第17話 闘技場
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「ユーリ!がんばってくださーい!」
周りの賑やかさに負けないようエステルが声を張り上げた。
ラーギィからの依頼を承諾した後、ユーリは闘技大会の出場受付を済ませ、今まさにその大会が始まろうとしていた。
「ユーリならきっと大丈夫だよ」
カロルが自信に満ちた顔で闘技場の武舞台中央に立っているユーリを見ている。
大会に参加しないリリーティアたちは、武舞台を取り囲むようにして階段状に広がっている観客席から声援を送っていた。
「さあ、本日の一回戦!闘技場のニューフェイス!」
この闘技大会をアナウンスする男の声が闘技場の舞台全体に響き渡る。
「フレッシュギルド、『凛々の明星(ブレイブヴェスペリア)』のユ~~リ・ロ~~ウェ~~ル!」
途端に会場が一気に沸いた。
観戦する客たちは観客席のすべてを覆いつくし、その熱気は凄まじいものである。
「出たかったわ、私も」
「まだ言ってるし・・・」
頬に手をあてながらジュディスがため息を吐くと、それをリタが横目で呆れている。
ジュディスはこの闘技大会に興味があるらしく、誰か出るか話し合っていた時も出場してみたい様子であった。
この闘技大会は、まずトーナメント方式で行われる予選を勝ち抜いていく。
そして、三回勝ち抜けば大会のチャンピオンと対戦となり、見事チャンピオンに勝てば豪華な賞品と共にチャンピオンの座が譲られる、という方針であった。
つまりは、もしユーリと共にジュディスも大会に参加した場合、勝ち進めばいずれは互いの対戦相手になる。
それは勘弁だとしたユーリの言葉に彼女は仕方なく頷いたのだ。
今もああして残念そうな表情を浮かべていることから、どうも彼女は本気でこの大会に出てみたかったらしい。
呆れるリタの傍で、リリーティアも呆れにも似た笑みを浮かべた。
その見た目に反してといっていいのか、ジュディスは意外にも好戦的であった。
そこはユーリとまったく同じ性質らしい。
普段、静かな物腰でありながら、いざ魔物と戦い出すと、彼女はユーリと同じく生き生きとした姿を見せ、躍動感に溢れていた。
「対します相手は、この男だ!」
武舞台の中央には対戦相手も現れ、会場はさらに沸き始める。
一回戦の相手は投獄歴もあるという、全身が鎧で覆われた男であった。
互いに見合わせ、ユーリとその対戦相手の男はそれぞれの武器を手に取って構えた。
「さあ、地獄と天国の分かれ道!注目の第一回戦!----------ファイト!!」
アナウンスの戦闘開始の声。
会場は様々な声援が飛び交った。
観客席で他の皆が時折声援を送っている中、リリーティアはただ静かにユーリが戦っている姿を見詰めている。
「(ギルドの乗っ取りがキュモールの企み・・・)」
ユーリの戦う姿を目に映しながら、
彼女のその思考は『凛々の明星(ブレイブヴェスペリア)』が受けたこの依頼について巡らせていた。
キュモールと『海凶の爪(リヴァイアサンのツメ)』が繋がっているのは事実。
だが、『戦士の殿堂(パレストラーレ)』を制圧しようとしているのが、キュモールの企みだというのはどこか引っ掛かるものがあった。
彼の隊は今、フェローの捕獲でゴゴール砂漠で活動している頃だろう。
ヘリオードの時にように、キュモール自身がアレクセイの命令を無視して、また何か悪企みをしているというのも考えられることだが、『戦士の殿堂(パレストラーレ)』の乗っ取りに関しては、アレクセイがキュモールに命令することも、それを許すこともしないように思えた。
「(・・・あの人なら、もっと確実に)」
リリーティアは嫌な胸騒ぎがした。
真意は分からないが、何かが動き始めている。
彼女がそんな考えを巡らせている内に、ユーリは一回戦、二回戦とも打ち勝ち、ついに最終予選を突破した。
対戦相手は投獄歴のある者だけでなく、盗賊だと平然と公言する者であったりと、それこそ物騒な経歴者ばかりだったが、闘技場の参戦には問題はないことらしい。
「順調に勝ち上がったね!」
「ほんと、なかなか頑張るじゃない」
さすがだなぁとカロルは誇らしげに笑う。
その横で、はじめこそは興味なさげに観戦していたレイヴンも、腕自慢の男たちに難なく勝ち進むユーリを見て感嘆の声をもらした。
「いいぞ~、ニューフェイス~!!」
観客たちの熱い歓声が空に昇っていく。
円形の武舞台に新たな挑戦者が出る度に観客は大きな声を上げ、ユーリが勝ち進めると、それはさらに大きく熱狂的なものになっていった。
「まだまだ盛り上がっていくぜぃ!そう!次こそメインイベント!」
決勝戦のアナウンスが流れ響いた。
いよいよチャンピオンとの決戦である。
「紹介しよう!大会史上、無敗の現闘技場チャンピオン!」
すると、武舞台の門から人影が現れた。
ラーギィの話からすると相当な使い手のようだが、どんな猛者が出てくるのかと、リリーティアたちは固唾を呑んで見守る。
「ワォーン!」
突然、ラピードが遠吠えを発した。
何かを警告しているのか、その意味が分からない。
「え・・・!?」
「ど、どういうこと?」
だが、すぐにその意味を理解した。
戸惑い驚く、エステルとカロル。
他の者たちも驚きに目を瞠った。
「(そうか・・・彼に・・・)」
リリーティアは険しい顔つきで、現れたチャンピオンを見据えた。
その者、騎士の鎧をまとった金髪の青年。
「甘いマスクに鋭い眼光!フレ~~~ン・シ~~~フォ!」
ユーリの幼馴染でもある、フレンだった。
二人とも驚愕の表情で対峙している。
互いに何やら話をしているようだが、観客席からではその声は聞こえない。
「男たちよ!燃えたぎる熱き闘志を見せよ!注目のファイナル~ファイッ!」
お互いが今の状況が飲み込めないまま、戦闘開始の合図が鳴った。
途端、二人は剣を合わせ始めた。
ユーリの斬撃をフレンが盾で受ける。
戦いながらも二人は言葉を交わしている様子から、互いに一騎打ちを演じながらも何かを言い合っているらしい。
この状況をどうするか話しているのかもしれない。
「ちょっと、なによあれ!騎士団の隊長がチャンピオンだなんてありえないでしょ?変よ!」
リタが叫ぶ。
周りの観客たちは大いに盛り上がりをみせているが、エステルたちは戸惑いを隠せない。
「リリーティア、どういうことでしょう?」
「・・・私も分からない・・・けれど・・・」
騎士団の彼がここにいるということは、騎士団の任務としてここにいるのは確かだろう。
しかも、彼、隊長自らが動いているということは、よほど重要な任務であることも確かだ。
つまりは、彼は今、アレクセイ騎士団長の指示の下に、ここの闘技場の大会に勝ち抜き続けている。
その目的は『戦士の殿堂(パレストラーレ)』の制圧じゃない。
「(おそらく、真の目的は他にある)」
リリーティアは僅かに眉を寄せて、ユーリたちが演じている戦いを見詰めた。
その真の目的までは、彼女にはまだよく分からなかった。
戸惑いの視線を向けるエステルに、リリーティアは言葉を続けた。
「何者かの思惑にはめられたのは、確かだ・・・」
エステルたちに今はっきりと伝えられることはこのぐらいだった。
しばらくして、ユーリとフレンはいったん距離を置くと、再び剣と剣を交えて甲高い音が響いた。
この状況をどうするべきなのか、自分はどう動くべきなのか、
それとも、何もせずに見守るべきなのか、リリーティアはひとり思考を巡らせた。
と、その時、上空から叫び声が響き渡った。
「ユーリ~~~・・・ローウェル!」
上空から武舞台に乱入する男が現れた。
ユーリとフレンは戦いを止め、その男を怪訝に見る。
「ユーリ!オレに殺されるために生き延びた男よ!感謝するぜ!」
それは、ユーリを付け狙っているザギであった。
ノール近海の船上で戦った、あの暗殺者だ。
「これは大変!大ハプニング!舞台上の主役たちもお株を奪われた感じか!」
突然の出来事にもアナウンスが流れる。
その闖入者に観客席の熱い歓声もいつしかどよめきに変わっていた。
「これを見ろぉぉっ!!」
雄叫びに近い叫びを上げながら、ザギは左腕を掲げてみせた。
「っ・・・!!」
瞬間、リリーティアは息を呑む。
あまりの驚きに彼女はしばらく息をするのも忘れて、ザギの腕を凝視した。
「うわっ、あれ何!?」
「魔導器(ブラスティア)よ!あんな使い方するなんて・・・!」
カロルとリタが叫ぶ。
ザギは左腕を魔導器(ブラスティア)に変えていたのだ。
その腕に魔導器(ブラスティア)を直接つないでいるのである。
魔導器(ブラスティア)を生物と直接つなぐあの方法。
それは、世に出回っているようなものではなかった。
けれど、リリーティアは、彼女は、それを知っている。
正確にはそれと似たものを。
「なんか気持ちが悪くて動悸がするわ」
ザギの腕を見ながらレイヴンがぼやいた。
僅かに届いたその声を耳に、リリーティアは奥歯を噛み締める。
苦渋に歪みそうになる表情を意識的に抑え込んだ。
「(なら、・・・あれはあの人が・・・!)」
そして、その方法を知っているのは、彼女と、もう一人だけだった。
それは、彼女の言うあの人----------アレクセイだ。
ということは、今のザギの雇い主は<帝国>の騎士団長閣下ということになる。
「あの魔導器(ブラスティア)・・・!」
「あ、ジュディス!」
「ちょっと、何なのよ!」
突然にもジュディスが観客を押しのけながら下へと駆け出した。
武舞台へと向かおうとしているらしい。
エステルやリタも慌てて後を追い、皆が彼女の後に続いた。
「(当然、あれもヘルメス式・・・)」
真っ先に駆け出したジュディスの背を見詰めてリリーティアは心の内で呟く。
彼女は暗澹たる思いで、一足遅れて皆の後に続いていた。
だが、一度その足を止めると、先を駆けるエステルたちを見、そっと目を伏せた。
「(やはり、もう動き始めている)」
いや、もう加速し始めているのだ。
その勢いを止める事は、誰にも出来ない、きっと。
リリーティアはその目を上げた。
先を駆けていくエステルたちをじっと見据えると、彼女は再び駆け出した。