第17話 闘技場
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遭難船のアーセルム号に遭遇してからは何事もなく船は航行し、一行は目的地であるデズエール大陸に近づいた。
夜空の下を波を切って進むフィエルティア号の先に、ぼんやりとした灯りが浮かんでいるのが見える。
「あれがノードポリカね」
「うん。別名、闘技場都市」
ジュディスの言葉にカロルが頷く。
闘技場、ノードポリカ。
かつては罪人同士を戦わせ、貴族たちの熱狂と狂乱を呼んだ闘技場の街。
現在はギルド、戦士の殿堂(パレストラーレ)が闘技場の運営権を持ち、市民の娯楽の場となっているという。
「戦士の殿堂(パレストラーレ)はね、ドンのギルド、天を射る矢(アルトスク)にも匹敵する大きなギルドで-------」
カロルの言葉を遮って大きな音が鳴り響いた。
見ると、闇に染まる空に大きな花が輝き咲いた。
それは一度ではなく、大きな音と共に二度三度と輝き咲いていく。
「花火が上がってます。綺麗・・・!」
エステルが目を輝かせて空を見上げる。
ノードポリカから何発もの美しい花火が打ち上げられていた。
「毎日がお祭り騒ぎってとこか。こりゃいいわ」
顎を撫でながら楽しげに言うレイヴン。
瞬く間に花火があがる数は増えていき、辺りは昼間のように明るく照らされていく。
「花火にお祭りにおでん、とってもマッチなのじゃ」
いつの間に持っていたのか、パティのその両手には串に刺さったおでんがあり、彼女はそのひとつを口に咥えた。
その両方ともに、白はんぺん、玉子、ちくわが串に刺さっている。
「どれ、俺様にも一本・・・」
そう言って、レイヴンは彼女のもうひとつの串おでんに手を伸ばすが、
パティはすかさず彼の手をぺちっと叩いた。
「あんたは遊びに来てんじゃねぇだろ」
ユーリの突っ込みにレイヴンはがっくりと肩を落とした。
「そうだった・・・。下っ端はつらいの~」
「ドンの使者なんだからベリウスに失礼の無いようにね!」
「なんだよ少年。俺様いつも礼を弁(わきま)えてるぜ」
指をさして厳しく言うカロルだが、レイヴンは一転してふざけたような笑い声をあげている。
言葉とは裏腹な態度をしめす彼にカロルはむっとした視線を投げた。
「それで、ゴゴール砂漠ってのはここからまだ遠いのか?」
「ノードポリカのずっと西ね」
ノードポリカから西に向かうと、途中にデズエール大陸を分断する大きな山脈があり、その山脈の向こう側に砂漠が広がっているのだとジュディスは説明した。
ノードポリカのあるザドラク半島はデズエールで唯一緑のある土地であり、比較的穏やかな気候であるという。
「デズエール大陸・・・」
船の甲板からリリーティアはひとり呟く。
大陸を見詰める彼女のその表情は微かに険しいものとなっていた。
「ね、本当に行くつもり?前も言ったけど、本当に危険なところなのよ」
未だ何発もの花火の音が響く中、リタはエステルの傍にすっと立つと、念を押すように尋ねて続けた。
「そんなところにあんた行かせるわけには-------じゃなくて・・・!」
自分で口にした言葉が気恥ずかしくなったのか、リタは苛立ちげに叫ぶと、その顔を手で隠しながら俯いた。
エステルはそんなリタの姿を少し困ったような、それでいて嬉しげな瞳で見詰めている。
「ごめんなさい、リタ。でも、わたし、どうしても知りたいんです」
そして、花火によって様々な色に彩られた、前方に広がるノードポリカの街並みに向き直った。
「自分のことを・・・」
それ以上、リタも黙り込んだ。
フェローに会うことは、すでにエステルの中では「自分のやりたいこと」として決められていること。
時に、目の前で起きた出来事にそれを見失うこともあるが、それでもそれが自分のやるべきことだという思いは強いようだ。
二人の会話を聞いていたリリーティアは、しばらくそのエステルの姿に視線を向けていたが、再びデズエール大陸のほうへと移した。
「入港するのじゃ」
未だ花火の音が鳴り響く、賑やかなノードポリカの港。
それが目の前に迫ると、食べ終えて棒だけになったおでん串を振り上げながら、パティは意気揚々に声を上げた。
その声を耳にしながら、リリーティアは音もなく深い息を吐いた。