第20話 古慕の郷
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「これで買い忘れはないかしら?」
「ええ、今度こそ」
店の階段を降り、リリーティアは申し訳ないように眉根を寄せた笑みでジュディスに頷いた。
肩に背負う雑嚢(ざつのう)と共に、その腕には老婦にもらった外套(ローブ)をしっかりと持っている。
マンタイクで調達したリリーティアの外套(ローブ)は、巨鷲との戦いの末にひどく破れ裂けてしまった。
あれでは灼熱の砂漠の熱さも、凍てつく夜の風も凌ぐことができない。
そのために買い換える必要があった。
明日の準備をしている中ですっかりそれを忘れていたリリーティアは、ああして買いに戻った訳だが、買い換えるつもりが思いかけずに外套(ローブ)を貰うことになった。
彼女はその腕に持った外套(ローブ)を改めて見る。
それは何の変哲もない外套(ローブ)だ。
けれど、そこにはあの老婦の想いが込められている。
「大事に使わせてもらわないと」
この外套(ローブ)を見ていると、彼女の穏やかで優しげな笑みが脳裏に浮かんでくる。
大切にしよう、彼女はそう強く心に思った。
「そうね」
ジュディスも頷くと、
だから-----、と彼女は言葉を続けた。
「-------もう女性の顔に傷なんてつけてはだめよ」
リリーティアは目を瞬かせてジュディスを見る。
でも、ジュディスはそれ以上は何も言わず、ただ笑みを浮かべてみせるだけだった。
しばらく呆気に取られてそれを見ていたが、すぐに彼女の言葉の意味を理解したリリーティアは途端にバツが悪そうに肩を竦めた。
”無理をしないで”-------ジュディスはそう言っているのだ。
始祖の隷長(エンテレケイア)との戦いの末についた数々の傷。
すべて浅いもので大した傷ではなかったが、ジュディスはそれを気にしてくれていた。
皆が倒れる寸前まではなかったはずの傷が、宿で目覚めた時にはその身に負っていた傷。
自分たちが倒れた後にリリーティアの身に何があったのか。
エステルはあの怪物との戦いで負ったのだと思っていたが、ジュディスだけは何やら思うことがあるような感じであった。
それでも、ジュディスはけして尋ねることはなかった。
正直、リリーティアはそれが有難かった。
「ありがとう、ジュディス。しっかり肝に銘じておくよ」
そう言って、リリーティアは小さく笑みを返したのだった。