第18話 黄砂の街
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翌朝。
一行は涼しいうちに宿を出発することにした。
外套(ローブ)を纏い、早々に砂漠へ向かう身支度を整える。
そして、部屋を出て広間に向かうと、まだ朝も早い時間帯だったからだろうか、自分たちが眠る深夜まで監視するようにそこに立っていた騎士の姿がなかった。
宿の主人に声をかけると、彼は受付机の上に人数分の水筒を出してくれた。
これも砂漠へ行く準備のひとつで、飲み水を入れる水筒の手配を宿の主人に昨日に頼んでおいたのである。
「あのぉ、どんな理由があるか存じませんが、やはり砂漠へ行くのはおやめになった方が・・・」
騎士の目がないからだろう。
宿の主人が声を潜めて、一行に気遣わしげに声をかけてくれた。
「サンキュ。でも、みんなで考えて出した結論だからな」
「・・・そうですか」
宿の主人はまだ少し心配げな顔で見ていたが、一行たちの意思が固いのを見ると渋々とだが頷いた。
それも見ても分かるように、やはりこの街の人たちはとても優しい人柄なのだろう。
「ところでさ、ここにいたあの騎士、何?」
騎士が立っていた場所を指し示しながら、カロルが尋ねた。
「ずっと見張られてて、おっさん、緊張しちゃったよ」
「ウソばっかり・・・」
カロルはジト目になってレイヴンを見た。
カロルの言う通り嘘なのは明らかで、彼はここに来た時点から騎士の姿にあまり気にしていない様子だった上、
昨夜は誰よりも先にぐっすり眠っていたのを皆が知っている。
「・・・あれは、監視です。住民が外から来た方と勝手に話をしないように」
宿屋の主人はさらに声を潜めて教えてくれた。
「理由はわかりませんが、執政官命令で私のような商売人以外は外出禁止なのです」
だから、何を尋ねても必要以上に答えてくれなかったほか、
街中に住民の姿が一切見えなかったというわけだった。
「その執政官ってキュモールって名前だったか?」
「ああ、はい。確かそうだったかと」
「やっぱりここでも悪だくみしてるのかな」
カロルが小声で言うと、ユーリも小さく頷いた。
その表情は僅かに険しい。
「つい最近まで執政官なんていなかったのに、とうとうここに来て・・・」
「そうなんです?」
エステルが首を傾げると、主人は頷いた。
「最近、ノードポリカで騎士団が動いているとか。この街に<帝国>の執政官が赴任してきたのもその波紋みたいですね」
リリーティアは闘技場で遭遇したフレンのことを思った。
確かに彼は単独で行動しているわけでなく、騎士団として行動していたはずだ。
そこには何か大きな目的があるのも確かだろう。
その目的まではリリーティア自身も知らぬところであったが、
続く主人の言葉は彼女自身にも思いがけない内容だった。
「遂に騎士団がベリウスの捕縛に乗り出したみたいですね」
「騎士団がベリウスを捕まえるの!?」
思わず、カロルが声を上げた。
表情には出さなかったが、これにはリリーティアも内心驚いていた。
「なんでも闘技場の統領(ドゥーチェ)が〈人魔戦争〉の裏で糸を引いてたらしいですから」
だから、統領(ドゥーチェ)であるベリウスの捕らえるのだという。
「ベリウスが・・・?」
ジュディスが聞き返したその時、宿の扉が開いた。
それは騎士だった。
「ご利用ありがとうございました」
「え・・・ちょ・・・」
戸惑うカロルの前で、主人は何食わぬ顔で一行たちへと一礼した。
「世話になったな。それじゃあ泉に水汲みにいくぞ」
騎士が戻ってきては、これ以上会話は出来ないだろう。
ユーリの先導のもと一行はそそくさとその宿を後にした。