第19話 砂漠
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「蒼き命をたたえし母よ 破断し清烈なる産声を上げよ -------」
「白き衣を纏(まと)いし季に 銀(しろがね)輝く氷柱(ひょうちゅう)隕星の如く降り注げ-------」
ゆっくりとこちらに向かってくる得体の知れない怪物。
それに対して、リタとリリーティアは魔術を詠唱し、それぞれに術式を描くと、
「-------アクアレイザー」
「-------フィンブルヴェド」
同時に魔術を発動した。
砂地から勢いよく水が噴出し、それが一列に伸びて相手を突き上げるリタの魔術と、
上空から巨大な氷柱が降り注ぎ、続けて氷柱が落ちた場所は花開くように術式が展開し、
そこから氷の柱が隆起するリリーティアの魔術。
二人の攻撃魔術が怪物に炸裂する。
「なっ・・・!」
リタは驚きの表情を浮かべた。
それなりの威力のある魔術をまともに受けながら、相手はまったく微動だにしなかった。
例えその属性に耐性があるといえど、あまりにも何事もなかったかのような様子でそこに漂っている。
「(あの威力で、一切の怯みを見せないなんて・・・)」
これにはリリーティアも僅かに苦い表情を浮かべた。
何よりリリーティアが放ったものは上級魔術のさらに上位、
この世の中で彼女本人しか扱うことが出来ないであろう最上級魔術であった。
それというのに、相手は何事も無かった如くにこちらに向かってくる。
「これならどうよ-------天誅!」
「喰らえ、なのじゃ! 」
二人の攻撃の後、すかさずレイヴンとパティが術技を放った。
レイヴンから放たれた複数の矢は高速で連射され、怪物の胴体にすべて突き刺さり、これもまた連射されたパティの銃弾も胴体を的確にとらえた。
しかし、それでも相手はまったく怯む様子もなく、弱った気配も見せない。
「おいおい・・・」
「痛みを感じないのかの・・・?」
信じられないとばかりにレイヴンとパティが呟いた。
確かに矢も銃弾も胴体に深くめり込んでいるのに、相手は苦しむ様子がまるでない。
どう見てもこの怪物には痛覚といものがないように見受けられた。
「だったら-------、」
「-----とことん斬り刻むまで、ね」
示し合わせたように、ユーリとジュディスが同時に駆け出した。
そして、二人は天高く飛んだ。
「空牙!」
「円月!」
ユーリは真下に向かって体ごと縦に回転して剣を振るうと、
ジュディスは残像さえ見える速さで、これも体ごと横に回転させて槍を振るった。
二人の刃先は巨大な体を抉り、ゼリー状の肉片が飛び散る。
そうして初めて相手の進みが止まった。
瞬間、その怪物は触手めいた尾びれを振り上げた。
上空で留まっている隙を突いてか、その尾びれは技を放ったばかりのジュディスめがけて突き下ろされた。
「ガウッ!」
だが、怪物の尾びれがジュディスをとらえる前にラピードが彼女の前に入り込み、口に咥えた短剣でそれを後方に弾き返してみせた。
甲高い音と共に閃光が迸る。
その隙にユーリとジュディスは一旦相手から距離を取ると、ラピードもすかさず後方へ下がった。
「見た目より素早いのね」
ふっと息を吐き、ジュディスが冷静に呟いた。
移動するその動きは遅鈍でありながら、攻撃となるとその動きは抜く手も見せぬかの如く俊敏なのがこの怪物の特徴らしい。
「なにあれ・・・!内側から盛り上がってるよ!」
「まさか、再生してるってのか」
見ると、ユーリとジュディスが攻撃して切り裂かれた箇所が歪にうごめいている。
そして、細胞が結合するように切り裂かれた跡は瞬く間に消えていった。
その表皮は攻撃を受ける前と変わりない。
そんな特性を持つ相手はこれまで初めてで、寧ろそんな生き物がいること自体信じられるものではない。
痛覚がない。
遅鈍でありながら、攻撃性は高く。
自然治癒能力が恐ろしく優れている。
目の前の敵は事実、怪物であった。
いくら相手は一体だけといっても、相手にするにはあまりにこちらの不利となる特性を持ち合わせすぎている。
どう見ても、この戦いは長引きそうだった。
戦いが長引くことこそ、灼熱のこの場においては最も自分たちにとっては不利なこと。
「(このままじゃ危険だ・・・!)」
リリーティアはぐっと武器を握り直すと、意識を集中させた。
彼女の足元には術式が浮かぶ。
「神々に遣えし抱擁なる導き手 慈悲なる御心と共に 我らに福音を----------アンゲルスカンパニュラ!」
すると、ユーリたちの頭上に羽根のようなものが描かれた術式が浮かんだ。
それが強く光輝くと、そこから光に包まれた白銀の天使の形をした白い影が現れ、
鐘の音が微かに鳴り響きながら白い影は光弾け、粉雪のような光の粒が一行に降り注ぐ。
温かく感じる光の粒子は、今は砂漠である灼熱の中にいるにもかかわらず、
その温もりは不思議な心地よさが感じられた。
エステルは目を瞬かせて、降り注ぐ光の粒子を見詰める。
「なんだか少し体が軽くなったような・・・」
「ええ。・・・でも、あまり当てにしないで」
リリーティアが発動した魔術は一種の補助魔術だった。
それは術式の範囲内にいる者たちの戦いの能力を向上させ、体力の消費を軽減させる効果があった。
簡単に言うと、いつもよりも術技の攻撃力が上がり、長時間体を動かしても疲れにくくなるといったところだ。
この不利な状況下、彼女は少しでもそこから脱するためにとユーリたちにそれを施したのである。
それでも、まだこちらが不利だということには変わりない。
リリーティアの忠告に皆が頷き応えると、こちらに向かってくる敵に武器を構え直した。