第5話 天才少女
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「ここがアスピオみたいですね・・・」
岸壁に開いた、ぽっかりと大きな穴。
その大きな穴に圧倒されながら、エステルは呟いた。
ハルルの街を発ってから一夜明けて、一行は洞窟の内部につくられた街 アスピオ にたどり着いていた。
「薄暗くてジメジメして・・・おまけに肌寒いところだね」
洞窟の外とはだいぶ違った気候状態に、カロルは腕をさすりながら居心地悪そうにしていた。
「年中陽がささない街だからね」
「太陽みれねぇと心までねじくれんのかね。魔核(コア)盗むとか」
街の入り口まで歩いていくと、その街の門番をしている二人の騎士が立っていた。
「通行許可証の掲示をお願いします」
「許可証・・・ですか・・・?」
エステルは首を傾げた。
「ここは<帝国>直属の施設だ。一般人を簡単に入れるわけにはいかない」
「そんなの持ってんの?」
カロルの問いに、当然そんなものは持っていないユーリは肩をすくめた。
リリーティアは腰に下げている鞄の中から、何かを取り出すと、騎士の前に歩み出る。
「お疲れ様です。<帝国>騎士団 隊長主席特別補佐 リリーティア・アイレンスです」
魔道士であり、<帝国>の騎士団所属のリリーティアは当然のごとくその許可証を持っており、騎士の前にその許可証を示した。
同時に普段は左胸に着けてある<帝国>の徽章も一緒に掲示する。
<帝国>に従事している身分を証明し、自分の言動が偽りではないことを証明するためだった。
彼女は<帝国>の徽章を荷の中に入れて持ち歩いていたようである。
これを授かった当時から徽章は必ず着けておくという義務はないので、昔は常に着けていることが多かった彼女だが、いつからか時と場合に分けてそれを扱うようになっていた。
「え・・・あ!は、はい!確かに確認致しました。どうぞお通り下さい。遠路はるばるお疲れ様です!」
騎士はリリーティアの正体を知るなり、びしっと姿勢を正す。
許可証を確認すると、機敏な動きで敬礼をして彼女を迎えた。
「それから、この者たちは私がお願いして同行して頂いている者たちです。中へ入る許可をお願いできますか?」
「は、はい、もちろんです。どうぞ」
「ありがとうございます」
騎士は敬礼を解くことなく答えると、リリーティアは小さく笑みを浮かべて礼を述べた。
「あの、フレンという騎士が、ここへ訪ねてきませんでしたか?」
エステルが問うと、騎士はうっと言葉を詰まらせる。
そして、リリーティアをうかがうように見た。
アスピオは<帝国>直属の施設であるため、出入りを厳しく管理しているのと同様、一般人に施設内の情報を教えることは固く禁じられている。
もちろん、施設内で研究しているアスピオの関係者は、施設内の情報は些細なことさえも口外してはならないと<帝国>から厳しく言及されている。
リリーティアに対しては<帝国>の関係者であるから、ある程度の情報を提供しても問題はないが、ユーリたちは一般人であるために騎士はここで言っていいものか迷っているようだ。
「私からもお願いします。どうか教えて頂けませんか?」
彼女の言葉に、騎士はゆっくりとその口を開いた。
「・・・はい、訪ねてきております」
「! じゃあ、彼は今もここにいるんですね?」
エステルは表情を綻ばせて喜んだ。
「いえ、確か・・・、遺跡荒らしを捕まえるとかで、すでにここを出ていきました」
「そんな・・・」
すでにフレンがいないことに喜びから一変、彼女の表情は曇った。
「遺跡荒らしって?」
カロルは騎士に聞く。
「この近くにある遺跡で、誰かがその遺跡内に無断に侵入した者がいたのです。それを捕まえにここを発たれました」
大きく肩を落とすエステルに、リリーティアは彼女の肩にそっと手を添えた。
「エステル、元気出して。何より、フレンが無事であることは確かなんだから」
「はい、そうですよね」
エステルは頷いたが、まだ少し落ち込んだ様子だった。
「もうひとつ教えてくれ。ここにモルディオっていう天才魔導士がいるよな?どこにいるんだ?」
「モ、モルディオだと!?」
騎士はモルディオという名前が出た途端、なぜか声を上げた。
その表情には明らかに嫌悪感が見て取れる。
「あ・・・いや、私は知らない。中にいる者にでも聞いてくれ」
「・・・ふ~ん」
すぐに平静を取り戻すも、これ以上関わりたくないと言わんばかりに早口で話を切り上げた。
騎士の様子は誰から見てもモルディオの所在を知っているであろうことが窺えたが、ユーリはそれ以上追求することなく潔く引き下がる。
そして、一行は騎士の態度が気になりながらも、街の中へと足を踏み入れたのだった。