第16話 幽霊船
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「ここに残ったのが私じゃなかったら、あんたたち置いてくわよ」
あれから無事にフィエルティア号に戻ってきた一行に向かってカウフマンが言った。
彼女の言うとおり、不穏な事が続くこの場所で、駆動魔導器(セロスブラスティア)が直ったとみたら、
明日がわが身と他のギルドのことなど顧みず、さっさと逃げ出している者たちだっているだろう。
「そりゃ悪かった。今後の教訓にするよ」
「まったくもう・・・」
彼女の忠告をあまり深刻に捉えていない様子のユーリに、
カウフマンは本当に分かっているのだろうかとため息をついた。
「駆動魔導器(セロスブラスティア)が壊れてた原因は何だったのかしら?」
「それが、急に動き出したのよね。訳が分からないわ」
カウフマンによると、何を弄ったわけでもなく唐突に動き出したのだという。
まったくもって不可解なことだった。
「やっぱり、呪いってやつ?」
「きっと、アーセルム号の人が澄明の刻晶(クリアシエル)を誰かに渡したくて、わたしたちを呼んだんですよ」
「もしかしたら、そうかもしれないね」
小箱を掲げながら、そう微笑んで見てくるエステルに、リリーティアも頷いて見せた。
人の言葉、その気持ちというのは、時として、計り知れない力が働くものだ。
励ましの言葉に人は頑張ろうと思うこともあれば、心無い言葉で人は傷つくもの。
それと同じで、人の気持ちや想いというものは、様々なものを大きく動かす原因(きっかけ)となる。
今回はアーセルム号に乗っていた者たちや、あの日誌を書いた彼の想いが、自分たちと澄明の刻晶(クリアシエル)を引き合わせたのかもしれない。
「(エステルの想いが、髪飾りと私を引き合わせてくれたように・・・)」
彼女の想いが、”何か”を動かしたきっかけになったのかもしれない。
リリーティアは、ふとそんなことを思った。
「あるはずない!死んだ人間の意思が動くなんて・・・」
「扉は開かなくなる、駆動魔導器(セロスブラスティア)は動かなくなる、確かに呪いっぽいよな」
「世界は広い、まだまだ人の知恵ではわからんことは多いのじゃあ」
パティの言うとおり、科学で証明できないことはいろいろある。
だから、今回のことだって不思議なことが色々起きたが、それはある意味、不思議なことではないのかもしれない。
「違うったら、違うの!」
リタは非科学的なものはどうしても信じたくないようで、
躍起になった彼女は何故か目の前にいたカロルに容赦ない手刀打ちを食らわせた。
「なんで、ボク・・・」
とばっちりを受けたカロルは、目にうっすらと涙を浮かべてうずくまった。
リリーティアは苦笑を浮かべて、腕を組んで苛立っているリタを見た。
「それにしても、お前らみんな無事でよかったな」
「うちの首領(ボス)が無事じゃないけどな」
カウフマンのボディガードの言葉にユーリが肩をすくめると、
あまりに痛かったのか、未だにうずくまっているカロルを見下ろした。
「さて。こんなところさっさと出るわよ。船を出して!」
カウフマンの声に操船士のトクナガをはじめ、『ウミネコの詩』のメンバーたちが忙しなく動き出した。
船が進んで間もなく、あれだけ濃かった霧は晴れ、上空は雲ひとつない青空が徐々に広がっていった。
そして、真上に昇る太陽が船を照らし、一行は無事に大海に戻れたのであった。