第15話 解放
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カプワ・トリムに着いた一行は、街の宿に向かった。
トリムは変わらず活気に溢れているようで、宿の中は以前よりも少し混雑していた。
ひとまず一行は宿屋の中にある食堂で食事にありついた。
お互いの事情は人が混んでいる食堂ではなく、食事の後に部屋で話すことになった。
食事の間、よほど空腹であったのかレイヴンは海の幸をがつがつ食べながら、
ヘリオードで厄介ごとに首を突っ込んでいるユーリたちに対して、ついていくのが大変だったと何度もぼやいていたが、
こっちの知ったことではないと、ユーリは自分の皿からラピードの分の料理を取り分けながら彼の文句を受け流していた。
そうして食事を済ませ、リリーティアたちは宿の部屋で一息ついた。
その頃には外はすでに夜になっていた。
まずリリーティアたちから話をして、ダングレストを襲ったフェローのこと、
カロルを首領(ボス)としたギルド『凛々の明星(ブレイブヴェスペリア)』を立ち上げた経緯を話した。
その後、レイヴンが一行を追いかけてきたその事情を聞いた。
どうやら彼は次期皇帝候補であるエステルのことを見ておくよう、ドンに言いつけられたようで、
ギルドの勢力圏で<帝国>の姫に間違いが起きないようにということらしい。
「なるほどな。ユニオンとしては<帝国>の姫様がふらふらしてるのを知りながらほっとけないって訳か」
レイヴンの話を聞いて、ユーリは納得して頷いた。
<帝国>とユニオンの関係を考えたら、ドンの考えも当然だろう。
その上、あのヘラクレスの一件でギルド側は一層警戒を強めているはずだ。
互いに腹を探り合っているこの状態では、<帝国>の次期皇帝の動きを追っておきたいのも含め、
ギルドの勢力圏で<帝国>の姫に何かあったら、それがきっかけでさらにこじれる可能性だってある。
「ドンはもうご存知なんですね、わたしが次の皇帝候補であるってこと」
「そそ。なもんで、ドンにエステルを見ておけって言われたんさ」
「でもさ、それっていわば監視ってことでしょ?あんま気分よくなくない?」
カロルは僅かに複雑な表情を浮かべる。
確かにはっきりといえば監視ってことだが、
監視対象のエステル本人は「そいうものです?」と首を傾げていて、別段気に留めていないようだった。
「んで、あんたらはフェローってのを追って、コゴール砂漠に行こうとしてると」
次の話に切り替え、エステルとその隣にいるリリーティアに向けてリタが話す。
彼女の言葉にエステルが頷くと、どこか呆れたような表情で話を続けた。
「砂漠がどういうとこか、わかってる?」
「暑くて、乾いてて、砂ばっかのところでしょ」
「簡単に言うわね。そう簡単じゃないわよ」
カロルの返答に、リタは重いため息をついた。
「とりあえず、近くまで皆さんと一緒に行こうと思って」
「それから?」
「色々回ってみて、フェローの行方を聞こうかと」
天井を見上げながら、エステルはこれからの旅の行動を話した。
それはあまりに曖昧すぎる内容ではあった。
「・・・ツッコみたいことはたくさんあるけど・・・」
砂漠で見たという情報しかないから、行動の取り方が曖昧になるのも仕方がないかもしれない。
彼女なりに考えたそれは、合理的なリタにとって色々と言いたいことがあったようだが口にはしなかった。
かくゆうリリーティアもゴゴール砂漠へ向かったとしても、あの広い砂漠をどうして探せばいいか皆目検討がついていない。
「お城に帰りたくなくなったってことじゃないんだよね?」
「えと・・・それは」
リタのその問いにエステルは言葉を詰まらせた。
彼女なりの目的をもってこの旅を選んだが、そういう気持ちもないとは言い切れないところがあるのかもしれない。
「おっさんとしては城に戻ってくれた方が楽なんだけどなぁ」
「ごめんなさい。わたし、知りたいんです。フェローの言葉の真意を・・・」
それでも、自分のことを知りたいという想いも彼女の確かな決意で、覚悟なのだ。
エステルはレイヴンに申し訳ないような表情を浮かべた。
「ま、デスエール大陸ってんなら好都合っちゃ好都合なんだけども」
「どうしてかしら?」
ジュディスが微笑みながら首を傾げる。
レイヴンは懐から何やら取り出しすと、リリーティアたちに見えるよう前に掲げてみせた。
それは、手紙だった。
「ドンのお使いでノードポリカへ行かなきゃなんないのよ。ベリウスに手紙を持ってけって」
「うわっ、大物だね」
カロルは声を上げた。
ベリウスの名を聞いただけで少し興奮している。
「ノードポリカを治める、闘技場の首領(ボス)の方、でしたよね?」
「正確には統領(ドゥーテェ)っていうんだけどね」
エステルの問いに、カロルが答える。
レイヴンが手に持っているものは、ギルド『戦士の殿堂(パレストラーレ)』の統領(ドューチェ)、
『天を射る矢(アルトスク)』に匹敵するギルドの長への手紙だった。
「その手紙の内容知っているのかしら?」
ジュディスが尋ねると、レイヴンはあっさりとその内容を明かした。
「ん。ダングレストを襲った魔物に関する事だな。おまえさん達の追ってるフェローってヤツ。ベリウスならあの魔物のこと知ってるって事だ」
ユーリとエステルは顔を見合わせた。
「こりゃ、オレたちもベリウスってのに会う価値が出てきたな」
「ですね」
ベリウスとは一体何者なのだろう。
ドンの盟友って言われるほどだから、一筋縄ではいかない相手のような気がする。
ユーリとエステルが互いに頷いているのを見ながら、リリーティアはベリウスというその人物像を思った。
「っつーわけで、おっさんも一緒につれてってね」
手紙を懐に仕舞い込むと、レイヴンはにっと笑って言った。
「わかったよ。でも一緒にいる間はちゃんと『凛々の明星(ブレイブヴェスペリア)』の掟は守ってもらうよ」
どこか仕方がないといった様子のカロル。
カロルもまた、ラゴウの屋敷で騙されたことを忘れたわけではないのか、彼のことを快く受け入れているわけではなさそうだ。
ドンの命令で来たからというところが大きいのだろう。
「了解。了解~。んでも、そっちのギルドに入る訳じゃないから、そこんとこもよろしくな」
「どうして『凛々の明星(ブレイブヴェスペリア)』に入らないんです?」
エステルが疑問符を浮かべる。
「同時に二つ以上のギルドに所属する事は禁止されてるんだ。
レイヴンだって一応、『天を射る矢(アルトスク)』の人間だしね」
「一応ってなんだよ」
ジト目でカロルを見るレイヴン。
「話は終わり?じゃあ、あたしそろそろ休むわ」
話はついたと見たリタがそう言うと、すたすたと部屋を出て行った。
「リタは・・・どうするんでしょう?」
「さぁ、な」
リタが出て行った扉を見ながらエステルが言う。
どこかその表情は寂しそうにも見えた。
リタはエアルクレーネを調査するために旅をしている。
つまり、リリーティアたちの旅とはまったく違う目的を持っているから、そう考えると一緒に旅をする必要はないということだ。
「明日の出発まで自由行動かしら?」
「うん。そうだね。明日になったら港に行ってみよう」
カロルの言葉に一行は頷くと、話を切り上げた。