第4話 奇跡
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ハルルに戻った時には、すでに日は沈み、空一面に星が瞬く夜になっていた。
本来ならば、結界の環の光とハルルの樹から不思議に放つ仄かな光に街は包まれているのだが、枯れてしまった今のハルルの樹では街全体がとても暗く、どこか物悲しい雰囲気に包まれている。
リリーティアたちは街に到着してすぐにこの街の長の元へ訪ねた。
街を出る前に事情を説明し、パナシーアボトルの素材となるルルリエの花びらを用意してもらうよう頼んでいたのである。
そして、長からルルリエの花びらをもらうと、一行は息つく間もなくよろず屋へと向かった。
「おっ、戻ってきたか。材料は揃ってるのか?」
「ちゃんとあるよ」
カロルが意気揚々と答えた後、集めた素材を店主の前に並べていった。
「エッグベアの爪、ニアの実、ルルリエの花びら・・・っと、全部あるな。よし、作業にとり掛かるぞ」
「お願いします」
それからさほど時間はかかることなく、パナシーアボトルが出来上がった。
「パナシーアボトルの出来上がりだ」
ユーリは店主からパナシーアボトルを受け取った。
「これで毒を浄化できるはず!早速行こうよ!」
「そんな慌てんなって。ひとつしかねえんだから、落としたら大変だぞ」
「う、うん。なら、慎重に急ごう!」
カロルの慌てように、よほど早くハルルの樹を治したいという気持ちが伝わってくる。
一行は早速ハルルの樹の根元に向かった。
「おおっ、毒を浄化する薬ができましたか!?」
ハルルの街の長がすでにハルルの樹のもとに来ていた。
気づくとそこには長から聞いたのかハルルの樹がよみがえることに期待を寄せる住人たちであふれかえっていた。
「カロル、任せた。面倒なのは苦手でね」
「え?いいの?じゃあ、ボクがやるね!」
目立つことを避けたいユーリはパナシーアボトルを渡すと、カロルは喜び勇んでハルルの根元へ駆けだしていった。
「カロル、誰かにハルルの花を見せたかったんですよね?」
「たぶんな。ま、手遅れでなきゃいいけど」
カロルはあの時たった一人、あの呪いの森と恐れられ誰も寄り付かない森の中、あの狂暴なエッグベアを倒そうと待ち構えていたのだ。
それは、よほど勇気のいることだっただろう。
それだけ、ハルルの樹をよみがえらせたいという意志が、そして、絶対に見せてあげたいというその誰かに対する想いが彼の中にあったのだ。
「・・・きっと、咲いてくれる」
リリーティアは自分にしか聞こえないほどの声で呟いた。
カロルのその想いがその誰かに伝わればと心から願って。
パナシーアボトルの蓋を開け、カロルは樹の根元に液体を振り撒けた。
すると、今まで闇に沈んでいた樹の幹が徐々に光を放ち始める。
街の人々からどよめきが起きた。
「樹が・・・」
「お願いします。結界よ、ハルルの樹よ、よみがえってくだされ」
ハルルの街の長は手を組み、強く願う。
しかし、その願いも空しく、その光はだんだんと弱り始め、ほどなくして完全に消えてしまった。
「そ、そんな・・・」
「うそ、量が足りなかったの?それともこの方法じゃ・・・」
エステルとカロルは愕然とした表情でうろたえた。
ハルルの街の人たちも、落胆した面持ちでハルルの樹を見上げている。
「もう一度、パナシーアボトルを!」
「それは無理です。ルルリエの花びらはもう残っていません」
「そんな、そんなのって・・・・」
エステルはそれでも諦めきれないといった様子でハルルの樹を見上げた。
彼女はカロルが誰かにこのハルルの花を見せてあげたいのを知っているからこそ、そのためにカロルが頑張っていたのを見ていたからこそ、この結果を誰よりも信じたくなかった。
そして、誰よりも強く願っていたからこそ、その瞳は悲しみに揺れていた。
カロルもただ呆然とその場に立ち尽くしている。
二人の様子をリリーティアは悲しげに見詰めていた。
「・・・ほかに方法はねえか?」
ユーリが周りに聞こえないほどの声でリリーティアに問う。
リリーティアは考える素振りを見せるも、難しい表情を浮かべて頭(かぶり)を振った。
今すぐにこれといった方法は考えられなかった。
その時、ふと見るとエステルがハルルの樹の前までゆっくりと歩み寄っていた。
そして、立ち止まると、ぎゅっと胸の前で手を組む。
「・・・お願い」
祈るように目を閉じて、呟いた。
瞬間、彼女の周りに光の粒子が微かに現れはじめる。
「エステル・・・」
「!?」
エステルのその異変に、ユーリは思わず彼女の名前を呟いた。
そして、誰よりもその異変に驚いていたのはリリーティアアだった。
リリーティアは目を瞠り、彼女を凝視した。
「咲いて」
エステルの祈りを込めた呟きに応えるかのように、突然ハルルの樹に閃光が走った。
あたり一面に光の粒子が舞い、樹はみるみるうちに仄かに光りに包まれると、
無数の蕾がふっくらと膨らみ、待ちきれないようにその固さをほどき始める。
そして、瞬く間に花が開いていった。
気づくと、ハルルの樹の上には見慣れた白い輪がいくつも浮かんでいる。
それは、誰から見ても分かるように結界魔導器(シルトブラスティア)が正常に起動している証拠だった。
そう、結界がよみがえったのだ。
「す、すごい・・・」
「こ、こんなことが・・・」
「今のは治癒術なのか・・・」
「これは夢だろ・・・」
ハルルの街の人たちは、驚きの呟くように言った。
懐かしい香りを胸に吸い込みながら、多くの人が口をあんぐりと開けて、
驚きを隠せない表情で満開に咲くハルルの樹を見上げていた。