第16話 幽霊船
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アーセルム号へと乗り込んでいったユーリたち。
フィエルティア号に残ったリリーティアたちは、船の周辺を警戒しながら彼らが戻ってくるのを待っていた。
「だめだ。まったく反応しない」
リリーティアは息をついて駆動魔導器(セロスブラスティア)を見る。
彼らが戻ってくるのを待っている中、突然動かなくなってしまった、船の動力である駆動魔導器(セロスブラスティア)を直そうと試みているのだが、どうしてもその原因は掴めなかった。
「もう!何で動かないのよ!」
リリーティアの隣で苛立ちながらリタも魔導器(ブラスティア)の操作盤を弄っていた。
操作盤は問題なく開くのだが、どの機能を操作しても数値もなにも変化せず、調整ができなかった。
どう見ても魔導器(ブラスティア)が故障したとは違った状態であったのだ。
「やっぱ、おばけの呪いなんじゃない?」
「んなわけないでしょっ!」
リタは目を吊り上げてレイヴンを睨むと、もう一度魔導器(ブラスティア)を操作し始めた。
何やらぶつぶつと独り言を言い、その表情はあまりに必死そのものだ。
だいぶ躍起になっているようで、合理的な説明をつけようと孤軍奮闘している。
「・・・呪いよりも、リタっちがこわいんだけど」
「あまりからかわないでくださいよ」
非科学的なことが嫌いというか、怪奇なものがひどく苦手なリタを、
それを分かっていながら面白おかしくからかうレイヴンに、リリーティアは呆れた様子で彼を横目で見やった。
「うちも一緒に行きたかったの~」
ユーリたちを心配しているエステルの横でパティは双眼鏡でアーセルム号を見ている。
そんな時、奇妙な音が響いた。
「今、なんか変な音がした気がするのじゃ」
アーセルム号からその音は聞こえてきて、皆が一斉にそっちを見た。
見ると、帆柱(マスト)が徐々に傾きだしている。
「危ない・・・!」
エステルが声をあげた瞬間、帆柱(マスト)が船体に激突した。
大きな音が鳴り響き、フィエルティア号までその振動が伝わった。
「な、何があったの?突然マストが倒れるなんて・・・」
カウフマンは目を見張る。
何の前触れもなく突然に倒れた帆柱(マスト)。
もしかして、中で何かあったのだろうか。
「ユーリたち、大丈夫でしょうか?」
「今の衝撃では無事だとも言い切れないわね」
一層不安げな表情を浮かべるエステル。
カウフマンが言うように、確かに無事だとは言い切れない。
リリーティアは心配げな面持ちで帆柱(マスト)が折れたアーセルム号を見上げた。
「みんなが心配です。あの、私たちも行ってみませんか?」
怪奇的なことが続くこの難破船に乗り込みたくないはずであるエステルも、その怖さより仲間のことが心配らしく、リリーティアへ窺うように尋ねた。
「ちょっと、船の護衛はどうすんの」
「そ、それは・・・でも・・・」
カウフマンの声にエステルは顔を伏せて言葉を詰まらせた。
その表情はとても不安げであった。
そんな彼女の様子を見て、リリーティアは口元に手を当てて何やら考え込む。
「なら、私だけで少し様子を見てくる」
「あんた何言ってんのよ」
「それは危険です」
エステルとリタが声を上げる。
確かに一人は危険であるが、フィエルティア号の護衛にこれ以上人数を削るのも、もしもの事があった時に対処できるかどうか分からない。
「わたしも一緒に行きます」
すると、エステルが自分もついていくと言いはじめ、
大丈夫だと言っても彼女は頑として一緒についていくと言い張った。
「お嬢さん二人っていうのも、おっさんとしてもさすがにどうかと思うのよね」
やれやれと面倒そうな身振りであったが、二人がいくつもりならレイヴンもついていくという。
「あ、あんたらがどうしても行くんなら、・・・あたしも、行ってやろうじゃないの」
続いて、一番行きたくないであろうリタも共に行くと言い出した。
これでは船の護衛の者がいなくなる。
リリーティアはどうするべきか悩んでいると、
「はぁ・・・。しょうがいないわね」
黙って彼女らの様子を見ていたカウフマンが大きなため息を吐いた。
「お仲間が心配なんでしょ。あなたたちで行ってきたらいいわ」
仲間たちの安否を心配するリリーティアたちを見ていて、カウフマンは渋々ながら承諾してくれた。
専門ではないが、『ウミネコの詩』のメンバーも戦えないというわけではないから、
何が起きたらそれなりに対応できるだろうということだ。
「なら、うちも一緒にいくのじゃ!」
皆が行くならと、パティも声を上げる。
「あんた、おとなしくしてろって言われてなかった?」
「それしきの言葉では、激しく燃える冒険心の炎を消すことはできぬのじゃ」
冒険家と豪語しているだけあってか、彼女はアーセルム号の中を探検したいらしい。
「船からお宝の匂いがするのじゃ」
「匂い・・・します?」
首を傾げて見てくるエステルにリリーティアはただ肩を竦めた。
「冒険家の嗅覚は人食いザメの牙よりも鋭いのじゃ」
パティはトンと胸を叩いて、大きく胸を張って見せた。
彼女は何を言ってもその好奇心からついてきそうだなと、リリーティアは困ったような笑みを浮かべて彼女を見る。
「それじゃあ、パティも私たちと一緒にね」
「うむ!」
「まったく、邪魔したら容赦なく置いていくわよ」
「心配は無用なのじゃ。船着場のフナムシよりは役に立つのじゃ」
話がついて、一行はカウフマンたちに向き直ると、改めて行って来ることを伝えた。
「ちゃんと戻ってこいよ。このまま漂流はごめんだからな」
「そうね。気をつけて行くのよ」
「はい。ありがとうございます」
リリーティアは軽く一礼すると、舷梯(タラップ)へと向かった。
そして、ユーリたちを追ってアーセルム号に乗り込んだのである。