第20話 古慕の郷
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私は暗闇の中にいた。
光も影もない、黒一色の中に私一人。
ああ、またここに来たのか。
真実なる夢の中に。
あれから何度としてここに来たのだろう。
それはよく分からない。
けれど、いつもここが夢なのだということは何故かはっきりと分かっていた。
「おまえのせいだ」
暗闇に響く声。
頭に直接響いているような木霊。
これもいつものこと。
私はただそこに立って、その声を聞く。
「おまえのせいだ」
そうだ。
「余計なことをしなければ死なずにすんだんだ」
確かに余計なことだった。
「どうして私たちは死んじゃったの?」
「どうして僕たちが死ななければいけなかったの?」
私が余計なことをしたからだ。
「どうしておまえは生きている?」
「どうしてあなたは生きている?」
どうして?
「俺たちの命を奪ったおまえがなぜ生きている?」
「私たちの命を奪ったあなたがなぜ生きてるの?」
奪われないためにだ。
「どうしておまえはのうのうと生きているんだ?」
「どうしてあなたはのうのうと生きているの?」
そのために奪った。
「僕たちの命を奪っておいて!」
「あたしたちの命を奪っておいて!」
奪うために奪った。
「俺たちの命を奪っておいて!」
「私たちの命を奪っておいて!」
これからも、奪い続ける。
「お前がやってきたきたことは、すべてが間違いだったのだ」
罪だと知りながら。
「結界魔導器(シルトブラスティア)に愚かなる手を施し、災厄を招いた」
それが、私の選んだ道。
「結果、お前の愚かな行為によって多くの命が奪われたのだ」
それが、私の歩む道。
「お前が街を、多くの命を滅ぼしたのだ」
すべては自分のために。
「すべてがお前の自己満足にすぎなかったのだ」
これからだって、私のための道を進む。
「それが真実だ」
これが私のやり方で。
「すべてはお前の罪だ」
これが私の生き方だ。
「お前が殺したのだ」
やつらなどに脅かされない未来を手に入れてやる、必ず。
闇に木霊する言葉。
人なき声。
いつも同じ言葉で、同じ声で。
淡々とした感情もない声。
ただ真実を告げる言葉。
その声は容赦なく言い放つ。
その言葉は体に重く圧し掛かる。
それでも私は立ち続ける。
この罪と共に。
闇の中では何度も何度も同じ言葉が木霊し、
私はただずっとそこに立ち続けた。
そうして、やがてまた光がやってくるのだ。
それが夢の終焉、---------------のはずだったのに。
「”まだ抗うか、愚かな人間よ”」
っ・・・!?
これまでなかった新たな声が頭に響いた。
何故か体が小刻みに震え出す。
思わず腕を抱えたが、それでも震えは止まらなかった。
「”やはり、人間とはどこまでも罪深い種族よ”」
どうして・・・!
息が・・・できない。
胸が、苦しい。
かきむしる様に首を掴んだ。
どうしても息を吸い込めない。
「”あのクリティア族の男といい、〈満月の子〉といい。忌々しいものだ”」
苦・・しい。
言葉さえ、出ない。
言いたいことは山ほどあるのに。
自分の意思と反して、声は出てくれない。
寧ろ、胸はさらに苦しくなる。
あまりの苦しさに首を掴んでいた指が深く食い込む。
”声”は何度も木霊した。
何度も何度も繰り返し。
手が震える。
体が震える。
震えが止まらない。
体が凍える。
闇に染まる地面なき地面に額をつけるまで体を抱くように屈めても、
何度も腕をさすってみても寒さに震える体は冷えていくばかり。
苦しい。
息ができない。
頭の奥、脳が押し潰される。
寒い。
体中が悲鳴をあげている。
このままじゃ、本当にここで終わる。
そう思えた。
それなのに、何故か意識は途切れることはない。
長い間、息も出来ずにいるのに何故か意識は途切れることはなかった。
ならば、早く目を覚まさなければ。
そう思っても闇の中の夢は続く。
締め付けられるような苦しみ。
押し潰されるような痛み。
刃で刺されたような寒さ。
ああ、もしかして。
このままずっと苦しめということなのだろうか。
意識を失うことも許されず。
孤独の中の闇で、ここで永遠に苦しみ、痛み、凍えという。
これが罪を犯し続けた、私への罰なのかもしれない。
だったら、私はもうあの時に死んだということか?
・・・・・・なら、彼らはどうなった?
自分の命が尽きたのなら、彼らの命はどうなったんだ?
ああ、それだけでも教えてほしい。
いや、どうか無事であることを教えて。
それさえ、許されないというのなら。
せめて、せめてどうか----------彼の無事だけでも、ここに教えて。
お願い。
息が苦しい。
頭が焼き尽くされる。
体が刺されるように痛い。
闇の中、ただただ苦痛は増すばかりで、聞こえてくるのは”やつ”の声だけ。
どんなに願っても、彼らの無事を教えてくれるものはいない。
ああ、もしかして、私はまた守れなかったの?
また、奪われたてしまったの?
やつに。
やつらに。
・・・嫌だ。
それだけは・・・・、嫌だ・・・!!
お願い、誰か・・・・・・、
「しっか---し----く-----い」
・・・誰?
また、新たな”声”。
はっきりと聞き取れないけれど、さっきとは少し違う。
その時、不意に息が吸えた。
胸の奥に空気が入っていくのがはっきりと感じられる。
私は 何度も何度も息を吸い込んだ。
それでも、まだ焼けるような頭の痛みは容赦なく、体は凍え震えていた。
「しっかりして下さい!」
・・・誰?
また新たな”声”。
今度ははっきりと聞き取れた。
それは確かな声だった。
耳から響く、人の声だ。
その声が聞こえた瞬間、焼き付くような頭の痛みがどんどん鈍くなっていく。
そうして、痛みは消えてなくなった。
凍え刺すような体の痛みだけが残る。
「リリーティア!」
私を呼んでいる。
誰・・・いや、聞いたことのある声だ。
切羽詰ったような声でありながら、それは温かみのある優しい声。
気づけば、体中を襲っていた凍えるような痛みも和らいでいった。
瞬く間に体の震えは収まっていく。
私はゆっくりと立ち上がった。
顔を上げて前を見る。
その先は変わらず闇に染まっている。
「リリーティア」
また、あの声。
また、私を呼んでいる。
すると、闇の中から白く輝く光が見えた。
私は目を細めてそれを見る。
夢の終焉だろうか。
でも、それはいつもの光とは違う。
それはとても温かい。
その温もりはどこかで感じたことがある。
どこだっただろう。
「リリーティア」
温かい声。
優しい声。
その光はより一層輝き、闇を照らしていく。
それなのに、それは刺すような眩しい光ではなく、ただ優しさに溢れた柔らかい光だった。
まるで寒く厳しい冬を終え、新たな命芽吹く春の陽射しのような。
私は、一歩、一歩と、その光に向かって足を踏み出す。
未だ耳に響く自分を呼ぶ声。
確か、その声はいつも誰かを心配していた。
自分のことより、いつも誰かを想っていた。
人を想う優しい心がこもった声。
瞬間、視界一杯に光が溢れた。
ああ、そうだ。
私を呼ぶ、この声は--------------------、