間も、その戸惑いは何故かなかなか消えてはくれなかった。