第17話 闘技場
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「優しき光-------、ルーチェテネーラ」
ゴーシュとドロワットの上体を岩壁にもたせかけると、リリーティアは《レウィスアルマ》を右手に持ち、回復の魔術で体中に負った怪我の治療を施した。
擦り傷や小さな怪我は綺麗に治ったものの、深く負った傷はまだそこに残ってしまい、もう一度だけ回復を施したが、やはり完全に治癒することはできなかった。
自分の力ではこれ以上の治癒効力は見込めないだろう。
二人の意識はまだ朦朧としているようで、小さく呻き声を上げていた。
「命芽吹きし大地を包む 豊穣の守護者 西風の神 ここに-------、デウス・ゼピュロス」
最後にリリーティアは体力低下を回復する効力がある魔術を施すと、戦っているユーリたちの様子を窺い見た。
「こんな危険な魔物、ほんとに倒せるの?に、逃げたほうが・・・」
「どう見ても、この数の中を逃げ切れるようには思えないわ」
「地道に一体一体倒していくしかねぇな」
「ワンワン!」
コウモリ型の魔物、一体一体のそれぞれ攻撃はさほど強くはないが、
動きは俊敏で一斉に攻撃を仕掛けられたとなるとそれは強力なものとなる。
それに増して、魔物たちが集合形態となる黒翼の大鳥と変化した時の攻撃は凄まじい力を発揮した。
その上、どの攻撃もほとんど効かない。
「もう!集まったり散ったり、うざったいわね!」
「それに、何体かは倒しているはずなのに、減っている気がしません・・・」
「そういうのって一番堪えるのよねぇ」
「なに、がんがん倒せばいつかは終わりも見えてくるのじゃ」
個々のコウモリ型の魔物の数はあまりに多かった。
しかも、その数体を倒してても、集合体となった時のその大きさは何故か一切変わらずに大鳥へと変化することが出来ていたのである。
それがまた、いくら倒してもその数は減っていないような錯覚を起こさせた。
終わりが見えない戦いは、肉体的以上に精神的に辛いだろう。
どう見ても、この戦いは厳しいものとなりそうだった。
「(私もじっとしている場合じゃない・・・)」
背中の痛みもほとんど感じなくなり、リリーティアもユーリたちと同じように戦おうと立ち上がった。
その時である。
「し、ししょー・・・」
「!」
後ろから、か細い声が聞こえた。
どこか懐かしささえ感じる、自分を師と呼ぶ声。
それはドロワットの声だとすぐに分かった。
「ドロワット、よせ・・・」
そのすぐ後に、ゴーシュの咎める声が小さく響く。
リリーティアは心の内で苦笑をこばした。
今はお互い敵同士。
だから、師と呼ぶドロワットに対して、今の立場を考えろとゴーシュは言っているのだ。
ユーリたちと行動を共にする師を危うい立場にたたせるつもりかと。
振り返って見ると、二人ともはっきりと意識を取り戻したようで、力なく自分を見上げていた。
リリーティアは弟子たちの前に膝をつくと、ただ無言で頷いてみせた。
「大丈夫、あとは任せてほしい」という思いを込めて。
彼女は再び立ち上がると、もう片方の《レウィスアルマ》を引き抜いた。
「黄色の・・・あの魔物です・・・」
「え・・・?」
それは、搾り出したような声。
ゴーシュのものだった。
リリーティアは頓狂な声をもらして思わず振り返る。
ゴーシュの目はユーリたちが戦っているほうへと向けられていた。
「あれ、やっつけたら・・・チャンスと思うの・・」
ドロワットも同じほうを見ている。
彼女たちが言わんとしていることにはっとして、リリーティアもユーリたちの方へと視線を移した。
よく見ると、魔物の動きにはどこか統率がとれているように見える。
それは、無闇に個々に散ったり集合したりしているのではないようにも見受けられた。
「(そうか、群れで行動しているということは・・・)」
そこには、それを統率しているものがいる可能性が高い。
リリーティアは一体どのくらいの数が飛び交っているのか分からない魔物の群れの中に目を凝らす。
そして、彼女の目がはっと見開かれた。
「ジュディス!そこにいる黄色の触覚をもった魔物を先に倒して!それが群れをまとめてる!」
魔物の群れの中で立ち回っているジュディスに向けて、リリーティアは大声で叫んだ。
彼女の近くに、二人が教えてくれた魔物がいたのだ。
コウモリ型の魔物たちの頭には、それぞれに長い触角らしきものが伸びていた。
それは色彩に染まっていて、ほとんどが赤色か、または青であった。
触覚だけでなく、よく見ると僅かにだが羽も同じ色で染まっているようだ。
だが、その中にたった一体だけ、そのどちらでもないものがいた。
それが、ゴーシュとドロワットが言っていた”黄色の魔物”であった。
触覚が黄色で、その魔物だけは体と同じで羽は黒いままであったが、他のコウモリ型とくらべると少しだけ体も大きい。
「分かったわ!・・・こいつね」
ジュディスはすかさず黄色のコウモリ型を標的として捉えた。
他の皆もそれに倣ってそれぞれの行動を改め、そうして、あっという間にジュディスがその黄色の魔物を槍で突き倒した。
途端、他のコウモリ型の魔物たちがあちらこちらとまるで慌てたように飛び回り始めた。
それを見ても分かるように、やはりあの倒した魔物が群れを統率していたようだ。
「ありがとう」
ゴーシュとドロワットに背を向けたままリリーティアはそう呟くと、彼女もユーリたちのもとへと駆け出した。
それからプテロプスは一度として形態を変えず、集合体としての黒鳥の姿になることはなかった。
個々での戦闘だとしても油断はできなかったが、それぞれ一体一体確実に仕留めていき、中には洞窟の奥へ逃げるものも出始め、群れの数は少しずつ減っていった。
それから、どれくらい経ったのか。
だいぶ時間は掛かったが、リリーティアたちはようやくプテロプスとの戦いを終えたのだった。