第14話 決意
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赤い太陽が地平線に半分沈んでいる。
空は茜色からだんだんと紺青に染まりつつあった。
雨の多いトルビキア大陸としては珍しく、雲は少なく、その隙間からはちらほらと星も瞬き始めている。
あれから一行はヘリオードを目指して緑豊かな平野の中をひたすらに進んでいた。
平野を進み、木々が生い茂る森の中に入る手前、カロルが突然立ち止まった。
「そろそろ休憩しようよ~」
膝に手をついて不満げに訴える。
ダングレストを発ってからだいぶ長い距離を歩いてきたのだが、騎士に追いつかれては困ると半ば足早に道中を進んでいた。
正直なところ疲れていないと言えば嘘になる。
皆がカロルと同じ気持ちだった。
「ま、ここなら大丈夫だろう。今日は休むか」
ユーリが背後を窺いながら言った。
騎士団もそうすぐには追ってこられないはずだ。
ダングレストでは始祖の隷長(エンテレケイア)と対抗するためだったからとはいえ、ヘラクレスの砲撃で橋を壊してしまった。
そして、何よりヘラクレスの存在をギルドユニオンに知られたのだ。
その対処に追われ、すぐには追ってこられないだろう。
「あとでギルドの事も色々ちゃんと決めようね」
カロルが意気揚々とユーリに言う。
「ギルドを作って、何をするの?あなたたち」
ジュディスが二人に聞く。
「ボクはギルドを大きくしたいな。それでドンの跡を継いで、ダングレストを守るんだ。それが街を守り続けるドンへの恩返しになると思うんだ」
カロルはただドンに憧れているだけでなく、彼に対する感謝の気持ちを強く持っているようだ。
それだけドンのことを深く尊敬しているのだということが窺えた。
「立派な夢ですね」
エステルがにこっと笑う。
「オレはまぁ、首領(ボス)について行くぜ」
「え?ボ、首領(ボス)?ボクが・・・?」
ユーリの言葉にカロルはきょとんとすると、自分の顔を指差した。
「ああ、おまえが言いだしっぺなんだから」
「そ、そうだよね。じゃあ、何からしよっか!」
「とりあえず落ち着け」
「うん!」
自分が首領(ボス)となったことで、カロルは余計やる気が増している。
今すぐにでもギルドとしてなにかを始めたいらしい。
やる気満々の彼の様子を、リリーティアは微笑ましく見ていた。
「ふふっ・・・なんだかギルドって楽しそうね」
ジュディスも彼らの楽しげな様子に小さく笑いをこぼす。
「ジュディスもギルドに入ってはどうです?」
「あら、いいのかしら。ご一緒させてもらっても」
ジュディスが楽しげに笑っているのを見て、エステルが彼女に提案した。
彼女はまんざらでもないらしく、興味があるらしい。
「ギルドは掟を守ることが一番大事なんだ。その掟を破ると厳しい処罰を受ける。例えそれが友達でも、兄弟でも。それがギルドの誇りなんだ。だから掟に誓いを立てずには加入は出来ないんだよ」
先輩の顔で説明するカロル。
確かに、この中でギルドについてはカロルが一番知っている。
自慢げにギルドのこと話す彼は、ギルドとしての生き方に誇りを持っていることがよく伝わってきた。
「カロルのギルドの掟は何なんです?」
「え!?えっと・・・」
エステルが首を傾げて問う。
ギルドを立ち上げたいと考えてはいたが、まだそこまでは考えていなかったのだろう。
カロルは言葉に詰まった。
「お互いに助け合う、ギルドのことを考えて行動する、人として正しい行動をする、それに背けばお仕置きだな」
言葉に詰まるカロルにユーリはすかさず助け舟を出す。
それはまるで歌うように、ギルドとしての言葉を紡いでいた。
その隣でカロルは驚いた顔でユーリを見る。
「ひとりはギルドのために、ギルドはひとりのために。義をもってことを成せ、不義には罰を、ってことですね」
「掟に反しない限りは、個々の意志は尊重する」
エステルが言い換えて言うと、ユーリがさらに付け足した。
「だろ?首領(ボス)」
「ひとりはギルドのために、ギルドはひとりのため・・・」
カロルはギルドの掟となる言葉を復唱する。
それはまるでその言葉を自分の心にあるギルドの誇りに刻んでいるかのようだった。
「・・・・・・そう!それがボクたちの掟!」
カロルの顔がぱっと輝いた。
「今からは私の掟でもある、ということね」
「そんな簡単に決めていいのか?」
「ええ。気に入ったわ。ひとりはギルドのため・・・いいわね」
呆れたように見るユーリに、ジュディスは微笑んで頷いた
「じゃあ・・・」
「掟を守る誓いを立てるわ。私と・・・あなたたちのために」
胸元を手に当てて、ジュディスがはっきりと答える。
まさしくギルドに入る掟を立てた、そんな感じであった。
「あんたの相棒はどうするんだ?」
「心配してくれてありがとう。でも、平気よ、彼なら」
「(彼・・・?)」
リリーティアは顔には出さずに、彼女を訝しく見る。
「相棒って・・・?」
「前に一緒に旅をしてた友達よ」
「へえ、そんな人がいたんだね」
カロルは彼女の言葉をそのまま素直に受け止めているが、リリーティアは勘ぐりながら聞いていた。
「じゃあ、今日からボクらがジュディスの相棒だね」
「よろしくお願いね」
「よろしく!」
「・・・・・・・・・」
微笑むジュディスに、カロルも元気よく応えた。
しかし、リリーティアだけは心の内で彼女のことを探るように窺い見ていた。
ジュディスが竜使いと知る彼女は成り行きとはいえどここまで自分たちと行動を共にし、そして、ギルドに入ることを決めた彼女の意図を推し量っているのである。
リリーティアが考えに耽っている間に一旦話はまとまったと見たユーリたちは野宿の準備を始めようと動き始めた。
「(・・・・・・考えるのはあとにしよう)」
リリーティアはジュディスのことも含めて、今後についていろいろと考えたいことがあったが、一度考えに耽るのをやめ、今夜の野宿のために準備に取り掛かることにした。