第21話 覚悟
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それは、誰もが寝静まった時間帯。
街から少し離れたところに、ひとつの影があった。
爽涼な風が吹くと、砂塵と共にその影は棚引くように揺らめき、街とは反対方向に向かって進んでいる。
よく見ると、それは暑さ寒さから身を守る外套(ローブ)を身に纏っている一人の人物だ。
風に煽られるその頭巾(フード)の下からは、時折、薄桃色に彩られた髪飾りが覗いていた。
街からそう離れていない、少し小高い丘まで来るとその影は止まった。
「・・・ここか」
ぽつりの零れる声。
いつもよりも幾分か低い声だったが、それはリリーティアであった。
彼女は皆が寝静まった頃、ひとり宿を抜け出していた。
同じ部屋で休んでいたエステルやリタ、ジュディス、パティも、
砂漠の旅が続いた疲れもあったのか、今はぐっすりと眠っている。
おそらく別の部屋で寝ているユーリたちも同様に。
佇むリリーティアの視線の先には巨大な流砂がある。
流砂の手前には、木の杭と杭との間を紐で結びつけた簡易な柵がいくつか立てられているが、それは一部一部に設けられているだけの粗末なつくりであった。
あやまって落ちないように立られたというよりも、この先に流砂があるという単なる目印にしかすぎない。
十分な安全策も立てられていない危険な場所だが、そもそもここに住む街の人間はけして誰も近づかないという。
だから、柵などあまり必要ないのだろう。
「(まぁ、この方が好都合か・・・)」
流砂を冷たく見下ろす瞳の奥で、
リリーティアはやつの、キュモールの厭味な表情(かお)を映していた。
やつの言った言葉が彼女の脳裏に響き渡る。
----------『”体を売って腕を買ってもらってるだけの女”に何ができるんだい!』
さあ、何ができると思う?
幾度として闇に手を染めてきたこの 女(わたし)に。
----------『アレクセイもバカだね。この下民女に容易くそそのかされて』
本当にバカなのはどっちだ?
そそのかされているのが、自分自身だとは知らずに。
----------『貴族に歯向かう事が、どういうことか分かってるんだろうね!』
分かっている。
嫌というほどに。
その果てに、私は闇に生きる道を選んだのだから。
だから、お前もその身を以って知るだろう。
「・・・やつもまた潮時だ」
一段と低く響いたその声と共に、彼女は突然その身を翻した。
ばさっと音を立てる外套(ローブ)。
そして、もと来た道を戻り、街へと向かって進んでいった。
その足は力強く、その瞳はあまりにも冷たい色に染まっている。
彼女の左手は、腰に差した短剣の柄を強く握り締めていた。