第15話 解放
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翌日の朝。
一行はひとまず街建設の内情を知るために、街の中を見て歩こうということになった。
昨夜遅くまでは晴れ渡っていた空も、今朝はあいにくの曇り空だった。
街中の様子は、時折<帝国>の騎士が歩いている姿と、大きな荷物を持った旅商人や観光客らしき人たちがまばらにいるぐらいである。
「(そういえば・・・、さっきから建設の仕事をしているような人たちを一人も見かけない・・・)」
以前ここに来たときは、すれ違う人々の大半が、街の建設に携わる作業員の人たちで溢れていた。
なのに、今はその姿がまったく見られないのである。
広場にさしかかると、建物の合間から結界魔導器(シルトブラスティア)が、美しい光を含みながら静かな音を立てているのが見えてきた。
「周囲の異変おさまってますね」
「うん、あの後は暴走とかしてないみたいだ」
エステルとカロルが周りうを見渡しながら話す。
一行が広場の中央まできた時、前方に見知った顔があることに気づいた。
それは、小さな男の子と女性の姿。
「あれ、あいつら、ノール港で会った・・・」
「あの時のお姉ちゃんたちだ!」
一行が気づいたのとほぼ同時に、向こうもこちらに気づいたようだ。
男の子が元気な声をあげてこちらに駆けてくる。
「どちら様?」
「前に助けたんだよ、ノール港で」
首を傾げるジュディスにカロルが答える。
その男の子と女性は、カプワ・ノールで助けたポリーとその母親のケラスだった。
「お元気でしたか?」
嬉しげに微笑むエステルに、ケラスは「はい」と頷いた。
「あの時は本当にありがとうございました。何のお礼も言えないままになってしまって」
リリーティアたちに深く頭を下げて申し訳ないような表情を浮かべた。
思えば、ポリーをラゴウの屋敷から助けた後は、ラゴウを追って屋敷近くの港からそのまま船に乗り込んだ。
そして、そのままトリム港に行ったきり、ポリーの家族とは一度も会わずじまいであった。
「お父さんは、一緒じゃないの?」
父親であるティグルの姿が見えないことに、エステルがポリーに聞くと、その瞬間、ポリーの表情が一変して曇り、俯いたまま黙り込んでしまった。
それを見れば、何かあったのだということは誰から見ても明らかだ。
「それが、ティグルの・・・夫の行方は、三日前からわからなくて・・・」
彼女の話によると、一家でノール港からヘリオードにきたのは、この街の建設のためだという。
建設開始当初から定期的に各地へ向けて作業員の募集を行って人手を集めているのだが、最近になってまたさらに作業員を募集しているのを知って、ポリーの父親も最近ここへ勤めにやって来たらしい。
しかし、ここへ来てからそれほど日も経たずして、ティグルが仕事に出たっきり帰ってこなくなったのだという。
ここを管理している騎士の人たちに聞いても、知らないと言うばかりで、まったく行方が知れないのだ。
「心当たりはないのか?」
ユーリが尋ねると、ケラスは首を横に振った。
「はい・・・。いなくなる前の晩も、貴族になるためがんばろうと・・・」
「貴族にってどういうことですか?」
ケラスの話にエステルが首を傾げて問う。
「この街が完成すれば、私たち、貴族としてここに住めるんです」
その話に、リリーティアは眉をひそめた。
慣れ親しんだ街であるノールを出て、ここまで働きに来たのも、
街の建設を最後まで手伝えば貴族として迎えるという好条件があったからこそなのだという。
「え?それ、ちょっとおかしいです」
話を聞いたエステルもすぐにおかしいと異論を唱えて、言葉を続けた。
「貴族の位は<帝国>に対する功績を挙げ、皇帝陛下の信認を得ることの出来た者に与えられるものである、です」
「で、ですが、キュモール様は約束してくださいました!貴族として迎えると!」
ケラスは訴えるように声を上げた。
エステルとリリーティアは険しい面持ちで互いに顔を見合わせた。
ケラスの言うその約束は明らかに嘘だと分かっているからである。
二人がそう断定するのは、現在の<帝国>の現状を知れば明白である。
「今も皇帝の椅子は空いたままです。つまり、今の<帝国>には貴族の位を与えることはできません。・・・やはり、その話はおかしいと思います」
ここ十年、皇帝は不在のまま。
そのため、今の状況下では<帝国>が貴族の位を与えることはできないのである。
ケラスたち家族の思いを考えると心苦しいものがあったが、リリーティアはその文句は嘘であることをはっきりと告げた。
「そんな・・・じゃあ、私たちの努力はいったい。それに、ティグルは・・・」
ケラスの顔は青ざめた。
住み慣れた故郷までもあとにしてヘリオードに来た彼女の家族。
そして、慣れない生活の中で街の建設を懸命に勤めてきた彼女の夫。
すべては、生活が豊かになるならと彼女らはここまでやってきたのだ。
それが、嘘だった。
誰だって信じたくないだろう。
そして、騙されていたことを知って、さらに行方不明の夫の安否が気がかりであった。
「パパ、帰ってこないの・・・?」
エステルとリリーティアを見上げるポリー。
その表情は今にも泣きそうなぐらい悲痛なものだった。
「あの、ユーリ・・・」
「ギルドで引き受けられないかってんだろ」
そのポリーの姿を目にして、すぐにエステルは助けを求めるような視線でユーリを見る。
すぐに彼女の意思を察したユーリは、やれやれといった感じで言った。
「報酬はわたしが後で一緒に払いますから」
「えと・・・じゃ、いいよ」
「次の仕事は人探しね」
カロルは少し悩んでいたが、ギルドへの正式な依頼としてならと戸惑いながらも頷いた。
ジュディスはどこか淡々ともいえる様子で、次に自分たちのやることを口にしていた。
「ま、キュモールがバカやってんなら、一発殴って止めねえとな」
「はい。騎士団は市民を守るためにいるんですから」
そう言ってエステルがこちらを見たので、リリーティアも深く頷いた。
彼女の言う通り、騎士は常に市民のためにあるもの、それが騎士の誇り。
それこそが、騎士の姿なのだ。
今の自分には、あまりに程遠い姿だが。
「こ、行動は慎重にね。騎士団に睨まれたら、ボクらみたいな小さなギルド、簡単に潰されちゃうよ」
「了解」
心配げに見上げるカロルにユーリは頷いた。
これまでにも何度か騎士団との間で騒動を起こしている一行。
そこには理由があったにせよ、問題となる行動も起こしてきたのも事実で、カロルが危惧する気持ちはよくわかる。
「そういうわけだ。引き受けたよ」
「え?でも・・・」
「わたしたちがきっと見つけます」
「あ、ありがとう、ありがとうございます!」
戸惑うケラスにエステルは笑顔を浮かべて、強く意気込んでみせた。
ケラスは安堵と喜びに満ちた表情で何度も頭を下げている。
「・・・・・・・・・」
そんな中で、リリーティアは複雑な表情を浮かべていた。
昨日から思っていることだが、騎士団と事をかまえるのは避けたい。
しかも、相手はキュモール隊。
「(・・・正直、気は進まないけど)」
キュモール個人で企んでいるなら、場合によっては抑えないといけない。
もし、何かしら騎士団長の意図によるものなら・・・、尚のこと慎重に事を運ばなければ。
そう真剣な面持ちで考えに耽っていると、微かに服の裾を引っ張られたのを感じて、リリーティアははっとした。
「パパ、ちゃんと帰ってくる?」
視線を落として見ると、不安げに見上げてくるポリーの顔があった。
彼女はその場にしゃがんで視線をポリーの目の高さに合わせると微笑んだ。
「もちろん。ちゃんと帰ってくるよ。だから、もう少しだけ待っててね」
「・・・うん!」
リリーティアの言葉に安心したのか、ポリーはぱっと表情を弾けさせて満面の笑顔を浮かべた。
その笑顔にリリーティアはさらに笑みを深くする。
そして、彼女はポリーの小さな頭をそっと優しく撫でた。
胸の奥に鈍い痛みを感じながら。