第18話 黄砂の街
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「うわ、あつ・・・。もう、こんなに暑いんだ」
街を出てしばらく、カロルは顔を歪ませると頭巾(フード)を深く被った。
朝日が昇ってまだ一時間ほどしか経っていないのに、街の先に広がる砂漠はすでにあたり一面熱気に包まれていた。
「こりゃあ、想像以上だな・・・」
ガドスの喉笛からマンタイクまでの砂漠の道のりをも歩いてきたが、
それと比べるとこの暑さはすでに遥か上をいっている。
ユーリもこれにはさすがに驚いた。
「こんくらいの暑さでなーに言ってんのよ」
「だから、砂漠をなめるなって言ってんでしょ」
レイヴンは変わらずいつもの調子であるが、砂漠の危険さを知識として知るリタが睨みを利かして釘をさす。
「ずっと先まで砂ばかりですね」
地平線の彼方まで砂海が広がっている。
エステルは初めての砂漠に少し圧倒されていた。
所々に岩石や岩くずれ、そして、遥か遠くには点々と仙人掌(サボテン)が生えているのが微かに見える。
「んで、砂漠の中央部はこのままこの先を進めばいいんだな?」
「そうね。おそらくあの子たちの両親が連れていかれたのもこの方向だと思うわ」
騎士たちの目的もフェローだ。
彼らが同じ情報を持っているとは限らないが、砂漠にいるという情報を得てここまで騎士団が来ているということは、フェローの伝承に出てくる岩場のこともすでに情報として知っている可能性がある。
あくまで確立の問題ではなるが、フェローの調査をしている帝国の人間がその岩場を目指していてもおかしくはない。
そうだとして、ユーリたちは当初の目的どおりに、砂漠中央部にある岩場の方へ向かって進むことにした。
「・・・・・・・・・」
そうして彼らが話しているのを、リリーティアは半ば遠くに聞いていた。
彼女は眼前に広がる砂漠をじっと見詰め続けている。
やはり、そこは変わらない場所であった---------十年前と。
頬に流れる熱い風も。
肌に照りつける灼熱の光も。
砂漠に広がる、---------------生々しい欠片。
「っ・・・!」
リリーティアはぐっと奥歯を噛み締めた。
遠い過去の記憶が溢れそうになるのを抑えようとした。
けれど、それは少しずつ溢れ出る。
少しずつ、また、少しずつ。
砂漠に漂う、咽るような----------、
「(-------違う!)」
黒く染まる砂---------違う!
碧(あお)と紺青---------違う!
焦げ茶色の槍---------違う!
彼女は必死に言い聞かせた。
ただひたすらに、”違う”と。
胸の内で、何度も、何度も、繰り返す。
今はただひたすらに、遠い過去を、遠い記憶を、否定していく。
そして、深く、深く、沈めていった。
何もない、闇の中へと。
その時、不意に瞳に映るものがひとつ。
それは、----------碧(あお)と紺青。
彼女は僅かに目を見開くが、それも一瞬のことだった。
「
微かに開かれた口から零れた声。
その声さえも、深く、深く、沈んでいった。
何もない、闇の中へと。
「リリーティア、行きますよ」
闇の中から聞こえたのは、エステルの声。
気付くと、エステルが笑みを浮かべてこちらを見ている。
他の皆はすでに砂漠へと歩き出しているところであった。
「ええ」
彼女はふっと口元に小さく笑みを浮かべた。
その笑みはエステルに向けてなのか、それとも、自分自身へ向けたものなのか。
彼女自身、それは分からなかった。
どちらにしても、彼女はそこに笑みを貼り付けたまま、エステルへと頷いてみせた。
エステルも先へ進む中、リリーティアは静かに目を閉じると、音もなく深く息を吐いた。
それから、ゆっくり、ゆっくりと、その目を開く。
砂漠に広がるのは-------白い砂。
瞳に映るのは-------紫の背。
「大丈夫・・・」
そう静かに呟くと、彼女は頭巾(フード)を被る。
そして、果てしなく続く熱砂にその足を沈めた。
その瞳は、まっすぐに前を見据え。
その足は、力強く前へと進んで。
第18話 黄砂の街 -終-