第4話 奇跡
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ハルルの樹がある丘を目指し、三人がしばらく街の中を歩いていると、
「はあ、人違いか・・・ギルドのみんなも居ない・・・。ずいぶん待たせたからなあ。怒って行っちゃたんだ・・・。満開に咲くハルルの花・・・。見せてあげたかったのに。そうすれば、きっと・・・」
街の中に掛けられた桟橋の上で、何やら独り言を呟くカロルを見つけた。
彼は頭を垂れて、力なく座り込んでいる。
「カロル、どうしちゃったんです?」
「どこ行っちゃったんだろう。ほんとに行っちゃったのかな。ボクだってちゃんとやってるのに」
心配げに声をかけたエステルに全く気づくことなく、カロルは頭を抱え始める。
さっきはあんなに元気に駆け出していったのに、今はそれとは正反対でがっくりと落ち込んでいるようだ。
「おしまい、おしまい、もうおしまい。ほんとにおしまい。なにがなんでもおしまいだ」
「カロル?」
「ひとりにしといてやろうぜ」
そういって先を歩き出したユーリ。
エステルは何度かカロルの様子をうかがいながらも、どんどん先を行くユーリに慌ててついて行った。
あまりの落ち込みようにリリーティアも心配になったが、あの様子からして今はそっとしといたほうがいいだろう。
後でまた様子をうかがってみようと思いながら、彼女もユーリたちの後に続いた。
そして、ハルルの樹がある丘まであと少しといった所で、子どもたちの元気な声が響いた。
「武器も用意したし、これで魔物と戦えるぞぉ!」
「長も、戦っていいって、言ってくれるよね!」
その会話に、リリーティアは思わず足を止めた。
見ると、そこには幾人かのまだ幼い子どもたちが集まっていた。
その手には小さな剣が握られている。
「フレン様みたいに、魔物もやっつけよ~!」
「お~!」
あたりに響き渡るぐらい大きな声で、子どもたちは手を振り上げた。
リリーティアはじっと子どもたちの様子を見据えた。
その目は少し険しいものだった。
「あんな子どもまで・・・。早く、結界が戻ればいいのに」
「そうだな。・・・って、リリィ?」
二人が話している横を通り過ぎ、スタスタと子どもたちの方へ歩いていくリリーティア。
「よし、行くぞー!」
子どもたちが駆け出そうとしたその時、彼女がその前に立った。
「!!・・・な、なに?」
突然現れた彼女に、驚いて見上げる子どもたち。
「ボクたちに何かよう?」
戸惑う子どもたちを前に、リリーティアはその場でしゃがみ込む。
そして、子どもたちの視線の高さに合わせると、彼女は小さく笑みを浮かべた。
「こんにちは。きみたち魔物と戦うの?」
「そうだよ」
「ほら、これがあるから、僕たちも戦えるんだ!」
男の子は、自慢げにその剣を掲げる。
ほかの子どもたちも自信げな表情を浮かべていた。
「みんな勇気があるんだね」
「すごいでしょ!」
女の子が腰に手を当てて、胸を張った。
リリーティアは大きく頷くと、すごいと驚いてみせた。
その彼女の反応に女の子はますます得意げな表情を浮かべた。
「でも、魔物と戦うことはとっても危険なことだよ。だから、ね?みんなで魔物と戦うなんてことやめてほしいなぁ」
「えー!」
彼女の言葉に、男の子は大きく頬を膨らませた。
「フレン様みたいに戦いたいのはわかるよ。でもね、フレン様は怪我をさせたくなくて魔物からみんなを守ったんだ。それなのに、もしも、みんなが魔物と戦って怪我をしたって聞いたら、フレン様はとても悲しむよ」
「むー。でも、剣があるから大丈夫だよ・・・」
男の子はどうしても納得がいかないようで、口を尖らせている。
ほかの子どもたちも同じのように、不満な顔をしていた。
リリーティアはどうしたものかと苦笑を浮かべる。
「みんなはフレン様のこと、好き?」
「うん!フレン様は僕たちを守ってくれたんだ!」
「すごく強いんだよ!」
「それに、あたしたちにも優しかったんだ、だから大好き!」
子どもたちは屈託のない笑顔を浮かべて、声をあげて口々に言った。
その愛らしい姿に彼女は自然に頬が緩んだ。
「それはフレン様も同じ。みんながフレン様のことを好きなように、フレン様もみんなのこと好きだし、大切なんだよ。フレン様が怪我したら、みんなもいやでしょう?」
「・・・うん」
「いやだよ」
「ぜったいにいやだ」
子どもたちは、はっきりと嫌だと答えた。
フレンに対して、騎士としての憧れがあるのと同時に、彼自信の人柄に好意を抱いているようだ。
こうやって、少しずつ騎士と市民との壁がなくなってくれたなら・・・。
リリーティアはそんなことを願いなが、子どもたちに言った。
「さっきの魔物たちのせいで、この街にはまだたくさん困っている人たちがいるみたいなの。その人たちを助けてあげてほしいんだ」
魔物と戦ってはいけないことにまだ少し不満げな表情をしているが、子どもたちはさっきよりも真剣な眼差しでリリーティアの言葉を聞いている。
「困っている人たちを見つけて、助けてあげるのって難しくて・・。でも、勇気のあるみんななら出来るかな?」
彼女の問いに、子どもたちは確かめ合うように互いに顔を見合わせた。
「あったりまえだよ!な!」
「うん!ボクたちだってできるよ!」
「あたしも!」
剣を持っている男の子がドンと胸を叩いて大きな声で答えると、他の子どもたちも次々に声を上げた。
その瞳には幼い子どもながら、強い意思が見えた。
「ほんと?みんな、すごいね!それなら、困ってる人たちのこと、みんなに任せてもいい?」
「うん!」
「任せといてよ!」
子どもたちは満面の笑みで大きく頷いた。
そして、威勢のいい掛け声を上げると、リリーティアに手を振って街の中へと走っていった。
その目はとても輝いてて、自信に満ち溢れている。
自分たちにも出来ることがあることを知って、とても嬉しそうであった。
リリーティアは元気に駆けていく子どもたちの背を見詰めた。
子どもたちを見詰めながら、彼女の脳裏には再び遠い過去の記憶が蘇った。
その身を挺して小さな命たちを守った金色(こんじき)の騎士の姿。
その姿は、騎士は市民のためにあるのだと、それが誇りなのだと、その身をもって教えてくれた。
そして、深い愛情を知った。
けれど、同時に失うことへの深い悲しみを知った。
私だけじゃなく、あの時、そこにいた多くの者たちが悲しんだ。
だからこそ、もうあの時のような悲しみを生みたくない。
これ以上、この街を悲しみに包ませたくはない。
リリーティアは、じっと子どもたちの背を見詰め続ける。
子どもたちは元気な声を上げながら、街の中を懸命に駆けている。
「リリーティア?」
どこか様子のおかしい彼女に、エステルは心配げに声をかけた。
不安げに見てくる彼女に、リリーティアは大丈夫だと笑みを浮かべて返した。
「どうしても、あの子たちのこと気になって」
そして、もう一度、子どもたちへと視線を向けた。
「・・・無茶なこと、しないといいけど」
「ま、さっきの様子じゃ、もう魔物と戦おうとはしないだろう」
「そうですね。大丈夫ですよ、リリーティア」
二人の言葉に、リリーティアは小さく頷いた。
すでに子どもたちの姿は街の中へと消えて、ここからでは見えなくなったが、それでも彼女はその先を見詰め続けていた。