第20話 古慕の郷
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リリーティアたちは部屋から出ると、間取りの小さな建物には宿の主人どころか誰もいなかった。
出ているのだろうかと、建物の外から出てみる。
やはり周りは緑に溢れ花も咲き誇る穏やかな気候であった。
この分だと、外での外套(ローブ)も必要ない。
同じ砂漠にありながら熱気こもったマンタイクとあまりに違っている。
リリーティアは不思議に感じながら空を見上げた。
青く抜けるような空が眩しい。
と、リリーティアははっと何かに気づき僅かに目を見開いた。
「(結界が・・・ない?)」
人が集まる場所には必ずといってあるはずの結界の輪がなかった。
どういうことだろうか。
結界魔導器(シルトブラスティア)が故障でも起こしているのか。
それとも結界魔導器(シルトブラスティア)がないのにもかかわらずここに人が集まってきたというのか。
そうしてリリーティアが怪訝に空を見ていると、
「ワン!」
突然、犬の鳴き声が空に響く。
見ると、それはラピードだった。
リリーティアたちが出てきた隣の家屋、その戸口の前にラピードが座っていた。
その家におそらくユーリたちがいるのだろう。
リリーティアがその姿を認めると、ラピードはこちらに歩み寄ってきた。
「ラピード!大丈夫でした?」
「ワフ!」
ほっと嬉しげに声を上げるエステルに、ラピードは元気よく声を返したが、頭を撫でようとした彼女の手からは逃げるようにしてその顔を背けた。
相変わらずラピードはエステルから触れられることに対しては良しとしていないらしい。
肩を落とすエステルの前でどこか澄ました様子のラピード。
その姿にリリーティアは苦笑を浮かべると、改めて周りをよく見渡してみた。
周りには点々として家屋が建っていて、街というよりは集落といったほうがいいのかもしれない。
遠くに目を向けると、その先には住民らしき人影がちらほらと見える。
「あそこにいる人たちに話を聞いてくるから、少し待ってて」
「じゃあ、わたしも一緒に・・・」
「ちょっと聞いてくるだけだから、ここで待っててくれていいよ」
「でも・・・」
何故かエステルは少し渋っていた。
どうやらまだ彼女はリリーティアの体調を気にしているのだろう。
とはいえエステルの治癒術のおかげか、実際にリリーティアの体調は良好ではあった。
「・・・いえ、やっぱりわたしも一緒にいきます」
だから大丈夫だとリリーティアが言おうとした、その前にエステルがきっぱりと言った。
相手に有無を言わせないような、はっきりとした声。
あまりに心配するエステルの姿にリリーティアは少しばかり戸惑った。
あの夢のせいでそこまで心配をかけてしまったんだなと、彼女に対して少し申し訳ない気持ちで、リリーティアは困ったような笑みを浮かべた。
そして、エステルの言葉に頷こうとした、その時である。
「なら、・・・あのおじさまと一緒に行ってもらってはどう?」
不意にジュディスが口を挟んだ。
見ると、ジュディスはきょとんとするエステルではなく、その向こうを見ている。
はっとしてリリーティアもそちらへ視線を向けると、さっきまでラピードがいた戸口の前に彼、レイヴンの姿があった。
ここにいる状況を飲み込めずに怪訝に辺りを見渡している。
彼のその姿を、リリーティアは目を凝らしてじっと見た。
「おろ?見目麗しいお嬢さんたちが先にお目覚め?」
リリーティアたちの存在に気がつくと、レイヴンはいつもと変わらない調子をみせていて、どうやら彼もどこか大きな怪我を負った様子は見られない。
エステルたちが言ったように、彼は確かに無事であった。
レイヴンの姿を認めたことで、胸の奥に抱えていた僅かな不安はようやく完全に消え、リリーティアはひとり静かにほっと息を吐いた。
「みんな無事っぽいみたいだけど、気づいたらこんなところにいるしさ。ここってどこなのよ?」
「分かりません。わたしたちも街の人たちに聞いてみようと思っていたところなんです」
尋ねるレイヴンに申し訳なさそうにエステルが答えた。
「ええ。それで、今ちょうどリリーティアが行ってくれるところだったの」
ジュディスは頬に手を添えると、レイヴンへと微笑んで続けた。
「だから、おじさま。・・・彼女と一緒に尋ねてきてくれないかしら?」
「ん?・・・ああ、いいけど」
ジュディスのその言葉に何か思ったのか、レイヴンは一瞬きょとんとしたが、それでもすぐに彼女の言葉に素直に頷いていた。
「なら、お願いね。彼女、まだ本調子ではないから」
そう言ってこちらを見るジュディスに、もう大丈夫なんだけど、と胸の内で呟きながらリリーティアは苦笑を浮かべで肩を竦めた。
ジュディスのその言葉を聞いてか、何か言いたげな視線をレイヴンに向けられたが、それには気づかないふりをして、リリーティアは街の奥に見える人影へとその歩を進めたのだった。