第17話 闘技場
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どれくらい洞窟の中を進んだだろう。
前方でラピードがラーギィに噛み付いている姿が目に飛び込んできた。
「バウッ!!」
「ひっ・・・!おおお、お助けを!」
ラーギィはどうにかラピードの牙から逃れると、そのまま這って逃げ出す。
追いかけようとして地を蹴ったラピードだが、目の前に突如として輝きが噴出し始め、
たちまちラピードとラーギィの間を不思議な光が隔ててしまった。
ラピードに追いついた一行も、その光を前にその足を止めた。
「何なのじゃ、あれは」
「エアル・・・!」
エステルは驚く。
それはかなりの濃度のエアルだった。
「ケーブ・モックのと同じだわ!ここもエアルクレーネなの?」
リタも目を見張って叫んだ。
目の前の現象はあの森で見たものと同じであった。
「こりゃ、どうすんだ?」
「強行突破・・・!」
「・・・は無理そうね」
ユーリは一歩足を踏み出すが、どう見てもまともに触れれば命に関わる濃度のエアルが放出されている。
明らかに進む先を塞がれてしまっていた。
「こここ、こんなものに、たた、助けられるとは」
地面を這っていたラーギィは立ち上がって体勢を整えると、
ほっとした表情でさらに奥に逃げようと一行に背を向けた。
そんな時であった。
「うわっ!」
「なに?!」
カロルとエステルが叫ぶ。
突然、激しく地面が揺れ出したのだ。
そして、地響きと共にまた別の音が上の方から聞こえきて、一行は一斉に上空を見上げる。
「っ・・・!!」
その目に飛び込んできたものを見た瞬間、リリーティアの体は脈打った。
そして、その目はたちまち鋭く変わる。
彼女は静かにエステルの前に立つと《レウィスアルマ》に右手をかけた。
「あれがカロルの言ってた魔物か!?」
「ち、違う・・・あんな魔物、見たことない・・・」
その音は翼を羽ばたかせている音だった。
ユーリの前に広がったエアルの海に、翼を羽ばたかせた一頭の巨大な魔物がゆっくりと降りてきたのだ。
大きな羽と嘴(くちばし)を持ち、全体としては猛禽(もうきん)と馬を合わせたような姿である。
だが、それはカロルが言っていたプテロプスという魔物ではなかった。
「(始祖の隷長(エンテレケイア)・・・!)」
リリーティアは武器にかけた手にぐっと力を込めた。
単なる魔物にはないその独特の気配を彼女はいち早く感じていた。
始祖の隷長(エンテレケイア)は咆哮をあげると、大きく翼を広げて周囲のエアルを吸い込み始める。
「エアルを食べた・・・?」
その光景をリタが呆然と見詰める。
たちまちに噴き出していたエアルはなくなっていった。
エアルの放出を鎮めた後、始祖の隷長(エンテレケイア)は羽を羽ばたかせながらその場に留まり、一行たちを見下ろし続けた。
「(なに・・・?)」
リリーティアは思わず眉をひそめた。
ひたすら上空で自分たちを見下ろし続けている始祖の隷長(エンテレケイア)の目。
その目が長い間自分に向いているような、リリーティアはそんな気がした。
だが、すぐにそれこそ気のせいだろうと思い直す。
「(エステルを・・・、〈満月の子〉を見てるのか・・・?)」
自分のすぐ後ろにいるエステル。
彼女はただ呆然と見たこともない魔物を見上げている。
やつは、きっと〈満月の子〉を見ている。
リリーティアは始祖の隷長(エンテレケイア)をひたと見据えた。
神経を研ぎ澄ませ、右手にかけていた《レウィスアルマ》を僅かに引き抜く。
と、その時、始祖の隷長(エンテレケイア)は大きく羽を羽ばたかせた。
そして、まるで何事もなかったかのように、その場を飛び去っていったのである。
「いったい、何だったんだ・・・」
ユーリたちが今の魔物はなんだと言い合う中、その正体を知るリリーティアは武器にあてていた手をそっと解き、
始祖の隷長(エンテレケイア)が去っていた方をじっと見詰め続けていた。
「あ、逃げます!」
指をさしてエステルが叫ぶ。
突然の出来事にユーリたちと同じく呆気に取られていたラーギィだったが、再び洞窟の奥へと逃げ出していたのだ。
「よしっ、突撃なのじゃ!」
さっきまで濃度の高いエアルが溢れていた場所をパティが勢いよく突き進む。
他の者たちも駆け出す中、リタだけがエアルが噴出していた場所を覗き込んでいた。
エアルクレーネがある場所だ。
「暴走したエアルクレーネをさっきの魔物が正常化した・・・。でも、つまりエアルを制御してるってことで・・・。ケーブ・モックの時に、あいつが剣でやったのと・・・おんなじ・・・!?」
そして、そのままリタはひとり呟き続けている。
動かないリタに一行は足を止めて、ジュディスが問いかけた。
「気になるかしら?」
「わかってるわよ、わかってる。今はあいつを追う時・・・でも・・・」
リタは苦い表情でエアルクレーネがある場所を見下ろす。
本来、彼女はエアルクレーネを調べるために旅をしているのだ。
何より魔導器(ブラスティア)に関わることを放っておくことはできない彼女は、どちらの目的を重きにおいて動くべきか本気で悩んでいた。
「そいつはどこかに逃げたりすんの?」
「逃げるわけないでしょ!」
そんな時、不意にレイヴンが軽い口調で口を挟んだ。
真剣に悩んでいるというのに、彼のその物言いに思わずリタはキッと睨んだが、
「・・・あ・・・そっか・・・」
すぐにはっとして、その言葉の真意を理解した。
エアルクレーネの場所さえ突き止めたなら、あとはまたいつでも調査ができる。
単純にここへ訪れたらいいだけの話なのだ。
エアルクレーネはいつでもそこにあるのだから。
しかし、今追っているラーギィは待ってはくれない。
リタはすぐに真剣な眼差しを向けると、大きく頷いた。
「いいわ、行きましょう」
そして、ユーリたちは再び駆け出す。
彼らが駆け出す中、リリーティアアはエアルクレーネがある場所をじっと見た。
「(エアルを調整するためだけに現れたのか・・・?)」
〈満月の子〉が目の前にいながら、その場に去って行った始祖の隷長(エンテレケイア)。
ならば、ここで遭遇したのもエアルクレーネを鎮めようとしたところに自分たちが行き遭っただけに過ぎないのか。
「(・・・何もかも、偶然・・・?)」
リリーティアが特に気になったのが、エアルクレーネが突然大量のエアルを放出し始めたそのタイミングであった。
〈満月の子〉の存在がエアルクレーネを刺激した可能性を考えたが、今の段階ではなんとも言えなかった。
それに、突然現れた始祖の隷長(エンテレケイア)も、〈満月の子〉に手を出すことなく去って行ったのを見ると、〈満月の子〉だけがきっかけだったとは思えない。
「(それとも・・・、また彼女がなにか・・・)」
リリーティアはふとジュディスの方へ視線を向けた。
あの時、ダングレストの橋の上で、単身、始祖の隷長(エンテレケイア)と対峙していたように見えた彼女の姿を思い出す。
けれど、今回は会話を交わしていることは確実になく、何の素振りもなかった。
とにかく、これも今は考えている時ではない。
リリーティアもユーリたちの後に続いて、急いでその場を駆け出した。