第14話 決意
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”忌マワシキ、世界ノ毒ハ消ス”
怪鳥が言っていた言葉。
それはエステルに向かって放たれた言葉。
見張り番をユーリと交代してから、リリーティアはずっと考えに耽っていた。
「(エステルが、・・・・・・世界の毒)」
リリーティアは眉間にしわを寄せた。
彼女が世界の毒と呼ばれた理由とはなにか。
ダングレストではエステルだけが狙われた。
街の人間でもなく。
騎士団の人間でもなく。
そう、彼女だけが狙われた。
エステルだけが。
「(・・・・・・〈満月の子〉の力)」
彼女が持っている力。
「( 〈満月の子〉の力が世界の毒だというのか・・・)」
いや、それだけじゃ、納得できない。
皇帝家の人間ならば少なからずその血を持っている。
それなのになぜ、あの時、あの場所に、突如として始祖の隷長(エンテレケイア)は姿を現したのか。
「(何より、なぜ今頃になってエステルを狙った?)」
その時、リリーティアの頭の中に必然として過去の記憶が思い起こされた。
かつて竜によって滅ぼされたいくつかの街。
その理由。
『あの時、わたし、とてもうれしかったんです。ハルルの樹がよみがえった時、あんなに喜んでいる街の人たちの姿を見て・・・』
それは、つい数時間前にエステルが言っていた言葉。
心から嬉しそうに笑っていた彼女の姿を思い出す。
それだけでなく、これまでの旅の中、怪我をした人には献身的に治癒術で怪我を治す彼女の姿が思い出された。
「(ということは・・・・・・)」
リリーティアははっとして顔を横へ向ける。
視線の先には、静かに眠っているエステルの顔。
「(つまり、彼女の力は・・・・・・)」
リリーティアは眉間のしわを深くする。
「古代の〈満月の子〉と、同じ・・・?」
彼女は思わず口に出していた。
しかし、それは本人にしか聞こえない微かな声。
リリーティアは愕然とした。
エステルが古代の〈満月の子〉と匹敵する力を持っている。
そう考えることで、今になってやつがエステルを狙った理由に説明がつくのだ。
「(だとしたら・・・ジュディスは・・・)」
リリーティアはジュディスへと視線を移した。
彼女も静かに眠っている。
竜使いの彼女。
ヘリオードでエステルを狙った竜使い。
ダングレストでエステルを狙った始祖の隷長(エンテレケイア)。
ダングレストの橋の上で始祖の隷長(エンテレケイア)と至近距離で対峙しているように見えた竜使い。
狙っていたエステルがいながら、しかも怪我も負っていないにも拘わらずに、唐突にダングレストを去った始祖の隷長(エンテレケイア)。
あれは、対峙していたのではなく、竜使いとなにやら会話を交わしていたのかもしれない。
でも、それは推測でしかない。
けれど、互いにその標的は共に同じ〈満月の子〉だということは確か。
「(やつらと、・・・・・・仲間?)」
竜使いと始祖の隷長(エンテレケイア)は同じ目的をもった者同士。
なら仲間だと考えるのがごく自然な考えであった。
「(彼女の相棒っていうのも、おそらくあの竜)」
相棒として一緒に旅をしていたと話していた彼女。
リリーティアはそれは彼女がいつも乗っていた竜のことだと推察した。
「(あんなにあっさりギルドに加入することを決めたのも、なにか目的があってのはず)」
何よりも、ジュディスがギルドに加入した真意を勘ぐった。
彼女はギルドが気に入ったと言っていたが、その言葉をどこまで信用していいかわからなかった。
その時の彼女の表情からは、興味があったというのもあながち嘘ではなさそうだったが、だからといって、ギルドに加入したのが単なる興味からだけだとは思えない。
他にも理由があってのことだと、リリーティアは疑わなかった。
竜使いならではの目的がそこにあると。
「(まぁ、ユーリもいるし・・・・・・、彼なりに彼女のことは気にしてくれているみたいだしな)」
唯一、ユーリは彼女が竜使いと知っている。
でも、彼は普段と変わらずに彼女と接していた。
彼は基本的に人に対して深く詮索することをしない性格だ。
竜使いのその目的を知っても、仲間に危険が及ばない限りは詮索しないつもりなのだろう。
といっても、今まで彼の行動を見てきてリリーティアもわかっているが、彼が何より大事にしているのは近しい者の安否だ。
仲間は自分が守るもの。
その想いが誰よりも強い。
だから、竜使いであるジュディスの行動を、彼なりに注意して見てくれているのはわかっている。
彼に反して、エステルとカロルはジュディスのことをはじめから警戒はしておらず、まるでずっと以前から一緒に旅をしてきた仲間のように親しげに接している。
竜使いと知らない彼らだから、それは仕方がないのかもしれないが、
しかし、それにしても二人のあの無警戒ぶりは傍から見ても少々心配になる。
それが二人の良さとも言えなくもないが、やはり周りから見れば心配でしかない。
それもこれも、ユーリがいるからこそ、二人はかくも無用心にいられるところもあるのだろうけれど。
「(とにかく、竜使いとやつらは、何かしらの関係はあるのかもしれない)」
とはいえ、それも確かな証拠がない。
なら、竜使いのことは、もうしばらく様子を見よう。
エステルを狙ったことは事実だが、ガスファロストで助けてくれたこともリリーティアにとっては大きな事実なのである。
竜使いである彼女に対して、何かしらの判断を下すのは、やはりまだ早い。
彼女はもう一度、仲間たちが眠っているほうへと顔を向けた。
そして、その中にいるエステルへと。
「(・・・・・・もう少し見極める必要がある、か)」
リリーティアはしばらく彼女をじっと見詰める。
その瞳の中には複雑に絡み合う感情が揺れていた。
考えに耽るのをやめ、彼女は焚き火のほうへと視線を戻すと、手元に置いてあった小枝を手にして火が消えないようにつついた。
ぱちぱちと音がなって、火の粉があがる。
彼女はしばらくの間、ただただ揺らめく炎を見詰めていた。
”忌マワシキ、世界ノ毒ハ消ス”
考えに耽るのをやめても、その言葉だけは彼女の頭の中で主張し続けた。
空が明るみ夜が明け始めても、それはリリーティアの耳から離れることはなく、忌々しげに響き続けていた。