第15話 解放
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「というわけで、このおっさんのこと頼んだぞ、リリィ」
宿を出てからしばらく、あてもなく街の中を歩いていたリリーティア。
潮騒の音を聞きながらトリムの波止場を歩いていると、二人で何やら話をしているユーリとレイヴンを見つけた。
リリーティアが彼らに歩み寄った瞬間、ユーリから先の言葉を投げられたのである。
「・・・・・・何がというわけなのかわからないんだけど」
今まで何の話をしていたのか知らない彼女は、訝しげにユーリを見る。
すると、彼は親指を立てて面倒そうにレイヴンを示した。
「おっさんの世話だよ」
「ちょっと世話ってなによ、世話って。おたくのわんこと一緒にしないでくれる」
レイヴンがジト目でユーリを睨む。
「だから、ちゃんとおとなしくしてるって。ケーブ・モックの時もガスファロストでもお行儀よくしてたでしょ?」
そう陽気にレイヴンが言うが、ユーリは疑惑の目で彼をじっと見ると、やがてひとつため息をついた。
「だと助かるんだけどな。ま、もしものときはリリィの手で牢屋に放り込んでくれ」
そう言って、ユーリはリリーティアの肩をぽんと叩いた。
ああそういうことかと、彼女は苦笑を浮かべた。
どうやらユーリもノール港で騙されたことは未だに忘れていないようで、
レイヴンの世話というのは、つまりは彼の行動をよく見張っていてくれということらしい。
「ま、しばらく一緒ってことで。残念だけどよろしくな、おっさん」
だが、ユーリのその口は悪いが、それでいて悪意は感じさせないものだった。
未だラゴウの屋敷で騙されたことを忘れないのも、ただ仲間たちの安否を常に考えて行動しているからこそのもので、レイヴンのことをそこまで邪険には思っていないのだろう。
「残念ってどういうことよ・・・まあいいけど」
レイヴンもそのことは分かっているようだ。
波止場を去っていくユーリの背を恨めしそうに見てはいるが、彼の言葉を特に気にした様子はなかった。
「ま、おっさんが若人たちにどこまでついていけるかは不安だけどさ」
そう疲れたような表情を浮かべるレイヴンにリリーティアは困ったように笑う。
「『凛々の明星(ブレイブヴェスペリア)』はけっこうハードですからね」
旅が始まった早々に立ち寄ったヘリオードで<帝国>騎士団と騒動を起こしたのだから。
今回に限ったことではなく、これまでもユーリたちは様々な騒動の中にあった。
これからの旅も、彼らは幾度となくその中へ飛び込んでいくような気がする。
「そうみたいね~。ますます不安だわ」
波止場から見える海を眺めながら、レイヴンも困ったように笑った。
彼も何度かユーリたちと行動を共にしているが、ヘリオードでの様子を見れば彼らの旅は平穏では済まされないことは重々承知せざるおえないだろう。
ただでさえ、エステルの旅の目的はフェローという始祖の隷長(エンテレケイア)に会うことであり、危険な旅になるのは想像に難くない。
リリーティアはそこから見える水平線を遠くに眺めると、隣にいるレイヴンを見た。
「・・・彼女が城へ戻るまで、監視するつもりなのですか?」
「そりゃあ、・・・命令を受けた嬢ちゃんの監視ってそういうことだからね」
レイヴンはあごに手をあて、夜空を仰いだ。
リリーティアは少しの間、彼の横顔をじっと見詰めると水平線へと視線を移した。
「(閣下も同じ事を彼に命令したのか・・・)」
リリーティアは僅かに目を細め、心の内でそう呟いた。
彼のその言葉に僅かに違和感を覚えた彼女は、そこに隠された言葉以上の意味を読み取った。
エステルの監視---------それはドンだけでなく、アレクセイも同様のことを命令したということを。
彼、シュヴァーンに向けて。
「それはまた、大変な仕事を任されましたね」
リリーティアは、シュヴァーン、いやレイヴンへと苦笑をもらした。
「まぁ、それはお互い様でしょ」
レイヴンもまた、肩を竦めて苦い笑いを浮かべた。
それからしばらく間、互いの間に会話はない。
海を眺める二人の間に響くのは、寄せては返す、静かな波の鼓だけだった。