第17話 闘技場
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「ユーリ!」
エステルの声と共に、リリーティアたちは観客席を降りて武舞台へと出た。
ユーリとフレンがいるもとへ駆け寄る中、ザギは腕を掲げたまま高らかに笑っている。
その目は大きく見開き、改造された片腕と相まって、あの船上で感じた時よりもさらに異様な雰囲気を醸し出していた。
「どうだ、この腕は?おまえのせいだ。おまえのためだ!」
ザギはにたっと唇を大きく弧に描いて不適な笑みを浮かべると、剣を手に取り、ユーリに向かって一直線に駆け出してきた。
「さぁ、この腕をぶちこんでやるぜ!ユーリ!」
「しつこいと嫌われるぜ!」
ユーリは剣を構えなおすと、彼も相手に向かって駆け出す。
ザギは地を蹴って飛び上がると、改造した腕を力の限りに振り下ろした。
ユーリは剣で受け止め、互いの間には甲高い音と共に火花が散る。
「ひゃっははは、ここが貴様の終焉の地だ!」
「奇妙な腕にしやがって・・・。その執念、もっと別のところに向けろよ」
武舞台の中央は、あっという間にザギとユーリの一騎打ちに成り代わる。
闘技場の観客たちは未だ戸惑いにどよめいているが、中には突然の闖入者に野次を飛ばす者や、その逆で、さらに熱のこもった声を上げてそれを楽しむ者もいて、その反応は様々であった。
「フレン!」
「エステリーゼ様、ここは危険です」
ようやくエステルたちはユーリたちがいる武舞台の中央までたどり着いた。
目の前ではユーリとザギが未だに激しく戦い合っている。
改造した左腕のおかげか、以前にも増して技のひとつひとつが早く、さらにその一撃に重さが加わっているようである。
だからなのか、あの船上での戦いよりも苦戦しているようで、戦っているユーリの表情には余裕がない。
「あんなの許せない、魔導器(ブラスティア)に対する冒涜よ・・・!」
リタはぐっと拳を握り締める。
その目は、これまでも酷い扱いをされた魔導器(ブラスティア)を前にしては見せていたものよりも、さらに怒りに揺れていた。
一瞬も視線を逸らすことなく、ザギを睨み見ている。
怒りにあふれた彼女の横顔に、胸の内に重く圧し掛かる何かを感じながらも、リリーティアも少し遅れて皆のもとへと駆け寄った。
「ひゃはは!崇めろ、ひれ伏せ、恐れろぉ!」
戦いが続けば続くほど、ザギは狂気的に感情を高ぶらせていき、様々な剣技を繰り出している。
その度に魔導器(ブラスティア)が嵌め込まれたその左腕は異様な光を放っていた。
「ね、ねえ・・・、なんかあの腕、ヤバイ音してない・・・!」
カロルがザギに向けて指をさす。
よく見ると、ザギの左腕はこれまでと違って怪しい光を帯び始めている。
「むっ・・・ぐわぁっ!」
そして、体を仰け反りながら、ザギは苦しげに左腕を掴んだ。
「制御しきれていない!あんな無茶な使い方するから!」
リタは怒りの表情に悲痛な表情を重ねて声を上げた。
異様な音を発している暗殺者の魔導器(ブラスティア)。
その音はリタからすれば魔導器(ブラスティア)の悲痛な叫び声に聞こえているに違いない。
「(これ以上は、命さえも・・・)」
僅かに表情を歪ませるリリーティア。
生物と直接つないでの魔導器(ブラスティア)の使用方法。
直接ということは、生命力を動力として魔導器(ブラスティア)を使うということだ。
そうすることで、通常のものよりも強力な武醒魔導器(ボーディブラスティア)として使えるという利点があるが、エアルではなく装備者の生命力を動力にするために、その分、無理に使えば本来のエアルでの使用時よりも装備者の体に大きな負担がかかり、さらには命にも関わりやすい。
「魔導器(ブラスティア)風情がオレに逆らう気か!」
それと知っているのか知らないのか、それでもザギは怪しく光る左腕を押さえながらも尚、戦いを続けようとしていた。
叫び声をあげながら、暗殺者は左腕の魔導器(ブラスティア)から光の弾を放った。
それが、引き金となってしまった。
乱暴な使い方によって不安定になった魔導器(ブラスティア)からは、装備者の意思と関係なく、次々と光の弾が放たれた。
「うわぁあ!」
四方八方と飛んでくる光の弾にカロルは頭を押さえながら慌ててしゃがみ込んだ。
リリーティアや他の皆も体を伏せ、無差別に襲ってくる光の弾から身を守った。
そうしてそれは、武舞台のそこら中に着弾して爆発を起こし、武舞台を覆うようにして煙が蔓延した。
すると、その煙の中から様々な咆哮と地響きが轟き始めた。
「ま、魔物!」
「どうしてこんなところに!?」
カロルとユーリが目を丸くして、煙の中から一斉に流れ込んでくる魔物たちを見る。
「見世物のために捕まえてあった魔物だ!今ので魔物を閉じ込めていた結界魔導器(シルトブラスティア)が壊れたんだ!」
フレンが声を上げた。
闘技場はたちまち大混乱となり、観客たちは逃げ惑う。
その混乱の中、ザギは腕を押さえながらたちこめる煙の中へとよろよろと歩き出している。
暗殺者は逃げに転じたようだった。
「ちっ、魔物の掃除が先だな」
魔物の数はあまりにも多い。
ザギを追うことを諦め、ユーリは魔物たちへと剣を構えた。
武舞台に流れ込む魔物たちは、閉じ込められて気が立っているのか、ひどく怒り狂っている。
リリーティアも《レウィスアルマ》を両手に引き抜き、今は魔物を退けることに集中することにした。
一行は襲ってくる魔物を倒していくが、一向にその数は減らず、後から後からと沸いて現れた。
「こりゃ、ちょいとしんどいねえ」
「口じゃなくて、手動かして!」
弓を持った腕を気だるそうに下げ、音を上げるレイヴンに、
リタは厳しい口調で言い放つと、すぐに詠唱を始めた。
「こんなにたくさん、・・・きりがありません」
「ええ。でも、フレンたちが動くまでの少しの辛抱だから」
エステルは紅の小箱を胸に抱いたまま、右手に細剣を構えて攻撃魔術を放っていく。
彼女の前では、リリーティアが刃を構築した《レウィスアルマ》で襲い掛かってくる魔物たちの牙や爪を弾き返していた。
その時、背後から強い光を感じた。
リリーティアが振り返って見ると、魔術の詠唱をしているリタの姿が光に包まれている。
そして、リタが魔術を発動させたのと同時に、その光の傍でもうひとつの強い光が放たれた。
それはリタの傍に立つエステルからだった。
より正確には彼女が胸に抱える紅の小箱の中から発せられ、箱自体も内から溢れ出す光に輝いている。
「(一体なに・・・?!)」
リリーティアは目を瞠る。
リタが放った魔術。
それは、火球を放つ火属性の魔術で、彼女が最も得意とするもの。
これまでも何度か目にしているが、どう見ても眼前のそれは比較にならない程の強力な波動に包まれているのが分かった。
いつもよりも遥かに大きい火球は激しい爆発を起こし、魔物が数体、跡形もなく燃え尽きた。
けして小さくも弱くもない魔物数体をたった一撃で消し去ったのだ。
その威力を物語るように、武舞台の地面には大きな穴まで開いている。
「ちょっと、どういうこと!?」
予想外の効果に術を放った当人が戸惑いの声を上げる。
「この箱のせい・・・?」
エステルは小箱を目の高さまで持ち上げると、困惑した目でそれを見る。
一体何が起きたのか、リリーティアも怪訝にそれを見たが、魔物たちが攻撃の手を緩めてくれるわけもなく、襲い掛かってくる魔物を切り倒す。
魔物に意識を向けながらも、その思考は今の現象についての疑問が巡った。
魔術が発動したのと同時に光を放った小箱。
突然にも暴走したように発動した魔術。
その現象から言えることは、箱の中にあるものはエアルに干渉したということだ。
「(澄明の刻晶(クリアシエル)って・・・まさか・・・)」
リリーティアが何かに思い至ったその時、エステルの小さな叫びが聞こえて振り返った。
見ると、ひとつの人影が紅の小箱を抱えて駆け去っていく姿があった。
疾風のごとくに走り去っていくその影をエステルが唖然として見ている。
「あいつ!」
驚きの表情の後、リタはきっと目を吊り上げて略奪者の後姿に叫ぶ。
信じられないことにエステルの手からその小箱を盗んだのはラーギィであった。
リタが叫ぶのとほとんど同時に、ジュディスとラピードが武舞台の外へと消える彼の後を追いかけているのが見えたが、目の前にいた魔物たちに行動がすぐに取れなかったリリーティアは、ひとまず眼前の魔物を一掃することに集中することにした。
「騎士団に告ぐ!ソディアは小隊を指揮し、散った魔物の討伐に当たれ!」
突如として闘技場内にフレンの声が響き渡った。
大会をアナウンスしていた男からマイクを借りて、隊に指示を出しているのだ。
フレンの声が響く中、相手をしていた魔物を倒し終えたリリーティアはエステルとリタのもとへと駆け寄った。
箱が奪われただけで、エステルに怪我はないようだ。
「残りは私と観客の護衛だ!魔物は一匹たりとも逃すな!」
観客の避難確保を指示するフレン。
僅かにたちこめる煙の中からフレン以外の騎士団の声が聞こえ始めている。
その時になって、ユーリやカロル、レイヴンもリリーティアたちがいる所へと集まった。
「ジュディスと犬っころが先に行ったわよ」
「みたいだな。オレたちも行くぞ」
苛立ちげに話すリタにユーリは頷くと、剣を鞘に収めた。
魔物による武舞台の混乱はフレン隊によって収拾しつつある。
もうここはフレンに任せて大丈夫だろう。
ジュディスとラピードと同じく、一行もラーギィを追って闘技場を後にした。