第16話 幽霊船
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さらに廊下の奥を進むと、またも突き当たりに扉があった。
その扉の先はこれまでのような廊下ではなかった。
変わらず片方面の壁には鏡が張られているが、部屋の中央には上階に続く階段があった。
よく見ると下階に続く階段もあったようだが、そこは大きな穴があいていて階段は朽ち落ちていた。
「(これじゃあ、下の階にはいけない。どこか他に-------)」
リリーティアははっとして、かぶりを振った。
今やるべきことは、ユーリたちを探すことだ。
彼女は心の中で何度もそう言い聞かせると、改めて部屋の中を見渡していく。
よく見ると、奥にもうひとつの扉があった。
そうして、リリーティアたちが上の階に行くかその扉に進むか話し始めた、その直後のことだった。
---------------ガチャ
その扉が開いた。
「あ、ユーリ!」
エステルがほっとした表情を浮かべる。
その扉の先にはユーリたち、『凛々の明星(ブレイブヴェスペリア)』の面々がいたのである。
「なんだ・・・無事じゃないの」
探しにきて損をしたとでも言うように、リタが呟いた。
でも逆に言えば彼女も彼らの安否を心配していたのだろう。
「おいおい、おまえらも来ちまったのかよ。しかも、何連れてきてんだよ」
「連れてきたわけじゃないんだけどもね・・・」
パティも一緒であることに気づくと、ユーリは呆れた表情を浮かべてリリーティアたちを見る。
そんな彼に対して、不本意だとばかりレイヴンは肩を竦めた。
「ユーリに会いに来たのじゃ」
ユーリの傍に駆け寄ると、パティはにっと笑顔を浮かべた。
「度胸あるお嬢さんだな。ってまあ、今更か・・・」
「海辺のシーラカンスより度胸あること折り紙つきなのじゃ」
「度胸があるのは知ってるよ。でなきゃ、あの業突くじじぃの屋敷に一人で乗り込まねぇだろ」
ユーリはラゴウの屋敷のことを言っているようだ。
それだけでなくとも、ケーブ・モックの時といい、
これまでの彼女の行動は、あまりにも度胸がありすぎると言ってもいいぐらいだ。
「船の方は大丈夫なのかよ・・・」
「カウフマンさんから大丈夫だって言ってはくれたんだけど、それでも早く戻ったほうがいい」
『ウミネコの詩』の人たちの協力もあって、
ユーリたちを心配する自分たちのためにこうして行かせてくれたことを説明すると、カロルはだったら早くここを出ようと、一行を促した。
「あら?・・・あなた、いつも着けてる髪飾りはどうしたの?」
いつも着けているものだったからか、薄暗い部屋の中でもジュディスはすぐに気がついたようだ。
「・・・ちょっとね」
不思議そうな目で見てくる彼女に、リリーティアは今ここで説明するべきでもないかと、ただ肩を竦めた。
髪飾りのことはここを出てから後で説明しよう、そう思った。
「あの、そのことなんですけど-------」
エステルが何か言いかけた、その瞬間。
---------------カチャ
この部屋にある扉、リリーティアたちと、ユーリたちがそれぞれに通ってきた扉から音が響いた。
その音は扉に鍵がかかるような音で、カロルはさっと顔色を変えた。
「ねえ、今の音って・・・?」
「・・・・・・ダメだ。開かねえみたいだな」
ついさっき彼らが通ってきたというのに、その扉はどういうわけか開かなくなっていた。
「こっちも開かないのじゃ」
その反対側のリリーティアたちが通ってきた扉もやはり同じだった。
互いに来た道に戻れなくなってしまったようだ。
「これはあれじゃの。幽霊の仕業じゃな」
「ウ、ウソでしょ・・・!?」
「へ、へんなこと言わないでよ・・・!」
さも当然のように怪奇なことを口にするパティ。
そんな彼女とは対照的にリタとカロルはさっと顔を青くさせて、ひどく動揺していた。
「(やはり、私たちをどこかへ誘(いざな)っているのか)」
リリーティアは上階に続く階段を見上げた。
考えたくないことではあったが、この船にいる”何か”が自分たちを目的の場所まで誘導しているように思えた。
リリーティアは険しい表情で、階段の先に広がる暗闇の中をじっと見詰めた。
「そんな・・・。それじゃあ探しにいけません・・・」
足元に視線を落として、エステルは呟いた。
その言葉にリリーティアは僅かに目を見開くと、すっと悲しげに目を細めた。
怪奇な現状に見舞われながらも、自分たちの身のことよりも真っ先に髪飾りのことを心配するエステル。
そこまで気にかけてくれていることに、リリーティアは何ともいえない思いで彼女を見た。
「探しに行くって、何をだ?」
「リリーティアの髪飾りをです」
エステルはここに来るまでに起きたこと、リリーティアの髪飾りについて、話して聞かせた。
そして、どうしても探しにいきたいのだと、彼女は話す。
「エステル、いいんだよ。今は早くここを出ないと」
リリーティアは困ったように微笑むと、言葉を続けた。
「それに、今はこの上に進むしかないしね」
下の階に続く階段も壊れていて、ユーリたちが通ってきた道も、自分たちが通ってきた道も閉ざされた今、
髪飾りが落ちた場所まで探しに行けなくなってしまった。
ならば、どちらにしても今はこの階段を上るほか道はないのだ。
「・・・そうだな。ひとまず、ここをのぼってみるか」
「ええ」
ユーリの言葉にリリーティアは頷くと、未だ髪飾りのことを気にしているエステルに、下に降りられる別の道が見つかるかもしれないからと、言葉を添えた。
エステルは渋々だが頷いて、一行は上に続く階段を上がり、先へと進んだ。