第15話 解放
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二人の男がなにやら話をしながら広場に入ってきたのが見えた。
一人はキュモールと、そして、もう一人は変わった髪型をしていて、貴族と見紛うような派手な青の上下に身を包んだ男。
ユーリたちはその男のことを知らないが、リリーティアはよく知っていた。
「(イエガーさん・・・)」
その男はギルド『海凶の爪(リヴァイアサンのつめ)』の主領(ボス)であるイエガーであった。
労働者キャンプへと向かうつもりらしい、二人は昇降機に向かって歩いている。
だが、昇降機の手前でイエガーが突然その足を止めた。
「マイロード、コゴール砂漠にゴーしなくて本当にダイジョウブですか?」
「ふん、アレクセイの命令になんて耳を貸す必要はないね。僕はこの金と武器を使って、すべてを手に入れるのだから」
キュモールは鼻を鳴らし、長い髪をはらう。
「そのときがきたら、ミーが率いる『海凶の爪(リヴァイアサンのつめ)』の仕事、誉めてほしいですよ」
「ああ、わかっているよ、イエガー」
「ミーが売ったウェポン使って、ユニオンにアタックね!」
イエガーは機嫌がいいように声を張って言うと、キュモールは気分を害した表情を浮かべた。
「ふん、ユニオンなんて僕の眼中にはないな」
「ドンを侮ってはノンノン、彼はワンダホーなナイスガイ。それをリメンバーですヨ~」
「おや、ドンを尊敬しているような口ぶりだね」
「尊敬はしていマース。バット、『海凶の爪(リヴァイアサンのつめ)』の仕事は別デスヨ」
イエガーは不適に笑う。
けれど、リリーティアにはそう装っているようにも見えた。
彼もまた、数年前にドンと出会って、心境の変化があった様子だった。
そう、それはあの時、ギルドへの間諜から城に戻ってきた、あの彼と同じように。
ドンという存在は彼らにとってはとてつもなく大きいものなのだ、きっと。
未だ、アレクセイの命のままに動いているとはいえ。
「ふふっ・・・僕はそんなキミのそういうところが好きさ。でも心配はない、僕は騎士団長になる男だよ?ユニオン監視しろってアレクセイもバカだよね。そのくせ、友好協定だって?」
と、その時イエガーが一行が隠れている場所に向かって視線を向けた。
「僕ならユニオンなんてさっさと潰しちゃうよ。君たちから買った武器で!」
機嫌よく喋り続けるキュモールの隣で、イエガーはただ静かに唇を弧に描いた。
明らかにこちらの存在に気づいている。
いや、気づいていたからこそ、わざと立ち止まってキュモールに話を振ったのだ。
ゴゴール砂漠へいかなくていいのか、と。
それもすべては情報として一行に、いや、リリーティアに聞かせるために。
「僕がユニオンなんかに、つまずくはずがないんだ!」
「フフフ、イエースイエース・・・・・・」
宣言するよう声高らかに話すキュモールの声と共に、二人は昇降機に乗って下へと降りていく。
そして、不適に笑うイエガーの声が沈むようにして消えていった。
二人がいなくなったところで、一行は結界魔導器(シルトブラスティア)の陰から出た。
「あの変な男、こっち見て笑ったわよ」
「明らかにオレたちのこと気づいてたな」
「あたしたちをバカにして・・・!」
リタがぐっと顔の前で拳を握りしめ、怒りを露にする。
「(すべてはキュモールの思惑か・・・)」
さっきの二人の会話から、キュモールは街の建設と偽ってユニオンを攻撃するために密かに何かを作っていることが分かった。
「(閣下もキュモールの思惑をすでに知っていたようだし・・・)」
キュモールは『海凶の爪(リヴァイアサンのつめ)』に依頼して、密かに魔導器(ブラスティア)や武器を調達している。
誰にも知られず密かに企んでいるとキュモールは思っているのだろうが、
彼のその行動は逐一、イエガーからアレクセイへと伝えられているはずだ。
「(・・・そうか、その思惑を利用していたのか)」
キュモールの思惑によって、ヘリオードには『海凶の爪(リヴァイアサンのつめ)』から買い取った武器が大量に保管しているようだ。
その上、街の人たちを働かせて、ダングレスト侵攻のために軍事施設を作っている。
これまでキュモールの行動を野放しにしてきたのは、アレクセイの理想にとっては理に適ったものだったに違いない。
キュモールにしてみれば、自分がすべてを手に入れるための思惑だったのだろうが、彼の行動ははじめからアレクセイの策略に見事にはまっているようなものだったのだ。
「(なら、ゴゴール砂漠に向かうよう指示を出したのは・・・)」
会話からもうひとつ分かったことは、アレクセイがゴゴール砂漠に向かうようキュモールに指示を出していること。
それは、ダングレストに現れた始祖の隷長(エンテレケイア)を追うためだろう。
フェローという始祖の隷長(エンテレケイア)のことも、ゴゴール砂漠の目撃情報のことも、
そして、自分たちの行動もすべて、急使をたててすでにアレクセイへ知らせている。
それらの情報をもとにキュモール隊に指示を出したようだ。
つまり、ヘリオードでの
そうして、次は新たな地でアレクセイはキュモールを利用するつもりなのだ。
「(それで、ここ最近になって急ぎはじめたのか)」
ゴゴール砂漠へ行くよう命令を受けたために、キュモールは建設を急ぎ始めたのだ。
一刻も早く己が野望を果たすべく。
つまり、強制労働はアレクセイの意図ではなく、キュモールの独断での行い。
「本当にぐだらないことしか考えないな、あのバカは」
ユーリがぼやいた。
確かに本当にくだらない思惑かもしれない。
そんな思惑さえ企てなければ、利用されることもなかっただろうに。
闇は闇を以って制されるが同様に、闇は闇を利用する。
「(ということは、おそらくフレンあたりがここに向かっているはずだ)」
アレクセイの命令を無視して、ヘリオードで己が思惑を成就させようと動いているキュモールに、さっさとゴゴール砂漠へ向かわせるためには、ここで行われている実態を早急に取り押さえればいい。
フレン隊がここへ来るのも時間の問題だろう。
もうすぐそこまで来ているのかもしれない。
「(とにかく、だとしたら行動はとりやすい)」
ヘリオードでのキュモールの利用は終わった。
労働者キャンプで行われていることを一旦は抑えようとアレクセイが動いている。
ならば、自分もそれなりにその方向で動いていいということだ。
「みんな解放してやろうぜ、あのバカどもから」
ユーリたちが考えていることと同じように。
ならば、そう慎重に事を運ぶ必要はなさそうだ。
ユーリの言葉に一同は頷くと、昇降機に向かって歩き出した。
リリーティアも皆の後に続く。
だがリリーティアには、皆とは違って念頭に置いておくことがひとつだけあった。
それは、キュモールの身柄について。
「(今回は見逃さなければいけないな・・・・)」
彼らには悪いけれど。
ゴゴール砂漠に向かってもらわなければ行けないのだから。