第20話 古慕の郷
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「数日分の必要な食料が・・・、パンと干し肉に---------」
ヨームゲンに一日滞在することになった一行。
そんな中、リリーティアはある店の前にいた。
階段を上った先、店の入り口前で彼女は膝をついており、床に置かれたいくつもの雑嚢(ざつのう)の中を覗きながらその中身を確認している。
確認し終えると、そのすべての雑嚢の開き口を紐でぎゅっと強く縛った。
「食料はこれで全部だから」
「了解っ・・・と!」
階段を上ってきたユーリはそのいくつかを背中に抱え持つと、身軽にその階段を下りていく。
そして、降りた先でユーリは立ち止まると、横目をやった。
その視線の先にあるのは、階段の下で力なく腰を下ろすレイヴンの姿。
「ほら、さっさとおっさんも運べよ」
「へいへい・・・」
ユーリにそう返事を返しながらも、一向に彼はその腰を上げない。
すると、目の前の宿、リリーティアたちが休んでいた隣の宿の戸口からカロルが出てきた。
「レイヴン、さぼっちゃだめだよ」
ユーリたちのもとまで駆けてくると、カロルはすれ違いざまにレイヴンに厳しい口調でそう言って階段を上がっていく。
それを恨めしげに見ると、ようやく彼は渋々とだが膝に手をついて立ち上がった。
「ほんと、『凛々の明星(ブレイブヴェスペリア)』はおっさんをこき使うわね」
深いため息をひとつ吐き、店に続く階段を上っていく。
レイヴンが重い足取りで上っている間に、カロルは食料が一杯に入った雑嚢を二つ抱えるとさっさと階段を下りていった。
「まったく元気だねぇ、・・・階段は年寄りには堪えるのよ」
レイヴンは階段を上り切ると、腰に手を当てて疲れたと言わんばかりにまたも深いため息を吐く。
彼がそう言うのも、ここヨームゲンは他の街ではあまり見られない住居形態をしていることにあった。
柱や杭(くい)を利用して床面を地表面よりも高くした様式---------- 高床住居 と言われるものだ。
それはとても古い様式であるから、現代ではどの地域にいってもほとんど見かけない造りであった。
だが、この街ではそれが主流のようで、どの建物も家の戸口に続くために階段が設置されていた。
高床住居はそうして床面が地表面から離れているため通風性に優れており、この温暖な地域の環境にとても適しているようだ。
それだけでなく、それは害虫などの侵入を防ぐという利点もあった。
そういった理由から、どの建物にも家に上がるための階段があり、もちろん今いる店の入り口にも階段がのびている。
しかも、様々な品物扱っているためなのか他の家屋よりの一層高く床面を造ってあり、その分階段は長い
「こんなちょっとの階段で何言ってんの」
階段を下りた先で、レイヴンを呆れて見上げるカロル。
カロルの言う通り、他の家屋より長いと言えども数段違うという微々たるものだ。
家屋の階段を上り下りを繰り返し、店から自分たちが休んでいる部屋まで何度か往復した後でも、
ユーリはまだまだ余裕を見せ、子どもでもあるカロルもまだ元気であったが、
「若者のペースに合わせてると確実に死ねるわ、俺様」
レイヴンだけはこうして疲れた様子を見せているのであった。
確かに少しの疲れはあるようだが、その疲れ様は少々大げさに見えた。
というより、おそらく大げさな素振りを装っているのだろう。
そもそも彼はこのぐらいのことで息を切らす人ではない。
リリーティアは苦笑を浮かべた。
「じゃあ、年寄りのペースに合わせてやろうか」
「・・・誰が年寄りよ」
この旅の中でユーリもすでにそれを分かっているのだろう。
そうと分かっていて、彼はわざとらしくレイヴンへと不適に笑ってみせた。
レイヴンはむっと拗ねた表情でユーリを見下ろし返していると、
「大丈夫よ、まだお若くていらっしゃるわ」
店の戸口からジュディスが出てきた。
その腕には用途様々な道具を抱えている。
「そうそう。わかってらっしゃる、ジュディスちゃん♪」
「それにおじさまは逞しい方だから、これぐらい一人で運べるのよね?すごいわ」
にっと嬉げに笑うレイヴンに、ジュディスは妖艶に微笑みかけた。
「おうよ!任せてくれ、ジュディスちゃん!」
レイヴンは力強く胸を叩くと、足元に置かれた食料入りの雑嚢のすべてを両肩に背負ってみせた。
さっきまでのあの疲れようは何処へやら。
相当な重量であろうそれを抱えたまま、颯爽と階段を駆け下りていった。
ユーリとカロル、そして、リリーティアが半ば唖然としてそれを見ている間に、あっという間に運び先の家に彼は消えていった。
「自分で年寄りって言ったくせに・・・」
「わかってやれよ。あの年頃のオヤジは繊細なんだ」
「あはは・・・」
ユーリとカロルがジト目でレイヴンが去っていった方を見ている中、リリーティアはただ乾いた笑いをこぼした。
「はい、これ。必要な道具一式ね」
それぞれに呆れている中、ジュディスはついさっき店から買ったものを何食わぬ顔でリリーティアの前に差し出した。
リリーティアは苦笑を浮かべながらそれを受け取る。
「・・・さすが、ジュディス」
その言葉にジュディスはただにこやかに微笑むだけ。
彼女のその笑みに、リリーティアは何とも言えない表情を浮かべると、
やっぱりさすがだなと、心の中でもう一度言葉をこぼして、受け取った道具を雑嚢の中に入れていった。