第16話 幽霊船
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
***********************************
ヨーデルと別れ、一行は波止場に着いた。
ここからデスエール大陸へと向かう船をどう調達するかと話し合っていた、その矢先のこと。
「あんなにたくさん、勘弁してくれ~!」
「命がいくらあっても足りねえよ!」
大慌てで逃げ出す男たちがいた。
「何があったんだ?」
ユーリが訝しげにその男たちを見やる。
男たちのその腰や背には武器を携えていた。
「待ちなさい!金の分は仕事しろ!しないなら返せ~っ!」
すると、男たちに向かって叫ぶ女の声が響いた。
波止場中に響く声量で罵声を浴びせたあと、怒りの形相で女は隣にいる男へと振り向いた。
「ギルド『蒼き獣』をブラックリストに追加よ!」
「はい、社長(ボス)」
「(あれは、『幸福の市場(ギルド・ド・マルシェ)』の・・・)」
確か、名前はカウフマンと言ったか。
リリーティアは社長(ボス)と呼ばれたその女の顔を一度見たことがある。
「あの人、確かデイドン砦で」
「ああ、あんときの・・・」
リリーティアだけでなく、エステルとユーリも一度会っている。
赤い長髪に赤い眼鏡のその女。
〈平原の主〉が襲ってきたあのデイドン砦で声をかけてきた人物であった。
「し、知り合いなの?」
「いや、前に一度だけ。おまえこそ知り合い?」
カロルがどこか恐る恐るといった感じでユーリに聞く。
「知り合いって・・・五大ギルドのひとつ、『幸福の市場(ギルド・ド・マルシェ)』の社長(ボス)だよ」
「つまり、ユニオンの重鎮よ」
「ふーん・・・」
カロルとレイヴンの説明に、ユーリは改めてカウフマンをじっと見た。
「いいこと、思いついた・・・!」
「どうした、カロル」
「あの人なら、海渡る船出してくれるかもしれないよ」
商売から流通まで取り仕切り、世界中の大陸を渡り活動を行っているギルドであるから、そのために多くの船を所有しているだろうということだった。
さっそく一行は、話を聞きにカウフマンのもとへと向かった。
「あら、あなたはユーリ・ローウェル君。いいところに会ったわ」
「・・・手配書の効果ってすげえんだな」
近づいてくる一行の中に、ユーリの姿を見つけるとカウフマンは口元に笑みを浮かべた。
デイドン砦では名前を教えていなかったのだが、
あの手配書のおかげといっていいのか、彼女にもユーリの顔が知れているらしい。
「ねえ、あなたにぴったりの仕事があるんだけど」
カウフマンは不適な笑みをもらした。
「ってことは荒仕事か」
「察しのいい子は好きよ。実はこの季節、魚人の群れが船の積荷を襲うんで大変なの」
彼女の話によると、ある取引先との商談があり、その積荷を乗せて船で海を渡りたいらしいのだが、最近はこの近海に魚人が多く出るため、船に同乗して魚人の襲撃から護衛してほしいという。
「いつもお願いしている傭兵団の首領(ボス)が亡くなったらしくて今使えないのよ。他の傭兵団は骨なしばかり。私としては頭が痛い話ね」
カウフマンは頭を抑えて、ため息を吐いた。
「その傭兵団はなんてところ・・・ですか?」
「『紅の絆傭兵団(ブラッドアライアンス)』よ」
嫌な予感がしたカロルはカウフマンに尋ねてみると、
彼女の口から出たギルド名に一行は何ともいえない表情を浮かべた。
「誰かさんが潰しちゃったから」
「みんな、同罪だろ・・・」
さも自分は関係ないかのようなリタの口ぶりにユーリはジト目を向ける。
<帝国>の評議会と裏で手を組み、ギルドの頂点に君臨することを企んでいたバルボスが率いる『紅の絆傭兵団(ブラッドアライアンス)』。
首領(ボス)の企みはどうであれ、そこは五大ギルドに数えられらた巨大勢力ギルドだ。
現に、リリーティアたちも実際にバルボスの部下である傭兵たちと戦ってその身をもって知ったが、傭兵としての実力はかなりのものだった。
「悪いが仕事の最中でな。他をあたってくれ」
「あら、仕事って?」
背を向けるユーリにカウフマンは首を傾げる。
「オレたちもギルド作ったんだよ」
「『凛々の明星(ブレイブヴェスペリア)』っていうんです!」
カロルは声を張り上げて言う。
それはまるで、自分たちのギルドを宣伝しているかのようだった。
「素敵。それじゃあ商売の話をしましょうか」
ギルドを興したと知った途端、カウフマンは満面の笑顔を浮かべる。
「相互利益は商売の基本。お互いのためにもなるわ」
「で、でも、今やってる仕事があるから他の仕事は・・・」
小規模のギルドは複数の依頼は受けないことになっているようで、カロルは困った表情を浮かべた。
特にカロルたちの小さなのギルドはひとつの仕事を完了してから次の仕事を請け負う。
そうやって、ひとつひとつ仕事をこなしていくことが、ギルドの信用に繋がるからだ。
「ギルド同士の協力って事でどう?それならギルドの信義には反しなくってよ。うちと仲良くしておくと、色々お得よ~?」
「あ・・・うー、えと」
カロルはどうしていいか分からず、ユーリに助けを求めるような視線を投げた。
「分かったよ。けどオレたちはノードポリカに行きたいんだ。遠回りはごめんだぜ」
「構わないわ」
魚人が出るのはここの近海だけだから、ここを抜けて他の港に行けさえすればそれで十分らしい。
そこからいくらでも船を手配できるから問題ないということだった。
「もうひとつ、いい話つけてあげる」
「いい話?」
「もし無事にノードポリカに辿り着いたら、あの使った船を進呈するわ」
カウフマンはすぐ傍らに停泊している船を指し示した。
「ほ、ほんとに!?」
カロルは驚きの声をあげ、その船とカウフマンの顔を見比べると、信じられないといった表情で仲間たちに視線を移した。
「ボロ船だけど、破格の条件には違いないわね」
「でしょ、でしょ?」
ジュディスが言うように、確かに船は古くはあるが、今後のこと思うと移動に役立つことは言うまでもない。
寧ろ条件が良すぎるほどで、素直に喜ぶカロルとは違い、リリーティアは内心その条件を勘ぐった。
「どうだかな。魚人ってのがそれだけ厄介だって話だろ」
ユーリも同じく、素直に喜ぶことはできないようで、カウフマンに疑惑の目を向けている。
「そこはご想像にお任せするわ」
カウフマンは彼のその視線に意味ありげな笑みを浮かべる。
その笑みの真意を推し量っては、ユーリは半目になって彼女を見据えていたが、しばらくして観念したかのように目を閉じた。
「しょうがねぇな」
「素敵!契約成立ね。さ、話はまとまったんだから、仕事してもらうわよ!」
ユーリが承諾すると、カウフマンはさらに満面の笑顔で声を上げた。
そうして決まったかみたか、彼女は船に乗るよう一行を促した。
「なんか、いいように言いくるめられた気がする」
その様子を見ていたリタは、不満げな顔を浮かべてぼやいた。
さすが五大ギルド勢力の『幸福の市場(ギルド・ド・マルシェ)』、そこは商売上手というべきだろうか。
上手く話しに乗せられたような気がしなくもない。
「いいんじゃない?これでデズエール大陸に渡れる訳だし」
とはいえ、ジュディスの言うとおり、これで渡航手段は得られた上、船も進呈してくれることはありがたい話ではある。
それに、どちらにしろこの近海を渡らなければならないのだから、どの船に乗るにしろ魚人との戦闘はあり得ることだろう。
一行は『幸福の市場(ギルド・ド・マルシェ)』が用意した船に乗り、ノードポリカの港に向かってトリムを出港したのだった。