第21話 覚悟
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フレンが立ち去った後、すぐにユーリは向こうの潅木の中から出てきた。
そして、その場に佇み、じっと泉を眺めている。
ひとり何やら考え込んでいるユーリの姿に、
リリーティアは背を向け、そっとその場を立ち去ろうとした。
だが、また新たな気配に気づいて、リリーティアははっとしてその身を屈めた。
「あ、だめ、ラピード」
その瞬間、がさっと茂みの鳴る音と、焦ったような声が聞こえた。
ユーリの後ろに突然に現れる影。
それは、ラピードだった。
もちろん、声のほうはラピードではない。
その後ろからエステルが駆け寄ってきたのだ。
「ユーリ・・・」
気まずそうな表情のエステル。
いつからそこにいたのか、その態度からして、
彼女もフレンとユーリの会話を聞いていたことがリリーティアは分かった。
「全部、聞いていたのか」
その態度にユーリも事情を察したようだ。
それでも、彼女に知られたと分かっても、ユーリは普段と変わらない口調だった。
「は、はい・・・ごめんなさい」
エステルの方が、どうしていいか分からないといった様子で、ユーリは苦笑して彼女のもとへと近づこうとした。
が、エステルは逆に身を引いた。
ユーリが僅かに目を瞬かせ、途端にその表情は真面目なものに変わった。
「オレのこと、怖いか?」
「え・・・・」
ひょっとすると今の動きはエステル自身も無意識だったのかもしれない。
盗み聞きしていたことに対する申し訳なさと、
どう態度を取っていいか分からない為に取った行動だったのだろう。
ユーリに問われ、驚いたような表情が彼女の顔に浮かんでいた。
「嫌ならここまでにすればいい。フレンと一緒に帰れ」
エステルの唇が微かに震えた。
目を伏せ、しばらく黙り込むと、彼女は首を激しく左右に振った。
「・・・・・・帰りません」
「おまえ・・・」
「ユーリのやったことは法を犯しています。でもわたし、わからないんです」
それはユーリに向かって述べているというより、自分に語りかけているような言葉でもあった。
エステルは顔を上げ、しっかりと彼の眼を見る。
「ユーリのやったことで、救われた人がいるのは確かなのだから・・・」
ユーリは言葉を失くしていた。
二人の間には沈黙の時が流れる。
その沈黙の中で、街の中ではまだ浮かれ騒いでいる街の人たちの声が遠くに響いていた。
「いつか、おまえにも刃を向けるかもしれないぜ」
ようやく発したユーリの言葉。
その言葉にも、エステルはまた首を振った。
「ユーリは意味もなくそんなことをする人じゃない。もし、ユーリがわたしに刃を向けるなら、きっとわたしが悪いんです」
「・・・・・・・・・」
ユーリはまた黙り込んだ。
泉の方へと視線を移して、やがて彼は軽く息をついた。
「フレンと帰るなら、今しかねえぞ。急いでいるみたいだったし」
もう一度、彼女の意志を確かめるようにユーリが言うと、
エステルはやはりかぶりを振った。
「わたしはユーリと旅を続けます。続けたいんです」
エステルはユーリの横に立ち、同じように泉を眺め見る。
「ユーリと旅をしていると、わたしも見つかる気がするんです。わたしの、選ぶ道が・・・」
そして、ユーリに向き直ると、
「だから・・・」
そっと手を差し出した。
訝しげにその手を見るユーリに、エステルは微笑んで続けた。
「これからもよろしくって意味です」
ユーリはしばらく己の手を見詰めた。
ラゴウを、キュモールを、その手にかけた手。
彼女はそれを知って、自分の手を差し出したのだろうか。
「・・・ありがとな」
ユーリはそっと彼女の手を握り返した。
素っ気無い、だが、それゆえに嘘偽りのないユーリのその言葉を聞いて、
エステルの顔には、彼女らしいにっこりとした愛らしい笑顔が咲いた。
二人を窺い見ていたリリーティアは背を向けてそっと歩き出した。
その場を離れていく彼女の口元にも、小さく笑みが浮かんでいた。