第4話 奇跡
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「カロル、爪とってくれ。オレ、わかんないし」
「え!?だ、誰でもできるよ。すぐはがれるから」
無事にエッグベアを倒した一行。
ユーリは爪をとることを頼むが、カロルはあまりやりたくないようだ。
後ろで見ていたエステルはユーリたちを手伝おうとして倒れたエッグベアの元に近づこうとしたが、魔物特有の異臭にむせてしまっていた。
「エステルは周囲の警戒な。リリィも頼むわ」
「は、はい」
「了解」
リリーティアはエステルと共に、そこから少し離れた場所へ移動した。
周りを見渡し、エッグベアから放つ獣の異臭に他の魔物たちが寄ってこないか警戒する。
「も、もう動かないよね?」
リリーティアたちが警戒している中、カロルとユーリはエッグベアに近づいた。
とその時、ユーリはさっとカロルの背後に回り込んだ。
そして、なぜか不敵に笑うと、
「うわああああっ!」
ユーリがあらん限りの声で叫んだ。
「っぎゃあああ~~~~~っ!!」
「「!?」」
ユーリの叫び声にカロルは飛び跳ねて驚く。
リリーティアたちも彼らの叫び声に驚いて、慌てて二人の方へと振り向いた。
「驚いたフリが上手いなあ、カロル先生は」
「あ、うっ・・・はっはは・・・そ、そう?あ、ははは・・・」
悪戯な笑みを浮かべているユーリ。
明らかにカロルをからかっているのだが、カロル本人は平静を装うことに必死のようだ。
誰から見てもこの上ない驚き様だったのは明らかで、といよりもあの叫びはけしてフリではないことは聞いていただけでも分かる。
「何事かと思いました」
「・・・ほんとに」
エステルとリリーティアは顔を見合わせて苦笑を浮かべた。
呆れ半分、安堵半分のため息を吐き、リリーティアは再び周りの警戒を再開した。
「さ、戻ろうぜ」
そして、エッグベアの爪を無事に手に入れ、ハルルの街へ戻るためにもと来た道へと引き返して歩き出す。
「鼻、大丈夫、ラピード?」
「ワフ」
引き返してる道中、リリーティアは近くにいたラピードに声をかけた。
少し前までは辛そうだったラピードも今は平気なようで、彼女は小さく笑みを浮かべた。
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そうして、森を出ようとしたところで、後ろの方から微かに声が聞こえた。
その声に、リリーティアははっとして振り返る。
「ユーリ・ローウェル!森に入ったのはわかっている!素直にお縄につけぃ!」
それは、彼女にとってあまりにも聞き慣れた声だった。
「この声、冗談だろ。ルブランのやつ、結界の外まで追ってきやがったのか」
「ははは・・・、冗談ではないみたいだよ」
それは、シュヴァーン隊の小隊長 ルブラン の声で、あの下町の人たちから逃れて、どうにかこうにかここまで追いかけてきたらしい。
ユーリは結界の外まで追ってくるとは予想していなかったようだが、仕事に対して誰よりも忠義で義に熱い彼がそう簡単に諦めるはずもなく、
彼のことをよく知るリリーティアは、彼の事だから地の果てまでも追いかけてくるだろうと大げさにではなく、本気でそう思っていた。
「え、なに?誰かに追われてんの?」
「ん、まあ、騎士団にちょっと」
「またまた、元騎士が騎士団になんて・・・」
冗談でしょと笑っているカロルに、ユーリは何も言わず黙ったままだ。
エステルの方も見ると、彼女も黙ったまま何も言わない。
「だって、それに、騎士のリリーティアと一緒にいるんだし・・・」
そんな二人の意味ありげな沈黙に冗談ではないということを悟り出しながらも、カロルは、まるで恐る恐ると言った感じでリリーティアへ視線を向ける。
リリーティアも何と言えばいいか分からず、ただ肩をすくめてみせるだけだった。
「え、え、ええ~っ!!」
彼女らの様子にいよいよカロルも冗談ではないことを察せざるおえなくなり、声をあげて驚いた。
「す、素直に出てくるのであ~る」
「い、今ならボコるのは勘弁してあげるのだ~」
「噂ごときに怯えるとは、それでもシュヴァーン隊の騎士か!」
「(相変わらずだなぁ、ルブラン小隊長。あとの二人も、だけど)」
森の奥から聞こえてくる3人のやり取りを聞いただげで、思わずリリーティアは小さく声も漏らして笑った。
騎士にしては頼りない言葉が飛び交い、威勢のいい声がその言葉を一蹴する。
そのやり取りを今まで何度耳にしただろうか。
シュヴァーン隊の中でもアデコールとボッコスの二人は、特にルブランによく叱咤されいて、リリーティア自身何度もそれを見てきている。
「・・・・ねえ、何したの?器物破損?詐欺?密輸?ドロボウ?人殺し?火付け?」
カロルの口から出る犯罪行為が、どんどん重いものなっていく。
騎士に追われていると聞けば、追われている相手の人格を疑うのは仕方がない。
しかも、今、目の前にそんな人がいれば、警戒するのは当たり前だ。
「脱獄だけだと思うんだけど・・・」
大したことはしてないと言わんばかりのユーリの物言いに、リリーティアアは苦笑を浮かべた。
だけとはいえ、脱獄は立派な犯罪行為には変わりなく、騎士団が捕まえようとするのは当然なのだが。
そして、エステルを連れているという事がどれだけ重大なことであるのか本人は気づいているの気付いていないのか、リリーティアはいまいちユーリの考えが読めなかった。
おそらくは重大さに気づいていても気にはしていないのだろうと、これまでのユーリの行動を見てそう思っている。
ただはっきりしていることは、重大な問題の渦中の中にある当の本人、エステルはその重大さに気づいていないということだ。
「ま、とにかく逃げるぞ」
ユーリは不安げなカロルを尻目に周囲の草木を集めだすと、森の出口に続いている唯一の道を塞いでしまった。
「これでよしっと」
「だ、だめですよ!無関係な人たちに迷惑になります!」
「(・・・ルブランたちの心配もしてほしいんだけどな)」
逃げるためには仕方がない手段にしろ、少しは彼らのことも案じてほしいと思わずにはいられなかった。
「誰も通りゃしないよ。なんせ、呪いの森だからな」
そういうと、ユーリはそそくさと森の外へ向かって歩き出した。
慌ててエステルもユーリの後をついて行く。
「わ~、待ってよ~!」
何が起きているのか、今の状況をつかめずに呆然としていたカロルははっとして、二人のもとへと駆け出していった。
その場にリリーティアひとりが取り残されると、道を塞いだ草木のほうをじっと見る。
「彼らのことだから大丈夫だろうけど・・・」
そう呟くと、ユーリたちの後に続こうと歩き出す。
しかし、すぐにその足を止めた。
一瞬何かを考える素振りを見せると、踵を返して、道を塞いでいる草木の場所に戻る。
その中に体を埋めてガサガサと音を立てながら何かをし始めるリリーティア。
彼女は、パンパンと手を何度かはたき、納得したような表情で頷くと、今度こそユーリたちを追ってその場を立ち去った。
「(無事に森を抜けられるだろうか・・・)」
ハルルの街へ戻る道中。
リリーティアは、ルブランたちが無事に森を抜け出すことを願いながら、騎士団に追われている事情をユーリに問いただしているカロルの様子を後ろで眺めていた。