第19話 砂漠
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それからさらに数時間。
あの兄妹の両親を探しながら、一行は砂漠を北に進み続けていた。
相変わらず進めども進めども砂ばかり。
時折、魔物の骨が砂に埋もれているのを見かけるほかは、仙人掌(サボテン)も砂漠の入り口付近と比べるとその数も少なからず減っている。
一層、水筒にある水は貴重なものとなっていった。
「ところであんた、こんな砂漠に何しに来てたの?」
しばらく無言の中を進んでいたが、不意にリタがジュディスに向かって訊ねた。
これまでもデズエール大陸のことを、増して余程のことがない限りわざわざ立ち寄ることはない砂漠地域のことまで詳しいジュディス。
この砂漠に入ってからも、時折彼女はそんな言動をこぼしていた。
「ここの北の方にある山の中の街に住んでたの、私。友だちのバウルと一緒に」
途端、リリーティアはひたとジュディスの背を見据えた。
それもまた探るような眼で。
ジュディスは歩く足を止めず言葉を続けた。
「だから、時々砂漠の近くまで来てたのよ」
「砂漠に・・・?」
リタは怪訝そうに首を捻る。
だが、ジュディスはそちらを見ずに砂漠の先を見詰めていた。
「それにしても何かを探す余裕はなさそうね、これは」
「まったくな。自分の命繋ぐのに精一杯だ・・・」
額の汗を腕で拭いながら、重い足取りでユーリも同意した。
「早く何か手がかりを見つけなきゃ・・・」
「はい・・・」
カロルとエステルも重い足を引きずりながら歩き続ける。
再び訪れた無言の中、一行の最後尾を歩くリリーティアは未だジュディスの背を見ていた。
「(山の中にある・・・街・・・?)」
ここから北に街はあっただろうか。
リリーティアは思い返してみるが、自分の知るところではなかった。
住んでいたということは今は住んでいないということなのだろう。
彼女はこの大陸の出身ということなのか。
「(それに、ここから北のほうにある山というと・・・)」
ここから北、砂漠を越えた先には確かに山脈が広がっている。
デズエール大陸の西側全体を覆うように連なっているその山脈は、
あのガドスの喉笛という洞窟が通っていた山脈を母なるガドス山脈といわれているのに対し、父なるムゼリ山脈と呼ばれていた。
そして、その山脈の中にある山、それは----------。
「・・・・・・!」
リリーティアは反射的にそれ以上の思考を止めた。
喉の奥が張り付くような感覚に彼女は咄嗟に腰に提げる水筒に手をかけた。
だが、すぐに思い直した。
水の補給源となる仙人掌(サボテン)も、砂漠の入り口付近と比べると著しくその数が減っている今の状況下。
考えて水分を摂取しないと、次に補給する前に命の綱ともいえるこの水はあっという間に尽きてしまう。
リリーティアは音もなく大きくゆっくりと息を吐くと、水筒にあてたその手を解いた。
その時だ。
雲ひとつない抜けるような空に笛のような音が響き渡った。
リリーティアははっとして顔を上げると、同時に他の者たちもその足を止めた。
「今の・・・フェローの?」
エステルが上空を見上げて呟いた。
その音には聞き覚えがあった。
先立ってダングレストの空にも響いた音。
それは確かに、あの怪鳥の声だ。
「やっぱりフェローはこの砂漠にいたんだ!」
「急かすなって。あの子どもたちからの依頼が終わったら存分に相手してやろうぜ」
さっきまで辛そうにしていたカロルの声が少しだけ元気になっている。
ユーリも心なしかその声に張りが戻っているようだ。
口元にも微かな弧を描いている。
彼らが興奮気味に話している中、リリーティアは黙したまま声が響いた空の先をただ見詰めていた。
しかし、その声はそれきり聞こえず、ユーリたちはすぐに行軍を再開した。
皆が歩き始めても、リリーティアだけは何故かその場で動く気配を見せない。
その視線は未だ空へと向けられている。
何の意味が込められたものなのか、彼女はしばらく空を見据え続けていた。
そうして、頭巾(フード)を深く被りなおすと、彼女も再びその足を砂に沈めた。
太陽は徐々に傾きはじめ、無数に印されていく足跡を赤く染めつつあった。