第16話 幽霊船
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「あれ、ヨーデル」
「あ・・・みなさん。またお会いしましたね」
港に向かって町中を歩いていると、二人の側近を連れて歩くヨーデルとばったり出くわした。
その後ろには彼らを護衛している騎士たちもいる。
「次期皇帝候補殿が、こんなとこで何やってんだ?」
「ドンと友好協定締結に関するやり取りを行っています」
分かりきっていたことだったが次期皇帝候補である相手に対しても、
相変わらずなユーリの態度にリリーティアは思わず苦笑を浮かべた。
「うまくいってます?」
「それが・・・順調とはいえません」
エステルの問いに、ヨーデルは首を振った。
「だろうなぁ。ヘラクレスってデカ物のせいで、ユニオンは反<帝国>ブーム再燃中だし」
レイヴンが顎をなでながら言う。
「その影響で<帝国>側でも友好協定に疑問の声があがっています」
「ドンが<帝国>に掲示した条件は、対等な立場での協定だったしな」
「あんなのがあったら、対等とはいえないわね」
ユーリとジュディスの言葉に、ヨーデルは頷くと目を伏せた。
「・・・事前にヘラクレスのことを知っていれば止められたのですが・・・」
ヨーデルの言葉にリリーティアは僅かに表情をしかめた。
彼女もヘラクレスがなぜあの付近にいたのかまでは知らなかった。
それ以前にその存在を知っているのは、その建設にあたった者たちと、リリーティアを含めた騎士団内のごく一部。
エステルやヨーデルもその存在は話にだけ聞いていても、実際に見たのはあれが初めてであっただろう。
「次の皇帝候補が何も知らなかったのかよ」
「ええ。今の私には騎士団の指揮権限がありません」
「騎士団は、皇帝にのみその行動をゆだね、情報の義務を持つ、です」
とはいえ、たとえあそこににヘラクレスが来ていたことを事前に知っていたとしても、本当にそれを止められただろうか。
始祖の隷長(エンテレケイア)を目の前にしたあの人を止めることなど、誰が・・・。
リリーティアは彼らの話を聞きながら、ひとりそんなことを思っていた。
「なら、話は簡単だ。皇帝になればいい」
事も無げに言うユーリにヨーデルは首を振る。
「私がそのつもりでも、今は皇帝を継承できないんです。皇位継承には宙の戒典(デインノモス)という<帝国>の至宝が必要なのですが、宙の戒典(デインノモス)は十年前の〈人魔戦争〉の頃から行方不明で・・・」
そして、ヨーデルは彼らに帝位継承問題について話して聞かせた。
次の皇帝にと、ヨーデルは騎士団の後ろ盾を、エステルが評議会議員の後ろ盾を受けていること。
そのために騎士団と評議会は衝突していることなど、包み隠さず<帝国>の内部事情を話したのだった。
「ふーん、次の皇帝が決まらないのはそういう裏事情があったのね」
ギルドの人間としては知らないその裏事情に、レイヴンが感心したように頷いてみせた。
「それにしても皇帝候補が道ばたへもへも歩いてて良いのか?」
「今、ヘリオードに向かうところなんです」
ヨーデルの話によると、ダングレストから近いということもあり、
<帝国>が管理している街であるヘリオードから友好協定締結のやり取りを行うらしい。
そのために今はヘリオードに向かっているという。
「ヨーデル様、まいりましょう」
「すみませんが、ここで失礼します」
ひとりの側近の言葉に頷き、ヨーデルは一行らに一礼すると、リリーティアへと向き直った。
「リリーティア特別補佐」
名を呼ばれた彼女は改めて姿勢を正し、彼に向き直った。
「彼女のことをよろしくお願いします」
そう言って、ヨーデルは微かな笑みを浮かべた。
それは命令ではなく、彼もまたフレンと同じくエステルの身を案じている一人なのだと、リリーティアは感じた。
「はい。お任せください」
彼の想いを真摯に受け止め、敬礼と共に毅然とした声で応えてみせた。
彼女の言葉にヨーデルは軽く会釈を返すと、側近と護衛の騎士たちを連れてその場を去っていった。
そうして、一行も再び港に向けてその歩を進めた。
皆が歩き始める中で、未だヨーデルの背をじっと見つめているエステルにリリーティアは気づいた。
次期皇帝候補としてやるべきことをやっている彼の姿に、次期皇帝候補でありなが自分の今の姿に彼女もいろいろと思うことがあるのかもしれない。