第17話 闘技場
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この街に訪れた頃に打ち上げられていた花火も今は止んでいるが、それでも街の中はまだまだ賑やかさに溢れている。
ギルドの街ダングレストに似た活気に満ちた街でありながも、またそれとは違う華やかさもあった。
しばらくの時間、一行は観光している気分の中で街の中を見て回ると、レイヴンもいるであろう闘技場内にある宿屋に一旦戻ることにした。
「あ、パティだよ。何してるんだろ?」
その道の途中のことであった。
闘技場へ続く大階段の近くに並んだ様々な露店。
その一軒の店の前にパティの姿があった。
露店の店主だろう、年配の女性と何やら話をしている。
「買い物みたいですね」
エステルが言うように店の商品を指し示しながら話していることから、買い物の最中のようだ。
リリーティアたちはパティがいる方へと歩み寄った。
「これとこれ、くれなのじゃ」
「は、はい・・・」
店主は商品を袋に詰めながら、パティの姿を不審にも何度も見返している。
それは、何か言いたげな表情でもあった。
「ちょっと、あんた・・・!」
その時、その店の他の客らしい中年の男が店主に向かって声をあげた。
そして、店主と客の男はパティに背を向けて、こそこそと声を潜めて何かを話し始めた。
「あのぉ・・・その格好・・・」
話を終えると、店主が恐る恐るといった様子でパティへと向き直った。
「・・・すみませんが、あなた、アイフリードのお孫さん?いやね、ちょっとした噂が流れてるんだ。アイフリードみたいな服着てその孫だって名乗る娘がいるって・・・」
「・・・・・・!」
パティははっとして目を大きく開くと、すぐにその顔を伏せた。
口は堅く閉ざされ、何も言葉を返さない。
彼女のその様子は明らかに肯定を意味していた。
店主が尋ねた通り、アイフリードの孫だと名乗る噂の娘とはパティのことだったのである。
「え?孫?孫って・・・」
少し離れた場所からその様子を見ていた一行。
カロルは信じられないとばかりに、その目を大きく見開いている。
一行の中でも一番驚きを露にしているが、実は彼以上に驚いている者がいた。
「(孫がいた・・・?)」
それは、リリーティアだった。
表情には出していないが、その心の内ではひどく動揺していた。
「・・・やっぱり・・・。えぇと・・・全部で450ガルドになります」
パティは視線を落としたまま、ただ黙ってお金を支払うと、
店主は商品を詰めた袋を彼女に手渡した。
「あ、あの・・・もううちにはあまり、来ないでいただけますか、ね・・・」
詰まらせながら言葉を零す店主にパティは背を向けた。
「それは、・・・うちがアイフリードの孫だからかの?」
「あ、えと・・・そのですね。うちは別にいいんですよ。でもね、ほらお客さんとかが・・・」
店主は言葉を濁すと、さっきの客の男へとちらりと視線をやる。
その視繊に男ははっとすると、慌てて首を横に振った。
「いや、ちょっと待ってくださいよ、わたしゃ、何もそんなこと・・・」
「ちょっと、言ったじゃないですか。ギルドの義に反した奴の孫が来たら店のイメージダウンだって」
互いに責任をなすりつけるような言い合いが何度か続いた後、客の男が不意に開き直ったかのような態度でパティを見る。
「人々を守るっていうギルドの本文破って、多くの民間人を殺戮した人物の孫だからな」
「そ、それは・・・・・・」
言葉を詰まらせ、俯くパティ。
リリーティアは何とも言えない表情でただじっとパティの背を見詰めていた。
何かが胸に圧し掛かるような感覚を覚えながら。
「・・・くだらねぇ話してるじゃねぇか」
その時、ユーリが歩を進めて割って入った。
「な、何だよ・・・?」
ユーリのその声には明らかに怒りが感じられ、その鋭い視線は相手を咎めるものだった。
その視線に客の男は少し怯んで身を引いた様子だったが、近づいてくるユーリを軽く睨み返した。
「こんな子どもに何の責任があるってんだ。こいつが直接何か悪いことをしたか?」
客の男はぐっと押し黙る。
店主も視線を落として口を閉ざし、辺りには重く張り詰めた沈黙が漂った。
「・・・まあ、ユーリ、そうカリカリするな。いつものことなのじゃ」
その沈黙を破ったのはパティだ。
背を向けたままでその表情は窺い知ることはできないが、声はいつもの調子であった。
「あんたね、こいつはあんたのことを思って-------」
「心配せんでも、うちはすぐにこの街を出ていくのじゃ。んじゃの」
リタの言葉を遮り、パティは店主に向かってそう話すと、
商品の入った袋を抱え直して足早にその場を去っていく。
「あ、パティ、待って-------」
エステルが最後まで言い終わらないうちに、パティは人込みの中へと消えていった。
店主はああ言ったものの少しは気にした様子で、パティが去って行った方をしばらく見ていたが、客の男はというと何やら不満げに呟いて、すぐに店から離れていった。
「パティがアイフリードの孫って、どういうことでしょう?」
「そんな話聞いたことないけど本当なのかな?」
パティが去っていった方を見ながらエステルとカロルが話す。
「さあ、・・・どうだろうな」
店から離れ、一行のもとへと戻ったユーリは肩を竦めて続けた。
「にしても、アイフリードってそこまで評判悪いのか?」
「ブラックホープ号事件でギルドの信用を地におとしめたから、ギルドの関係者は悪く言う人が多いよね」
船に乗っていた財貨を奪い、数百人という民間人・乗員を殺害したアイフリード。
その事件はかれこれ5年以上も前のことだが、今も尚、ギルドの信義を穢したとしてギルドの人々から忌み嫌う対象となっている。
「そういや、騎士団にも追われてるって言ってたよな」
ラゴウの屋敷でエステルが話していたのを思い出し、ユーリがリリーティアを見る。
「・・・ええ。<帝国>市民の間でもその名はひどく恐れられてる」
殺害されたその民間人の多くは<帝国>市民であったのも拍車となり、大半の市民がギルドに対する不信感をさらに募らせてしまった出来事でもあった。
追われているといっても、騎士団が今もその居所を捜索しているわけではないが、現在も<帝国>全土に指名手配されている。
つまり、ギルド間での限った話ではなく、その名は<帝国>市民の人々の間でも忌み嫌う対象だということだ。
リリーティアはさっきから感じている、胸の内に何か重いものが圧し掛かった感覚を捨てきれないまま、アイフリードについて彼に話して聞かせた。
表向きの真実を。
「・・・なるほどな」
カロルとリリーティアの話を聞き、納得したようにユーリはひとり頷いた。
彼は一度パティが去っていった方を見ると、すぐに踵を返して、闘技場へと向かって歩き始めた。
「あ、ユーリ・・・パティ、ほっといていいんです?」
エステルがユーリを呼び止める。
「あの子のことよ、強く生きるわ、きっと」
ジュディスの言うとおり、これまでのことを見てきても、どんな危険な状況下にあってもその独特の感覚で切り抜けてきたパティだ。
困難を切り抜ける強い力を誰よりも持っている。
ギルドの者たちのあの態度も街に訪れる度に経験してきたことだろう。
だからといって慣れるものではないと思うが、それでも今はだたそっとしておくべきだ。
今の自分たちが無理に介入することではない。
「それより早く帰らないと、おっさんが待ちくたびれてまた悪さを始めかねないぜ」
そう言うと、闘技場の階段に向かってユーリは再び歩き始めた。
皆が彼に続いて歩き始める中、リリーティアはひとり後ろへと振り返った。
その目はパティが去って行った方向を見ている。
だが、すぐにその視線はさっきまでパティが訪れていた店へと向けられ、店の店主が新たな客から商品の代金を受け取っているのを見た。
その時、こちらの視線に気付いたらしい、不意に店主と目が合うが、店主ははっとして、逃げるようにすぐにその目を逸らした。
リリーティアは眉根を寄せて、どこか悲しげにその様子を見詰めた。
「リリーティア」
その呼ぶ声にリリーティアは返事をして振り返ると、ユーリたちが先へ進んでいる中、エステルが足を止めて待っていた。
「やっぱりパティのこと、気になりますよね」
パティが去って行った方を遠くに見詰めるエステル。
その言葉にリリーティアは頷きかけたが、その口を閉ざした。
気になるのは確かたが今の彼女には素直に頷くことが出来なかったのだ。
「行こう、エステル」
リリーティアは心配した表情を浮かべるエステルに声をかけると、
階段を上り始めるユーリたちの後を足早に追った。