第16話 幽霊船
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「わたしたちも一緒に髪飾り探します」
突然、エステルが声を上げた。
リリーティアは当惑して彼女を見る。
「大丈夫です。必ず見つけますから」
エステルは微笑んだ。
リリーティアは困惑したまま、じっとエステルを見詰める。
「だから、無茶だけはしないで下さい」
エステルはさらに笑みを深くして言った。
リリーティアは、彼女の気持ちが本当に嬉しかった。
ありがとう。
彼女のその優しい表情、温かい言葉に素直に甘えようと、
感謝の想いでリリーティアがその口を開こうとした、その瞬間だった。
突然、脳裏に蘇った様々な過去たち。
そして、黒い砂嵐の中から見え隠れするものがそこにあった。
それは----------、
「(私は、何をやってるんだ・・・・・・)」
---------------”薄ら笑う顔”。
リリーティアは開きかけていた、その口を噤んだ。
そして、静かに目を伏せる。
「(私はまた-------、)」
今やるべきことは、一刻も早くユーリたちを探すこと。
彼らの無事を確かめることだ。
何が起きるかわからないこの場所で、
得たいの知れない魔物たちもいるこの場所で、
とるべき行動は、髪飾りを探すことじゃない。
「リリーティア?」
黙り込む彼女にエステルは首を傾げた。
他の者たちも彼女を訝しげに窺い見ている。
「(-------繰り返すつもりか)」
十年前のように。
自分勝手な行動ゆえに招いたことを、また。
「・・・ありがとう」
リリーティアは顔を上げた。
その感謝の言葉の中に、謝罪の意味も込めて。
「でも、やっぱり今はユーリたちを探さないと」
そう言って、リリーティアは笑みを
「・・・・・・・・・」
その時、何を思ったのか。
一瞬、レイヴンは眉を潜めて、彼女の表情(それ)を見た。
「そうですけど、髪飾りも一緒に探しましょう!」
エステルはまるで訴えるかのように、言葉を続けた。
「リリーティアにとって大切なものですよね」
「それは・・・そう、だけど・・・」
リリーティアは彼女のその必死さに少したじろいだ。
「だったらほっとけません!」
ぐっと拳を握り締め、前のめりになってまで必死に紡ぐその言葉。
まるで自分のことのように、必死になって。
そんな彼女の姿を前に、リリーティアは静かに目を閉じた。
「(ほんとに、・・・あなたは優しい人だね)」
こんな私にまで、そうやって必死になってくれて。
彼女のその優しさを出来ることなら無碍にはしたくない。
自分を想って言ってくれている言葉だってことも分かってる。
それでも----------。
「さあ、早くユーリたちを探そう。私は大丈夫だから」
リリーティアは踵を返すと、廊下の奥へと向かって歩き始めた。
エステルは慌てて彼女の背に手を伸ばす。
「リリーティア、でも-------!」
「嬢ちゃん」
レイヴンに言葉を遮られ、エステルは振り返った。
「とりあえず、今は先へ進みましょ」
彼の言葉にエステルは視線を落として押し黙った。
それでも、彼女はどうしても納得がいなかった。
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見ていて、とても辛かった。
髪飾りが落ちてしまったその場所をじっと見詰めるリリーティアのその姿が。
何よりも彼女の行動を見て、本当にどうにかしたいと思った。
リリーティアは、彼女は、常に仲間を一番に置いて行動する人だ。
自分が選んでここにいるとか、自分がそうしたいからだとか、いつも彼女は言っているけれど。
結局、それは人の為になっていて、人を助けている。
----------わたしのこの旅だってそうだわ。
エステルは顔を上げると、先を歩いているリリーティアの背を悲しげに見詰めた。
それに今さっきだって体を張って守ってくれた。
自分のことなど二の次のように。
彼女のことだから、そもそも自分のことなど含まれていないのかもしれない。
そんな彼女が、
『お願いですから、行かせてください』
あんな無茶な行動を取ろうとしてまで、彼女は自分の髪飾りを取りに行こうとした。
共にいる仲間を置いてでも、どこかにいる仲間を探すことを置いてでも、何よりも髪飾りを探そうとした。
それだけ、あの髪飾りは彼女にとって大事なものなのだ。
そう、あの時だって、船の上で彼女は大切なものだと頷きながら小さく笑みを浮かべていた。
少し照れたような笑みを。
それを見たとき、本当に大切なものなのだと、何より伝わってきた。
「(なのに、どうしてです?)」
どうして、すぐに諦めちゃうんです?
仲間の為なら、どんな事になろうと厭わず行動するのに。
仲間の為になっていることさえも、自分がそうしたいからと、自分の為なのだと言っているのに。
それなら、今回だって、自分の為に髪飾りを探したって・・・。
「(どうして、もっと私たちを頼ってくれないんです・・・)」
エステルは胸の前でぎゅっと手を握り締めた。
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リリーティアは廊下を進み歩く。
ユーリたちを探さなくてはと。
彼らの無事を早く確認しなくてはと。
ただそれだけを思って進み歩いた。
けれど、エステルの言葉が何度も頭に響く。
『リリーティアにとって大切なものですよね』
もちろん、大切なものだ。
大切なものに決まってる。
『だったらほっとけません!』
私だって、ほっとけない。
こんなところに置いていくなんてしたくない。
そんなつもりはないんだ。
髪飾りを探したい思いは今もある。
だけど、それは----------、
--------------------私の”自分勝手(わがまま)”なんだ。
リリーティアは音もなく息を吐いた。
気持ちを切り替えるために。
早くユーリたちを探して、船に戻ろう。
そして-------、
リリーティアはそっと髪に触れた。
少し前まで髪飾りがあった、その場所を。
「(----------彼に、謝らないと)」