第5話 天才少女
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一行は研究員が指し示した方へと向かった。
少し狭い道に入って奥へと進むと、すぐに小屋が見えた。
リリーティアは一度足を止め、その小屋の様子を遠くから眺める。
周りは何ひとつ建物がなく、この道を歩いている間にも一軒も建物も何もなかった。
そのせいか小屋に続いている道では、誰一人として人の姿がない。
静寂の中にぽつんと佇むその小屋はまるで訪れる人を拒んでいるかのようにも見えた。
そんな雰囲気を感じで、先を歩いているカロルが「なんだか寂しいとこで嫌だなあ」と呟いている。
しかし、魔導器(ブラスティア)研究員であるリリーティアから見れば、その異様なほどの静けさが物事に集中でき研究に没頭できるとてもいい環境だなとも思えた。
「『絶対、入るな。モルディオ』」
小屋の前に辿りつくと、扉に張り紙が貼ってあり、エステルが声に出して読み上げた。
「ここか・・・」
ユーリはノックもせずにドアノブに手をかけたが、鍵がかかっているようで扉が開くことはなかった。
開かないと分かると、ユーリは仕方がないといった様子で扉を叩く。
「普通はノックが先ですよ・・・」
エステルは呆れたように言う。
リリーティアも苦笑を浮かべて彼を見ていた。
「いないみたいだね。どうする?」
「悪党の巣へ乗り込むのに遠慮なんていらないって」
カロルの言葉にユーリは何の躊躇もなく鞘から剣を抜いた。
扉を壊すつもりらしい。
「だ、だめです。これ以上罪を重ねないでください」
「ユーリ、それはいくらなんでも見逃すわけにはいかない」
エステルはユーリの腕を掴み、慌ててそれを止める。
これまでユーリが牢獄行きになる度にその裏で助けてきたリリーティアだが、さすがに目の前でやられては見て見ぬふりはできなかった。
「相手は悪党だぞ」
「せめて、ここに住む者が犯人だという確かな証拠があれば少しは話が変わってくるだろうけど、それ以外は認められない」
「下町の魔核(コア)を盗んだ犯人はモルディオで、そのモルディオはこの小屋の住人。それで十分だ」
「・・・・・・捕まえたい気持ちはわかるけど、こればかりは-----カロル?」
リリーティアは小屋の扉の前でごそごそと何かをしているカロルに気づいた。
「カロル、なにをしてるんです?」
その不審な行動にエステルもカロルに声をかける。
すると、ガチャっという音が小さく響いた。
「よし、開いたよ」
「え?だ、だめです!そんなドロボウみたなこと」
「・・・・・・」
勝手に鍵を開けたカロルにエステルは慌てたが、本人は平然としており、むしろ少し得意げである。
リリーティアはというと、ただただ言葉を無くしていた。
「・・・おまえのいるギルドって、魔物狩るのが仕事だよな?盗賊ギルドも兼ねてんのかよ」
「え、あ、うん・・・。まあ、ボクぐらいだよ。こんなことまでやれるのは」
カロルは歯切れ悪く答えると、ぎこちない笑みを浮かべた。
その様子から何か訳ありのようではある。
「ご苦労さん、んじゃ行くか」
「ほんとに、だめですって!」
思いもよらないところで器用さを見せたカロルの肩を軽くたたくと、エステルの静止も言葉も気に留めず、ユーリはさっさと家の中に入っていってしまった。
カロルもそれを追いかける。
「待って!ボクも行くよ~!」
「あ、待ってください!もう、どうしてこう・・・リリーティア、どうしましょう」
「・・・・・・はぁ」
ズカズカと人の家に入っていく二人に、リリーティアは返す言葉もなく重いため息をついた。
ここでじっとしていても、それもまた彼らが中で何をするか不安だ。
仕方なくせめて大事(おおごと)にならないことを願いながら彼女も家の中へと足を踏み入れた。
「すっご・・・。こんなんじゃ誰も住めないよ~」
「その気になりゃあ、存外どんなどこだって食ったり寝たりできるもんだ」
家の中には大量の書物が雑然と積まれて、様々な物という物に溢れ返っている。
ユーリとカロルはすでに部屋の奥まで入っていて、家の中を見渡していた。
「ユーリ、先に言うことがありますよ!」
「こんにちは。お邪魔してますよ」
「カギの謝罪もです」
「カロルが勝手にあけました。ごめんなさい」
なんの感情もこもっていない物言い。
どう聞いても悪びれている様子は微塵も感じらない。
そもそも彼は、はじめから悪びれるつもりはないのだろう。
「もう、ユーリは・・・。ごめんくださ~い。どなたかいらっしゃいませんか?」
そんなユーリの態度に呆れるも、エステルはすぐに気を取り直して丁寧な物言いで誰かいないか呼びかけた。
しかし、その言葉はただ空しく家の中に響くだけで、誰からの返事もなかった。
「居ないなら好都合。証拠を探すとするか」
ユーリはしめたとばかりに、なんの躊躇もせずに家中を探り始める。
その間、エステルは戸口から一歩も動かずに、戸惑いの中で彼らの様子を見ていた。
彼女同様、リリーティアも中に入ることはせずにそこから家の中の様子を窺い見た。
家の中は床の上にどっさりと積み上げられた大量の書物のほかに、壁際の棚にはまだ多くの書物が収められている。
ほかにも、魔導器(ブラスティア)の模型や、さらには巨大魔導器もあった。
巨大魔導器とは、結界魔導器(シルトブラスティア)などを含む、大きな魔導器(ブラスティア)のことをそう呼称している。
奥には大きな黒板があり、乱雑に書かれている文字の中に複雑な術式が一面に描かれていた。
「(・・・・・・あれは」)」
リリーティアはその術式を凝視した。
それはあまりに複雑に組み立てられた術式であった。
「(なるほど、あの公式を調べてるってことか・・・・・・)」
それらを含め、部屋の様子からはここに住む者は相当研究熱心な魔導士だということを窺い知ることができた。
「中に入ったらどうだ?寒いだろ、そこ」
「これ以上、罪を重ねるわけにはいきません」
ユーリは未だ戸口に佇んでいるリリーティアとエステルに中に入るよう促すが、
エステルはきっぱりと断り、何を言われようがただの一歩も足を踏み込まないという態度を示した。
「気にしなくていいのに」
「不法侵入の罪は、禁固一年未満、又は1万ガルド以下の罰金、です」
「(エステルには敵わないな)」
厳しい声でエステルは言ったが、やはり彼は何とも思っていないようだ。
彼女が<帝国>の定めている法の内容までも一字一句覚えていることにはリリーティアも思わず舌を巻いた。
「そこは事情を知ってるリリィがなんとかしてくれるってことで。なあ、隊長主席特別補佐さん」
「・・・なんとかって、・・・私だって一介の騎士には変わりないんだから」
ジト目でユーリを見るが、リリーティアの言葉さえもろくに聞きもせず、彼はさらに家の奥を探り始めた。
「リリーティア、いいんです?」
「・・・よくはない。・・・・・・はぁ」
エステルの言うとおり、これ以上の罪を重ねられると、たとえそれが義を以っての行動であろうと不法侵入に変わりない。
リリーティアは頭を抱えて、今日何度目かの大きなため息をついた。