第15話 解放
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「んじゃ、さくっと探ってみるか」
「探るって、まずどこを探るのさ?」
ケラスとポリーと別れ、一行は広場でひとまず話し合っていた。
「いかにも怪しい看板が立ってるあそこからだな」
そう言ってユーリが指をさした先は、労働者キャンプに続いている昇降機だ。
昨夜と同じように、見習いの騎士が一人と、その横には立ち入り禁止の看板が立っている。
「だろ、リリィ?」
「ええ。あの下は下層地区の建設現場で、建設に携わっている労働者や関係者以外の立ち入りを禁じているらしい」
昨夜、リリーティアから労働キャンプのことを聞いているユーリは、はじめからそこに目をつけていたのだろう。
「部外者が入れないっていうのがいかにも怪しいわね」
ジュディスが微笑みながら言う。
それはどこか少し楽しんでいるように見える。
「なんとか入れないでしょうか・・・」
「し、慎重に、を忘れないでよ」
カロルの言葉に黙って頷くと、ユーリ一人でつかつかと見張りの騎士に近づいていった。
彼以外の一行は、その様子を結界魔動機(シルトブラスティア)の影から見守る。
その間、カロルだけは落ち着きがなく、はらはらした様子で彼の背を見詰めていた。
「ちょっと、この先に行きたいんだけど」
「ダメだダメだ。この先にある労働者キャンプは危険だからな」
騎士はとんでもないという風にユーリを押し戻す仕草をした。
当然のことだが、やはりそう易々と入れてくれるわけがない。
「ふーん・・・」
ユーリはじっと昇降機を見詰めた後、リリーティアたちのもとへ戻った。
「よかった・・・ユーリのことだから、強行突破しちゃうかと思った・・・」
「慎重に、が首領(ボス)の命令だったからな」
ほっと大きなため息をつくカロル。
よほど心配だったようだ。
「でも、どうやって通ります?」
「リリーティアが中に入れてくれるよう頼むのは無理なの?」
「隊長の許可が必要ですって断られるよ、きっと」
カロルの提案にリリーティアは肩を竦めた。
隊長主席の特別補佐をしているといっても、ここの管轄者である隊長格の意思を無視して中に入ることは無理だ。
何か重大な理由があれば押し入って入れる可能性もなくはないが。
しかし、今の段階ではその理由も、まして証拠もない。
”仕事がキツくて人が逃げ出している”という根も葉もない噂だけしか持ち合わせていないのだ。
「やはり強行突破が単純で効果が高いと思うけれど」
「それは禁止だよ!」
それがもう当然のことだというように言うジュディス。
カロルは慌てて抗議の声をあげた。
彼女が言うように確かに効果は高いだろうが、後で面倒なことになるのは必至だろう。
「(それに、それで中に入れたとしても、この人数で行動するとなると・・・)」
昨夜の内にでも、先に一人で探ってみたほうが良かったか。
リリーティアはそう己の判断を少し悔やんだ。
単独に動いたほうがその分行動はとりやすいし、暗闇の中なら相手に見つかりにくい。
何よりキュモールの思惑かアレクセイの思惑か分からないこと、それが彼女には大きな問題だった。
そこがはっきりしないと彼女自身の行動が取りにくいのだ。
せめてそのことだけでも明確にするために、昨夜のうちに行動を移すべきだったかもしれない。
リリーティアは心の内で、ため息をついた。
「おい!今すぐ応援にきてくれ!」
その時、街の奥からひとりの騎士が慌てて広場に駆け込んできて、昇降機の見張りに立っている騎士に叫んだ。
「どうした?」
「詰め所が大変なことになってるんだ!」
どうやら、この街の騎士団本部で何か起きたらしい。
「捕まえてた魔道士が喚くは暴れるわで、手に負えないんだ!ほら、早く来い!」
見張りの騎士は持ち場を離れて、本部へと駆け出して行った。
そのおかげで昇降機の前は無防備な状態になる。
今なら簡単に乗り込めそうだったが、その前にひとつ気になることがあった。
「ねえ、なんか嫌な予感がするんだけど、魔導士ってまさか・・・?」
考えすぎかな、とカロルが唇を引きつかせながら言った。
「どうだかなぁ」
ユーリは意味ありげな視線で仲間たちを見ると、最後にリリーティアを見る。
「とりあえず、様子を見に行ってみる?」
リリーティアの言葉に、皆が一斉に頷いた。
見張りがいなくなって好都合なのだが、満場一致で騒いでいる魔導士のことが気になった一行は騎士団本部に向かった。
本部が目の前に見えた頃、どこからともなく声が響いた。
「よくもこんなところに閉じ込めたわね!あたしが誰だか知ってんの!責任者出せっ!」
その声に続いて、騎士たちの悲鳴と何かが倒れるような激しい音が鳴り響いた。
それは明らかに騎士団本部から聞こえてきており、その声と激しい音に、すぐにその魔導士が誰なのか分かってしまった。
ユーリは半ば呆れ顔で騎士団本部の扉を開けた。
中を覗き込むと、一行の目に飛び込んできたのは広間の床に倒れている騎士たちだった。
そして、慌て震える騎士たちの姿と、そんな彼らの前には栗色髪の魔導士の背が見えた。
「おとなしくしろ!今、・・・今、呼んでくるから・・・!」
「うるさーいっ!」
青ざめる騎士たちに魔導士は容赦なく叫び声をあげると魔術を発動した。
またも、爆音と共に騎士たちの悲鳴が響き渡る。
「うわぁ・・・」
「メチャクチャだな」
「・・・・・・」
カロルはさらに頬を引きつらせ、ユーリは深いため息をつく。
目の前に起きている光景にはリリーティアも絶句して、ただただ呆然と見詰めていた。
すべての騎士が気絶してしまったのか、辺りは静寂に包まれた。
魔術の影響で本部の広間には煙が充満していたが、徐々に煙が消えて視界が開けると、
そこには十人ほどの騎士たちが床一面に倒れ、その中央に栗色髪の魔導士がこちらに背を向けて立っているのが見えた。
おそらくさっき広場から駆け出して行った二人の騎士もその中にいるに違いない。
すべての騎士が気絶したにもかかわらず、栗色髪の魔導士はまだ魔術の詠唱を続けていた。
ユーリは急いで駆け出し、その魔導士の腕をとった。
「は、はなしてよっ!」
「リタ!落ち着け、オレだ、オレ」
その魔導士とはリタだった。
ここで出会うとは思ってもいなかったが、魔導士が暴れていると聞いた時点で、誰もがもしやと思っていたとおりの人物であった。
「・・・ユーリ・・・?」
その声に、リタはきょとんとしてユーリに振り返った。
「だ、大丈夫です?」
「エステル、どうしてこんなところに・・・。それに、あんたたちまで・・・」
エステルが駆け寄ると、リタは目を瞬かせて驚いていた。
彼女の後に続いて、リリーティアやカロル、ジュディス、ラピードがいる事にも気づくと、リタは一層目を丸くして一行を見たのだった。