第20話 古慕の郷
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一行は賢人の屋敷を出でると、少し進んだところでエステルが小さくあっと呟いて立ち止まった。
その声に皆がその足を止めた。
「わたしたちを助けてくれたの、デュークかもしれませんね」
「どうだろうな」
ないとは言い切れないがと、ユーリは首を捻った。
エステルはさっき出てきた屋敷に目をやって、少し考える素振りを見せるとユーリを見た。
「わたし、お礼を言ってきます」
「やめとけ。そういうのはガラじゃねぇだろ、あいつも」
「そうでしょうか・・・」
そう止められても、エステルはまだ気になるようで屋敷のほうを見た。
リリーティアも彼女と同じように屋敷を見詰める。
「(そもそも、彼が助けたわけではなさそうだしな・・・)」
屋敷でユーリたちと会った時のデュークの反応には明らかに驚きがあった。
倒れていた自分たちを助けたのなら、彼のあの反応はありえない。
誰か自分たちを助けてくれたのかは分からないが、リリーティアには彼ではないことは確かだとはっきりと言えた。
「そういえば・・・」
不意にカロルが声をあげる。
「ね、始祖の隷長(エンテレケイア)って前に、遺構の門(ルーインズゲート)のラーギィ・・・イエガーも言ってたよね」
「たしか・・・、ノードポリカを作った古い一族ってやつか」
「フェローがノードポリカを?そんなわけないじゃない」
フェローがどうだかは分からないが、ノードポリカは始祖の隷長(エンテレケイア)との関わりが深いのかもしれない。
それは、今も尚も続いて。
ありえないと否定するリタと反して、リリーティアは以前からその考えに至っていた。
まだ推測のうちに過ぎなかったが。
「それに、あいつの言ってた〈満月の子〉って、前に言ってた凛々の明星(りりのあかぼし)の妹だよな」
この国に伝わる、凛々の明星(りりのあかぼし)と〈満月の子〉の古い伝承。
ノードポリカに訪れたその日の夜、エステルがユーリに教えたという伝承だ。
リリーティアもその夜に彼女と話したのを覚えている。
ユーリにエステルは頷くと、静かに目を閉じた。
「”地上満つる黄金の光放つ女神、君の名は〈満月の子〉。
兄、凛々の明星(りりのあかぼし)は空より我らを見る。
君は地上に残り、賢母なる大地を未来永劫見守る”」
それは、またノードポリカで子供向けに語った内容のものとは違う文句で書かれた伝承。
それをエステルは諳んじてみせた。
「それ、なんか意味あるの?」
レイヴンが力なく問う。
彼はせっかくの聖核(アパティア)を前にして、デュークに壊されたことをまだ引きずっている様子であった
「わかりません。でも、ただの伝承ではないのかもしれません」
「地上に残り、大地を見守る、ね」
「大地を見守るっていうのは、この世界を支配するってこと?」
ユーリとリタが考え込むと、カロルがあっと声をあげた。
「じゃあ、それが皇帝になる人ってことかな。エステルが〈満月の子〉なら、それでつじつまが合わない?」
「だとすると、・・・・代々の皇帝はみんな、フェローに狙われるってことになるわな」
カロルの見解に疑問を抱いたレイヴンの言葉にエステルはかぶりを振った。
「そんな話は聞いたことないです」
「そっか、うーん・・・」
謎が解けたようで、逆にまた謎が増えたとカロルは頭を抱え出した。
深く考え込むユーリたちに、ジュディスがさりげない口調で口を挟む。
「今はこれからどうするか決めた方がいいんじゃない?」
「・・・そうだな」
ユーリはすぐに気持ちを切り替えると、改めてこれからどうするか切り出した。
すると、一番にリタがこの街で調べたいことがあると声をあげた。
「澄明の刻晶(クリアシエル)、-------聖核(アパティア)のこととか色々調べたいの。あいつにもまだ聞きたいこともあるんだけど・・・。あの調子じゃ、ろくに話しもしてくれなさそうね」
それでも、聖核(アパティア)のことを調べる時間ぐらいは欲しいと彼女は言う。
「あんたらが今日にもこの街を出るなら・・・、あたしはここでお別れね」
「え・・・!」
リタの突然の別れの言葉に、エステルは思わず驚きの声を上げた。
そう言うリタもエステルたちと離れるのは少し未練があるような様子であったが、今自分がやるべきことは聖核(アパティア)を調べることだと、その意思は固いようだ。
「そう・・・残念、砂漠一人で大変だと思うけどがんばって」
だが、ジュディスのその冷静な言葉に、リタはうっと言葉を詰まらせた。
「・・・そうか、砂漠越えないとダメなんだった・・・」
後の事を考えるのを忘れていたとリタはため息と共に肩を落とした。
どうするべきかと、リタは考え込む。
それを見て、今まで彼らの様子をただ見ていたリリーティアがその口を開いた。
「リタ、調べるのは今日一日あれば大丈夫?」
「え、・・・ええ」
リタは戸惑い気味に頷くと、それならとリリーティアは言葉を続けた。
「どちらにしても、私たちもまたあの砂漠を越えないといけないし、そのための準備が必要になる。だから、今日一日は私たちもここにいるよ」
リリーティアが言うように、マンタイクに戻るといっても、またあの砂漠を数日かけて越えなくてはならない。
過酷な砂漠の旅は特に事前の準備はしっかりと整えることが重要である。
そのためには、今日一日しっかりと準備を整える時間を有するべきだろう。
「そうね、調べもんの間ぐらい俺らもいていいんでない?聖核(アパティア)のことは俺も興味あるし」
レイヴンも自分もそのほうが都合がいいとして、リリーティアの言葉に頷くと、ユーリも同じく賛同の意を示した。
「それに、俺たちにはアルフとライラの依頼があるからな」
ユーリたちにはあの兄妹の両親のことがある。
今は自力で立ち上がって元気な様子であるようだが、それでも、もう一晩は休養する必要があるだろう。
それも含めて、この街での一日の滞在は必要不可欠だ。
「ってことで、出発は明日にするか。リタもそれでいいか?」
「ええ、十分よ」
ユーリが改めて聞くと、リタは頷いた。
すると、すぐに彼女は皆から視線を逸らし、
「・・・あ、ありがと。一応、礼いっとく」
気恥ずかしげに言った。
小さな声だったが、それはちゃんと皆の耳に届いた。
「はは。どういたしまして」
ユーリは口もとに笑みを浮かべてそう返すと、リタはそそくさとその場を去って言った。
その後姿を見るリリーティアの表情も、そこには微かな笑みを浮かべていた。