第19話 砂漠
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「氷結せし刃 鋭く空(くう)を駆け抜ける-------フリーズランサー 」
強力な敵を前にも、ただひたすらにリリーティアたちは攻撃を仕掛け続けた。
無数の氷の弾が様々な高さから打ち出されるリタの水属性の魔術。
相手はその見た目同様、特性においても尋常ならざるものがあったが、ほかの魔物のように弱点はあるにはあるようだった。
ここまで来る間にも、砂漠に棲まう数少ない魔物と二、三度ほど戦闘を経験したが、そこにいる魔物の大半が水属性が弱点で、反対に砂漠に棲まう生き物らしく火属性には耐性があった。
そして、目の前の怪物もその魔物たちと変わらず水属性が弱点であることが分かった。
逆に火属性は耐性があるというのではなく、それ以上に厄介な特性----------吸収する力を持っていた。
つまり、その属性の攻撃をすると逆に相手の体力は回復するということで、攻撃すればするほど、相手の力は増していくのである。
はじめこそ、それとは知らずに攻撃をし続け、しかも、相手は痛覚がないから弱点である攻撃をしても怯むことがほとんどない。
その分、それらを見極めるのに時間はかかったが、ようやく足掛かりを見つけたところだった。
弱点である攻撃を重点的に、何よりも吸収性のある攻撃属性は避けることを徹底した。
「邪悪なる魂魄、光の禊(みそぎ)にて滅さん!-------グランシャリオ」
リタの術の後、七つの星が軌跡を描き爆発するように光弾け、エステル渾身の光の術が炸裂した。
弱点はなくともそれも耐性のない属性だ。
それなりに効果はある。
そうして彼女も、仲間たちを補助しながらも積極的に攻撃を仕掛けていた。
「蒼破、追蓮!」
「月影尖刃!
「鬼神千裂ノック!」
魔術のあと、ユーリ、ジュディス、カロルが矢継ぎ早に攻撃を仕掛けていく。
普段、前衛で戦っている彼らも隙を見てというのはもちろんだが、あまり近づきすぎないように細心の注意を払って技を繰り出し、距離の取り方には十二分に注意した。
移動の動きは遅いから、極端に敵に近づかない限りはさほど危険はない。
とはいえ、流暢に戦っている暇もなかった。
砂漠の横断で体力を消耗していたところに、この襲撃だ。
リリーティアの魔術で補助されているといってもその効力は永遠でもないし、体力の消耗も軽減されているとはいっても消耗しないというわけではない。
結局それはあくまで一時的な補助なのだ。
一刻も早く片をつけなければ、灼熱の暑さも相まって敵にやられるよりもまず自分たちの体力が尽きてしまう。
危険な状況の中にいることに違いはない。
「動きが変わった-------気をつけろ!」
それは、ユーリたち前衛が攻撃を仕掛けた直後のことだった。
怪物はくぐもった音を発したかと思うと、口らしき部分を大きく開いてみせた。
その中は黒く渦巻いていて禍々しい。
これまで見せたことない相手の動きに警告を発しながら、ユーリは急いで後退し一度距離を取った。
他の皆も彼に倣って今の立ち位置からさらに後退すると、相手の出方を見極める。
怪物は屈むように身体を曲げると弾けるようにそれを伸ばした。
と、同時にその黒く渦巻く口の中から何かが吐き出される。
「あ、あれなに?!」
ぎょっとしてカロルが叫ぶ。
その何かはよく見ると大きな球体だった。
瘴気に包まれたそれも黒く渦巻いている。
何かの攻撃かと身を構えた一同だったが、球体は怪物の口に吸い込まれて再び体内に収まった。
「(何も起こらない・・・?)」
リリーティアは訝しげに、そこに漂う怪物を見る。
いくら待っても、何も変わったことは何も起こらなかった。
変わりに怪物は声でない声で詠唱を始め、魔術を放ってきた。
けれど、それはなんら変哲もない水属性の魔術でしかなく、球体の吐き出したあの意味は分からなかった。
「そろそろ終わりにしてくんねぇかな、っと!」
意味の分からない相手の行動と長引く戦いに、半ば苛立ちに任せてユーリは剣をなぎ払い衝撃波を放つ。
続けて、ラピードとジュディスが攻撃を仕掛けるのを視界に、リリーティアも魔術を唱え始めた。
「ああ、もう・・・まだ倒れないの・・・!」
彼らに続いて、リタも苛立ちげに水属性の魔術を発動させた。
彼女が一番得意とする火属性の魔術はこの戦闘で一度も使っていない。
それも仕方がないことで、今や火属性の攻撃は相手に有利になるだけでしかない。
「(え、今の・・・?)」
リタの魔術が炸裂したその時、リリーティアは眉を潜めた。
魔術で攻撃された時の相手の様子がこれまでと少し違うような気がしたのだ。
違和感を覚えながらも、彼女は組み立てた術式を展開した。
「グラキエースフロース!」
そして、強大な氷のバラが現れ、花弁が舞う竜巻が怪物を飲み込む。
その直後、リリーティアははっとして目を見開いた。
「(違う・・・!?)」
しまったとばかりに険しい表情を浮かべて、先の魔術の攻撃が終わる前に、彼女は詠唱なく新たな術を発動した。
「焼き尽くせ、フラグランス!」
「え、・・・ちょっとそれ!」
後ろでリタが驚きの声を上げた。
何故ならリリーティアが放ったそれは火属性の魔術だったからだ。
燃え盛る炎が渦を巻き、敵を包み込むように焼き尽くさんとする攻撃魔術。
怪物が己の力として吸収する属性で、言えば相手の体力を回復させてしまう。
「あれ、効いてる・・・?」
「少し様子も違う気がするのじゃ」
はずだったのだが、彼女の放った火炎は怪物の表皮を焦がしていた。
それを見たカロルとパティが怪訝に首をかしげる。
戦いに入った始め、リタが試しに一度だけ火炎を放った時はそんなことにはならなかったのだ。
「もしかして、特性が反転して・・・?」
困惑した表情を浮かべるエステルにリリーティアは頷いた。
禍々しい球体を口から吐き出してすぐに体内に収めた、怪物のあの奇妙な行動。
あれは特性を入れ替えるための動きだったらしい。
目の前の敵は、どういう原理かは分からないが、
耐性と弱点をあの球体を用いることによって自在に入れ替えることができるようだ。
「ちょっと、ますます厄介じゃないの・・・」
レイヴンが面倒げにぼやいた。
自由に特性を変えられるということは、その都度攻め方を変えなければならない。
確かに面倒な特性ではあるが、球体を出した後という明らかな変化の兆候があるからと、一行は冷静に相手の行動に注意して攻撃を繰り出した。
しかし、実際はそんな簡単な話ではなかった。
球体を出した後に特性が反転するにはするが、考えていた以上にその行動も素早かったのだ。
例えば、弱点の火属性の攻撃を仕掛けようとしたら、怪物はそれを見計らうように直前になって球体を出し入れし、攻撃が当たった時にはすでに特性が反転しているせいで相手を回復させてしまう、ということがよく起きた。
そこで仕方なく、一行はあえて火と水属性のものを使うことを控えての攻撃へと変えた。
他属性でもあっても弱点のものより効力は下がるが、まったくダメージを与えられないというわけではない。
「ボク、もうダメ・・・」
「カロル、しっかり!」
しかし、それがまた戦いを長引かせるという原因になった。
長引く戦闘ではじめにリリーティアが施した魔術の効果も薄れ、小柄なカロルは完全に足腰がふらつき、今や前に出て武器を振るうことすら難しい状態となった。
膝をつくカロルに、リリーティアは唱えていた詠唱を中断して彼の傍に駆け寄ると、体力の低下を回復させる術を施す。
「命芽吹きし大地を包む 豊穣の守護者 西風の神 ここに-------デウス・ゼピュロス」
「あ、ありがと・・・」
なんとかその場に立ち上がったカロルだが、それでもやはり限界に近いようだった。
手に持つ武器は力なく砂地についたままで息をするのも苦しそうだ。
これ以上、前に出て戦うのは無理のようであった。
「暑いし、強いし・・・これ、ほんとに倒せるの・・・?」
「暑さに負けるなぁ、なのじゃ・・・!」
一層弱気になっているカロルにパティが一喝するように言った。
小柄といえばパティもそうだが、彼女はまだどうにかその場で銃を放っている。
カロルと違って遠距離からの攻撃が可能だからか、まだかろうじて体力は残っているようだ。
それでも、いつもよりもだいぶ辛そうだというのことは目に見えて分かった。
「(せめてあの球体をなんとか出来れば・・・)」
特性を入れ替える度にあの球体を出すことから、あの球体を壊すかどうにかすれば、それも出来なくなるはずだった。
だから、怪物が球体を吐き出した時はすかさずそれに攻撃を仕掛けていたが、
球体がそこあるのはあまりに短時間で、少しは攻撃を与えられているとしても、決定的な打撃を与えることは未だ出来なかった。
それでも少しずつとはいえど相手の体力も削れているはずだ。
一度カロルを下がらせると、頭巾(フード)の下でとめどなく流れ落ちる額の汗を拭う。
ここが正念場だ。
リリーティアは再び意識を集中させて詠唱を再開した。