第17話 闘技場
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ゴーシュとドロワットを追って、大きな空洞の中を進んでいた一行。
途中からだんだんと周りが明るく照らされていき、そこからさらに奥の方を見ると光が射し込んでいる光景が見えた。
洞窟の出口だ。
「うっ・・・な、なに、この熱気・・・」
突然の熱風に襲われ、リタは腕で顔を覆った。
それは、洞窟の外から吹き付けてくる。
一行はさらに出口に向かって先へ進んだ。
洞窟の出口に近づくにつれて周りの温度が上昇していくのを肌から感じられる。
そして、その先で見たものは照りつける真っ赤に染まった太陽の下に広がる、一面の砂。
「ゴゴール砂漠だわ・・・」
ジュディスが呟く。
『海凶のツメ(リヴァイアサンのツメ)』を追いに追って、いつの間にか山脈をひとつ越えてしまったらしい。
ユーリたちは呆然としたように立ち尽くし、誰もがその場で沈黙した。
「・・・・・・」
リリーティアは視界に広がった光景を、何も考えることなくただじっと見続けた。
砂地の地平線に半分沈ませた真っ赤な太陽によって空は茜色に染まり、それは砂漠をも同じ色に染めている。
もう少しすれば、一日を終わりを示す紺青の色が瞬く間にこの空を染めていくだろう。
吹き付ける乾いた熱風のせいなのか、異様な息苦しさを感じた彼女はそっと胸に手をあてた。
「リリーティア」
誰もが黙り込む中、最初に口を開いたのはエステルだった。
後ろにいるリリーティアに振り返りながら呼びかける。
「・・・え?」
不意に呼びかけられたリリーティアは反応が遅れ、間の抜けた声がもれた。
「わたし、・・・やっぱりフェローに会いに行きたいです」
エステルは真剣な眼差しでリリーティアを見る。
ノードポリカではひとまず情報を集めて、ベリウスに会ってから砂漠に向かおうと話をしていたのだが、砂漠を目の前にして、フェローを探す気持ちが強くなってしまったようだ。
「待って・・・!二人だけで行かせられないよ!今のボクたちの仕事だって、エステルの護衛なんだから」
カロルが慌てて言うとエステルは視線を落とした。
彼女のその腕には再び紅の小箱が抱えられている。
また、しばらくの沈黙が続いた。
「・・・まあ、盗られた箱も戻ってきたし、もういいんでない?」
「まぁ、いつまでもあいつらを追っかけてるわけにもいかねーし。しゃあねぇな」
沈黙を破ったレイヴンが肩をすくめて言うと、ユーリも同調して頷いた。
『海凶のツメ(リヴァイアサンのツメ)』とは次に会った時に片をつけることにし、『凛々の明星(ブレイブヴェスぺリア)』は当初の目的通り、フェローを探すためにこの先に進もうという話になった。
「ちょっと待って、本当にわかってんの?砂漠よ?暑いのよ?死ぬわよ?なめてない?」
「わかってる・・・つもりです」
砂漠に行こうという話になると、リタがまくし立てるように割って入ってきた。
本人は認めないだろうが、それだけエステルの身を案じてくれているのだ。
それと分かってはいても、エステルの意思はすでに砂漠へと向かっていた。
「・・・砂漠は三つの地域に分かれてるの」
「は?」
不意に話し始めたジュディスに、リタは怪訝な視線を投げた。
その視線も気にせず、ジュディスは涼しい顔でこの砂漠地帯について話を続けた。
彼女が言うには、ゴゴール砂漠は砂漠西側の狭い地域が山麓部、最も暑さが過酷な中央部、東部の巨山部の三つの地域に分かれているということだった。
「山麓部と中央部の中間地点にオアシスの街があるわ」
「何の話よ?」
「前に友だちと行ったことがあるの。水場のそばに栄えたいい街よ」
リタがジト目で睨んでも、ジュディスはにこやかな笑みを返した。
「ひとまずそこでフェローの情報を集めてみてはどう?」
そして、それからどうするかを改めて考えたらいいと続けた。
「リタ・・・」
エステルの懇願に近い視線にリタは思わず目を逸らしたが、
何やら少し考え込んだ後、深くため息をついた。
「・・・わかったわよ。とりあえず、明日はそこまで行きましょ」
砂漠に出ること自体を危ぶんでいるリタだったが、オアシスの街までの砂漠の道のりに関しては承諾してくれたようだ。
エステルは笑みを浮かべ礼を言うと、それは照れ隠しなのだろう、リタはやれやれと大げさにため息をついていた。
「パティはどうするの?探してる宝物・・・麗しの星(マリス・ステラ)だっけ?その街に手がかりがあるとは限らないと思うんだけど」
「なに、人がいれば、それはことごとく手がかりになるのじゃ」
パティもその街までは一緒について行くという。
「じゃあ、今日はここで一休みだ。明日の朝にここを出発だな」
ユーリの言葉に皆が頷いた。
野宿の準備に皆がそれぞれに話し合う中、リリーティアはひとり洞窟の外へと顔を向けた。
そして、静かにその足を進める。
途端に頭上から照りつける強い光。
その瞬間、リリーティアはその場に立ち止まった。
進めた歩はたったの数歩。
彼女は立ち尽くしたまま目の前に広がる光景を遠くに見詰め続けた。
「(・・・ゴゴール砂漠)」
そこは、彼女にとって実に十年ぶりとなる場所だった。
長い月日が経った今も変わることのない場所。
頬に流れる熱い風も。
肌に照りつける灼熱の光も。
砂漠に広がる----------、
「-------っ・・・!」
リリーティアはぐっと奥歯を噛み締めた。
遠い過去の記憶が溢れそうになるのを必死に抑える。
彼女は目を閉じると、音もなく深く息を吐いた。
そして、ゆっくり、ゆっくりと、その目を開く。
「大丈夫・・・」
彼女は静かに呟いた。
太陽はあっという間に砂漠の中へと沈んでいく。
空は茜色から紺青の色へと変化しつつあった。
太陽が沈んだ砂漠を映し出す彼女の瞳。
その瞳は、ただまっすぐに前を見据え続けていた。
第17話 闘技場 -終-