第16話 幽霊船
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難破船に乗り込んだリリーティアたち一行は、
折れた帆柱(マスト)のすぐ横にある、下り階段の先にあった扉の前にきていた。
「む~、ここは開かないのじゃ」
パティは扉のドアノブをガチャガチャと音を立てながら、何度も押したり引いたりしている。
だが、その扉は鍵が締まっているのか開かない。
見た感じはだいぶ古いようだが、その扉の建て付けは驚くほど頑丈であった。
そこだけ時間が経っていないような不思議さを感じて、リリーティアはひとり怪訝に思いながらその扉を見ていた。
「どこか別のところから入れないでしょうか?」
階段を上り、再び甲板に戻ると、周りの様子を窺った。
ユーリたちはどこから入って行ったのかと、一行は辺りの様子を探った。
けれど周りを見た限りでは、これ以上船内へ入る扉は見当たらない。
もしかしたら、ユーリたちはさっきの扉から船内へ入り、今の衝撃でその扉が開くなってしまったのかもしれないと一行は推測して話した。
「あそこにも扉があるのじゃ!」
上からパティの声が聞こえた。
いつの間に上ったのか半分折れてしまった帆柱(マスト)の中間に付けられた物見台である檣楼(ショウロウ)にパティがいた。
その檣楼(ショウロウ)の少し上の辺りから帆柱(マスト)が折れているようだ。
そこから船の全貌が見えるらしく、彼女の説明によると、
この船の船尾部分は4階立てに船内が作られているようで、4階の甲板部分にはもうひとつの帆柱(マスト)が伸びている。
そして、その階ごとに船内へ入る扉があるらしい。
確かによく見ると、外からでも上の甲板にあがれるように、上階から縄梯子が垂れ下がっていた。
「でも、あれじゃあ、のぼれないじゃない」
リタが言うように、その縄梯子は途中から縄が切れていて、上ることが出来なくなっていた。
それに、だいぶ長い月日が経ったあの朽ちた縄梯子だと、たとえそれが下まで垂れ下がっていたとしても、
どちらにしろ人一人の重さには耐えられず、上階の甲板に上ることは出来ないだろう。
いよいよどうしようかとリリーティアは考えていると、再びパティの声が上から響いた。
「お?ここからあの上に渡れそうじゃぞ!」
「パティ、何してるんです!危ないですよ!」
エステルが叫ぶ。
見ると、パティが折れて倒れた帆柱(マスト)の上を歩いていた。
その折れた帆柱(マスト)は彼女がいた檣楼(ショウロウ)から2階部分の甲板へ向かって倒れていて、
太い丸太橋を渡るようにして、彼女は軽快にそこを歩いていたのである。
その折れた帆柱(マスト)の柱も太くしっかりしていて、とても安定しているらしく、落ちる心配はないと彼女は言う。
「他に方法もないし、あそこから行くしかないかね」
レイヴンの言葉に一同は賛同すると、梯子をのぼって檣楼(ショウロウ)へあがり、足元に注意しながら折れた帆柱(マスト)を渡り歩いた。
パティの言った通り、その柱はしっかりしたもので安定している。
おかげで、心配していたよりも難なく2階の甲板へとたどり着いた。
「この扉もだめなのじゃ・・・」
しかし、結局2階の甲板にあった扉も同じように開けられなかった。
「この様子じゃ、全部の扉がこうなんじゃないの」
「ということは、ユーリたちはこの船に閉じ込められているってことですか?・・・そんな」
「それはまだ分からない。もう少しこのあたりを調べてみよう」
すべての扉をちゃんと調べるまでは、そう悲観的になる必要はない。
リリーティアたちはひとまず今いる甲板から、隅から隅まで調べることにした。
「(・・・やっぱり、おかしい)」
そんな中、リリーティアはさっき渡ってきた折れた帆柱(マスト)に触れながら、深刻な表情でそれをじっと見詰めていた。
「リリィちゃん、どったの?」
「いえ・・・ちょっと、気になって・・・」
「気になるって?」
リリーティアはこの船の状態に奇妙な違和感を感じていた。
フィエルティア号から見ていた感じでは、この古い船は漂流して百年以上、いやもっと年月が経っているように思う。
朽ち果てもせず、百年以上も海を彷徨い続けることなどあり得ないことなのだが、それぐらい経っているのは間違いなさそうだ。
だというのに、いざこの船を探索してみると、長い年月が経っているとは思えないほどの丈夫でしっかりした造りで残っている箇所がある。
そのひとつは、開かない扉。
その扉の建て付けは頑丈で、長い年月の経過を感じさせない。
それから、檣楼(ショウロウ)にのぼるための梯子。
梯子の木はしっかりと残っていたのだ。
長い間、何の手入れもされず雨や潮風にあたっていたのなら、
上階の甲板にのぼるために垂れ下がっていた、あの朽ち果てた縄梯子と同じように脆い状態になっているはずである。
そして、最後はこの折れた帆柱(マスト)。
これもまた、朽ちて折れた割りにはしっかりと形が残り、その表面も腐敗した箇所は少ない。
そして、それは偶然にも2階の甲板に向かって倒れ、それを渡って自分たちはここまでやってきた。
全体的に見ると、何百年と経っているような朽ち果てた難破船であるのに、
箇所ごとに見ていくと見た目は古い装いだが、そう思わせないほどしっかりと造りが残っている。
その結果、この船の中にいる自分たちの行動を、変に制限させられている気がした。
曰く----------、
「-------まるで、私たちを意図的に誘(いざな)っているような・・・」
沈黙する二人の間に生温い潮風が吹いた。
「・・・ははは、やめてよリリィちゃん。ほんと、冗談きついわ」
「・・・です、よね」
二人は互いに乾いた笑いをこぼした。
考えすぎだろうと、互いにそう思った。
いや、そう思いたかった。
「この先の扉から中に入れるみたいじゃぞ!」
その時、パティの声が聞こえた。
甲板の右横に梯子が架かっていて、そこを降りた先にもうひとつ扉があったらしい。
ちょうど船の真後ろにあたるところだ。
さっそくリリーティアたちはそこに向かった。
彼女の言うとおり、そこの扉は難なく開いた。
「さっそく中へ入ってみるのじゃ。お宝はあるかの~」
扉の先は薄暗く、奥は暗くて見えない。
だが、パティはいつもの調子でさっさと中へ入って行った。
「待ってください、パティ。ゆっくり進まないと危ないです」
「そうよ、何潜んでるか分わかんないんだから」
先へと行く彼女をエステルとリタは急いでその後を追いかける。
彼女たちを見詰めながら、リリーティアとレイヴンは少しばかり嫌な胸騒ぎがした。
突然折れた帆柱(マスト)。
偶然にもそれは2階の甲板に向かって倒れ、それを渡ってこの扉の前にたどり着けた。
そして、また偶然にも、どの扉も固く閉ざされている中、どこか拍子抜けするほどあっさりと開いたその扉。
「考えすぎ、なんですよね」
「考えすぎ、でしょ。・・・たぶん」
二人は僅かに頬を引きつらせた。
偶然が重なることはよくあると言うが、これもまたそのよくあることの内なのだろうか。
それならば、この不気味な雰囲気のせいで、考えすぎる要因を作らせているだけなのかもしれない。
ひとまずそう思うことにして、二人も扉の先へと進んだ。
今の自分たちは少しでも早くユーリたちと合流することだ。
そして、少しでも早くフィエルティア号に戻ろう。