第17話 闘技場
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「おかげで依頼は無事完了よ」
フィエルティア号は無事にノードポリカの港に入った。
操船士のトクナガをはじめ、『ウミネコの詩』のギルド員が船から積荷をおろしている中、カウフマンはユーリたちに向き直って笑みを浮かべた。
「約束どおり、フィエルティア号はあなたたちにあげるわ」
「やったね!ありがとう、大事にするよ」
約束通り船を残してもらってカロルはぐっと両拳を握って喜んだ。
そうして、一行は積荷をおろしている『ウミネコの詩』のメンバーや社長(ボス)のボディガードの男に向けて簡単に別れの挨拶を交わすと、カウフマンと共に桟橋を渡って港を歩き始める。
「駆動魔導器(セロスブラスティア)の交換は手配しておくわ」
桟橋を渡ってノードポリカの港を歩く中、カウフマンが言う。
実は船の駆動魔導器(セロスブラスティア)はだいぶ古い魔導器(ブラスティア)であった。
幽霊船との遭遇の際、突然停止した駆動魔導器(セロスブラスティア)を調整していた時、リリーティアとリタ、そして、船に関しては目端が利くパティがそれに気付き、このままそれを使用していると近いうちに海の真ん中で難破する可能性があると指摘した。
それを聞いて、カウフマンは不承不承ではあったが、港に着いたら駆動魔導器(セロスブラスティア)の新調を約束してくれたのである。
「あ、こ、これはカウフマンさん。い、いつも、お、お世話になって、い、います」
その時、一行の前を歩くカウフマンとすれ違いざまに、痩せすぎの男がひとり声をかけてきた。
「またどこかの遺跡発掘?首領(ボス)自ら赴くなんて、いつもながら感心するわ」
「い、遺跡発掘は、わ、私の生き甲斐、ですから」
カウフマンはその男と親しげに話している。
下がった眉とずり落ちそうな眼鏡がいかにも弱弱しく見えるが、話を聞く限り、男はあるギルドの首領(ボス)であるようだ。
「あれ、誰・・・?」
「『遺構の門(ルーインズゲート)』の首領(ボス)ラーギィよ」
尋ねるリタにレイヴンが答える。
「『遺構の門(ルーインズゲート)』?何か覚えある・・・」
「そりゃあ、<帝国>魔導士の遺跡発掘をお手伝いしてるギルドだし」
「ああ。それで聞いたことあるのか」
発掘用の服なのだろう、動きやすそうな作業着に身を包んでいる男 ラーギィ を見ながら、リタは納得したように頷いた。
「(『遺構の門(ルーインズゲート)』の首領(ボス)・・・)」
リリーティアはじっとラーギィを見る。
魔導士である彼女も当然『遺構の門(ルーインズゲート)』の存在は昔から知っているが、その首領(ボス)と会ったのはこれが初めてであった。
「で、では、な、仲間を待たせてお、おりますので、こ、これで」
最後まで平身低頭な態度でカウフマンに深々と頭を下げると、
ラーギィは急ぎ足で去っていった。
「いい人そうですね」
去っていくラーギィの後ろ姿を見ながら、エステルが微かに笑みを浮かべて言う。
だが、リリーティアはどこか探るような目でラーギィを見詰めていた。
エステルの言うとおり、気弱で温厚そうな姿からは人柄の良さが感じられる。
けれど、それだけでなく、リリーティアの目にはどこか茫洋とした掴みどころのない人物のようにも映っていた。
何故、そう見えたのか。
自分が『遺構の門(ルーインズゲート)』の、ある事実を知っているせいもあるのかもしれない。
「ねぇ、前に兵装魔導器(ホブローブラスティア)を売ってるギルドの話をしてたわよね」
カウフマンへ顔を向けて、リタが不意に口を開く。
「そこに魔導器(ブラスティア)の横流ししてんのあいつらじゃない?」
そして、ラーギィが立ち去っていく後ろ姿へ、疑うような視線を投げた。
その言葉にリリーティアはただじっとリタを見る。
「『遺構の門(ルーインズゲート)』は完全に白よ」
カウフマンはきっぱりと言い切った。
それは当然の如くの物言いで、なぜそう言い切れるのかとユーリが理由を尋ねてみると、『遺構の門(ルーインズゲート)』は”温厚で、まじめに、こつこつと”が売りのギルドであり、長年の功績からみても信頼できるギルドだからだということらしい。
「・・・・・・」
カウフマンが断言する以上、リタは何も言わなかったが、それでも独り言を呟きながら、何やらひとり考え込んでいる。
誰よりも魔導器(ブラスティア)のことを想っている彼女にとっては、ギルド内での魔導器(ブラスティア)の流通経路がどうにも気になるようだ。
「じゃ、私はもう行くわ。凛々の明星(ブレイブヴェスペリア)、がんばってね」
「はい!」
この後もまだ仕事があるらしく、カウフマンは元気の良いカロルの声に笑みを浮かべると、大勢の人々が行き交う街の中へと消えていった。
「それじゃあ、うちも行くのじゃ。うちにはうちのやることがあるからの」
パティも新たな場所での宝探しのために、ここからはまた一人で行くらしい。
しばらくはこの街で情報を集めるということだった。
「色々と世話になったの。道中気をつけろ」
「おまえがな」
ユーリは半ば呆れた表情を浮かべ、街中へ駆けていくパティを見送った。
「んじゃ、こっちはこっちで仕事してきますかね」
面倒そうな素振りでレイヴンは賑やかな街をのぞんだ。
エステルの監視と、彼のもうひとつの仕事、
『戦士の殿堂(パレストラーレ)』の統領(ドューチェ)、ベリウスへ親書を届ける。
ベリウスの私室はおそらく闘技場の中だろうと、レイヴンはひとり街中に向かって歩き出した。
「ボクたちも行ってみようよ」
「そうだな。フェローの事、なんか知ってそうだし。挨拶がてら、おっさんをダシに会ってみようぜ」
その時、レイヴンは足を止め、ジト目でユーリたちへと振り向いた。
「・・・だだ漏れで聞こえてるんだが」
そう言って、彼はやれやれと迷惑げな表情を浮かべていたが、ユーリたちについて来るなとは言わず、すぐにまたその歩を進めていた。
ひとまずリリーティアたちは、彼の後について街の奥にある闘技場へと向かってみることにした。