第15話 解放
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そうして、一行は明日の朝まで各自思い思いに過ごすことになった。
ジュディスは話が終わったかみたか、誰よりも先に部屋を出て行った。
リリーティアもエステルと共に部屋を後にし、自分たちが休む部屋へと向かって廊下を歩く。
さっきまで話していた部屋は、ユーリ、カロル、レイヴンの三人が休む部屋で、その二部屋あけた先の部屋がエステル、リタ、ジュディス、そして、リリーティアが休む部屋として宿をとっていた。
「わたし、少し街の中を歩いてきます」
部屋に向かう途中、エステルがふいに立ち止まって言った。
自分もついて行こうかとリリーティアは考えたが、すぐにそれを改めた。
彼女も一人でいろいろ考えたいこともあるだろう。
リリーティアはただ頷いて応えると、エステルは踵を返して宿の広間に向かって行った。
その後、リリーティアもまだ休むつもりはなかったが、一度自分たちが休む部屋へと向かった。
すでにリタが休んでいたら悪いと、そっと扉を開けて部屋の中を見ると、まだ彼女は寝台の上に腰掛けて座っていた。
それは、何やら深く考え込んでいる様子であった。
「ねえ、ホントにエステルをフェローとか言うのに会わせるつもり?」
部屋の扉を締めた瞬間、こちらに目も向けずにリタが聞いてきた。
リリーティアはリタをじっと見た後、部屋の中へ進みながら肯定の意を示した。
「あの子、そいつに毒っていわれたんだっけ?」
「・・・ええ」
リリーティアは僅かに険しい表情を浮かべた。
”忌マワシキ、世界ノ毒ハ消ス”
それは今でも嫌と思うほど耳に響く。
人の言葉でありながら、人間的な声音ではない声で。
「そんなこと言われたら、気にするなっていうのが無理かもだけど。だからって帝位継承のごたごたから目を背けても、あの子のためになんないでしょ」
ぶっきらぼうな物言いだが、その言葉の裏にはエステルをフェローに近づかせることを危ぶんでいるのだろう。
エステルのことを深く心配してくれているリタに、リリーティアは嬉しげに微笑んだ。
「まぁ、それもそうだね・・・」
「だったら!」
リタはばっとリリーティアへ顔を上げて叫ぶ。
「あんただって、城に戻るべきだって思ってるんでしょ」
確かに、はじめは城に連れて帰ろうと思った。
エステルがそれを頑なに拒否しても、無理にでも連れて帰ろうと。
どんな手段を用いようと、ユーリたちと戦うことになろうとも。
だけど、それでも----------、
「----------エステルが決めたことだから」
この旅を決めたのも、彼女なりの想いがあってだ。
外の世界の美しさに感動し、もっといろんなものを見たいと思った。
けれど、それだけではないことを彼女は知った。
その醜さに嘆き悲しんだ。
それは城にいれば知ることもできなかったこと。
だから、旅に出ることを選んだ。
そこには城に帰りたくないという気持ちも少しばかりはあるのだろうけれど。
「本当にどうするべきか、それを見つけ出すのは彼女自身だ」
それでも、自分にもなすべきことがあることを知りたいという想いも嘘じゃない。
”自分にもなすべきことがある。それを見つけるために自分から人々に歩み寄りたい。”
そこにはどこか曖昧さがあったが、人々が苦しみ、悲しんでいる姿を見てきた彼女の確かな想いだった。
その為にも自分が何者なのか、世界の毒が何なのか知りたいというその想いも。
「フェローってのと戦いになるかもしれないんでしょ?死んじゃったら見つけるも何も-------」
「死なせない」
言葉を遮ったその声にリタははっとして目を見開くと、リリーティアを凝視した。
「絶対に」
リリーティアを取り巻く空気が少し変わった気がしたのである。
それは、あのカルボクラムの地下で、自分たちを背にして巨大な敵を前に立っていた、その雰囲気とどこか似ているものがあった。
とはいえ、そのときと比べるとだいぶ柔らかい感じでもあるが、それでもそこには何か只ならぬ空気が隠れているような、リタにはそんな風に感じた。
リリーティアはただまっすぐに前を見据えている。
視線の先は部屋の壁を見ているのに、遠くに何かを見ているような、何かを捉えているようなまっすぐな瞳だった。
「それに----------、」
リリーティアはリタのほうへ向くと、
「----------そのために『凛々の明星(ブレイブヴェスペリア)』もついてきてくれるしね」
にこっと微笑んだ。
さっきの空気とは裏腹にそれはとても穏やかな笑みだった。
あまりの変わりようにリタはどこか拍子抜けしたような気分になる。
「・・・もう、いいわ」
これ以上何を言っても無駄だと思ったのか、リタはため息をついた。
リリーティアは苦笑を浮かべると、自分も街の中を散策しようかと思い、部屋の扉に向かって歩き出す。
そして、扉に手をかけて、彼女は振り向いた。
「リタ、彼女のことを心配してくれてありがとう」
リリーティアは嬉しげに微笑んだ。
エステルのことを想って、この危険な旅を止めようとしてくれた彼女に向けて。
「出来ることなら、リタも私たちと一緒にきてくれると嬉しいんだけど・・・」
リタはリタのやることがある。
無理強いすることはしない、けれど。
「エステル、きっと喜ぶよ」
あの時、とても寂しそうな表情を浮かべていたから。
その言葉にどう返していいのか分からず、リタはただ押し黙った。
リリーティアが出て行った後も、リタはしばらくの間、部屋の扉と睨めっこしながらひとり考えに耽っていた。