第21話 覚悟
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砂漠から運ばれてくる夜風。
空に舞う砂塵。
そして、さらさらと流れ落ちる音。
リリーティアは街の北はずれにある流砂の前にひとり佇んでいた。
ここまでは街の人たちの陽気な声は聞こえない。
無機質に響く流砂の音が響くだけだ。
ただ彼女はその音を遠くに聞いていた。
彼女の耳に響くは、やつの情けない叫びと、彼の無情な声。
それは、”助けてくれ”と、”許してくれ”と、呆れるほどの悲痛な叫び。
それは、”その言葉を今まで何度聞いてきたのか”と、突き刺さるほどの冷淡な声
「(この私も・・・・・・)」
その叫びを何度として切り捨ててきただろうか。
弱き者たちの嘆きを。
強欲な者たちの喚きを。
リリーティアはじっと左手を見詰めた。
弱き者たちが命を請うまに、必要ならばと奪い取り。
強欲な者たちがどんなに金を積んでも、この怨みは買えない。
彼女は、そっとその手を下ろした。
「(それが、許されない罪でも・・・)」
『人殺しは罪だ』
ユーリが放った言葉。
その響きには、怒りと、確固たる意志が込められているのを感じた。
でも、それだけじゃない。
何かがその奥にあるような気がした。
自分にはけして分からない、彼の秘めた想いのようなものが。
『騎士として、君の罪を見過ごすことはできない』
それは、フレンからも同じように感じられた。
彼らにしか分からない。
いや、彼らだからこそ分かるものがそこにある。
秘めた想いは同じで、そして、互いにそれを理解しているからこそ、
互いにやりきれない思いがあるのだろう。
「ままならないものだな・・・」
いつまで経っても、この世の中は。
彼らはただ、人々の笑顔を守りたいだけだというのに。
互いに目指すものは同じだというのに。
それでも、ユーリもフレンも覚悟を決めた。
それぞれのやり方で、その想いを貫くと。
ユーリは誰かのために人を殺す。
そのために友からの非難にさえ敢えてさらされる。
フレンは誰かのために法を正す。
そのために友の犯した罪を義を以って糾弾する。
彼らはすでに覚悟があったのだ。
ダングレストでのあの時から、すべては選び取っていた。
たとえ、それが友と相対することになっても尚、変わらず。
「(やはり、私の認識は甘かった・・・)」
ユーリの覚悟も。
フレンの覚悟も。
私が思っている以上に、彼らの意志は遥かに揺るぎないものだった。
その結果、ユーリは再び命を奪い、フレンは親友の罪を知った。
彼らの覚悟を真に理解していれば、
ユーリの行いも、フレンの行動も、自分はその先を読めていたはずだった。
その判断を誤らなければ、
ユーリが命を奪うことも、フレンが親友の罪を知ることもなかっただろう。
だとしても、ユーリの行ったことを知る時は何れ訪れていたに違いない。
罪とはそういうものだ、きっと。
いつかは知られる時が来るし、知る時がくる。
「(私の罪も、いずれはきっと)」
それこそ、彼女の決意の中にある覚悟。
リリーティアは流れる流砂を再び見下ろした。
冷たい風が彼女の頬に流れ、紺青の空に浮かぶ細月の微かな光は、優しく包み込むように彼女を照らしている。
しかし、彼女が見ているものも、感じているものも、今は過去の中にあった。
「(例え、そうだとしても・・・)」
彼女の頬に流れるは、熱い風。
彼女の肌に照りつけるは、灼熱の光。
そして、彼女の瞳の奥に映るは、
砂漠に広がる----------。
リリーティアの眼が一段と鋭く細めらた。
しばらくして、堅く閉じられていたその口が微かに開かれる。
「やつらは、私が消す」
この世から、その存在のすべてを。
二度とやつらに脅かされない世界を手に入れる、必ず。
それこそ、彼女の覚悟の中にある決意。
その言葉は残酷なほどに重く響き、
その瞳は冷酷なほどに冷たく染まっている。
長い間、リリーティアはひとりそこに佇んでいた。
空に浮かぶのは、三十日月(みそかづき) 。
新月の夜が近づいていた。
第21話 覚悟 -終-